心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 その日は、グリムダールの町の宿屋で泊まることにして、翌日、おれたちは出立することになった。
 前の夜は野営とレイダーたちの襲撃で満足に睡眠時間もとっていなかったので、朝までぐっすりだった。

 既に、アドニたちは朝日が昇る前に、町をあとにしていた。
 おれたちは、街道に沿って、エレミエル王国から北東へ向かうべく、馬に乗って移動をはじめた。
 馬車は、”八月の涼風”のものではなく、町の者から借りたものらしい。
 “八月の涼風”におれを加えた七人が馬に騎乗して、土埃が舞うなかを、ゆっくりと進ませた。

 馬——とは言うが、四つ脚の騎乗用の獣ではない。
 この時代は、脚馬(あしうま)と呼ばれる生物が広く、移動や運搬の手段として広く、利用されていた。

 脚馬はその名の通り、二本の丈夫な脚を持ち、一日中、走り回っても疲れない、頑丈な獣だった。
 全身が羽毛に覆われ、長い首と角を持つ、蛇のような頭部、という外見をしている。
 鞍と手綱、鐙があれば、はじめて騎乗する脚馬でも、おれは御するのに問題はなかった。

 街道は石畳ではなく、ただ、土を踏み固めたものだった。
 リア河の西側では、街道と言えば石畳で覆われ、ところどころに四阿や街道名を記したマイルストーンなども整備されているのだけど、ここにはそんなものはない。

 土を固めただけなので、壊れた馬車の車輪や獣の白骨化した死体、折れた剣などが時々、地面から露出していた。
 それを目にして、おれはいよいよ、故郷へと近づいていることを意識させられた。

 懐かしい——これが、東岸域(オリエンタ・レギオン)の日常、というわけだ。
 ケリオン傭兵領では、定期的に騎士や準騎士、見習いの兵士などが街道を巡回していたが、こちらにはそんなものはない。

 エレミエル王国は比較的、治安のいいところだが、それは町や都市のなかは、ということでしかない。
 町を囲む城壁より外に出てしまえば、自分の身は自分で守るのが基本だ。

 今日は風が強く、上空を雲が覆っている。
 陽の光は直接、届かず、ぎらつく暑気は感じずに済みそうだ。

 馬に乗っている間は、鞍の上で動きに合わせて身体を上下に揺らす程度なので、体力的にも楽だ。
 おれたちは、昼休憩の他に、馬を時々、休ませるなどして、街道をゆっくりと移動していった。
 そして、何事もなく、双陽が西の地平線へと傾きかけ、吹き抜ける風も涼しさを含んで来た頃のことだった。

 リンが馬の脚を緩め、おれの隣へと並んできた。
「そのままで。……囲まれているみたいだっ」
 まっすぐ正面を向いたまま、おれと視線を合わせずに、話しかけてくる。

「ん……あぁ」
 と、おれも正面を向いたまま、頷いた。
 それとなく、気配でおれも察してはいた。

 盗賊団か、あるいは獣か。
 またもや、襲撃者に狙われてしまっているみたいだ。

「どうするつもりだ」
「相手をしてやってもいい——けど、もうすぐ、日が暮れる。あんたの意見は?」
「そうだな。突破して、一気に駆け抜けたほうが安全かもしれないが……あんたは、反撃したいって顔をしているな」

「まぁね。ぼくたちが見逃しても、また他の商人や旅人などを襲うだろうからね」
「……いいさ。あんたたちのやり方に従おう」
「ははっ。話がわかるね。それじゃ——いくよ!」

 ぴしり、とリンが手綱を鳴らした。
 腰を浮かし、脚馬を走らせる。
 隊列の間を抜け、一気に先頭へと抜けていく。

 少し遅れて、”八月の涼風”の隊員たちも、リンを追いかける。
 おれもまた、中腰になって、脚馬を走らせた。
 街道の上を飛ぶようにして、風を切りながら、移動する。