心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 銃撃の音が正面から響く。

 同時に、おれはステップで右に跳んだ。
 銃弾が飛び去っていく。
 今はおれの敏捷性が強化されているので、走る速度も上昇している。

 ——見えた!
 木の幹の側で、立ったままでライフルを構えている男が視界に入った。
 間に合わせの革鎧の一部を身体に巻き、胸当てだけを装備している。

 男は、ボルトを操作しようとしているのだが、おれの移動速度に驚いたのか、手間取っている。
 踏み込むと、おれは”剣王の矜恃”を振り上げた。

 男は、斬撃をライフルで受けようとするが、そのライフルごと、おれは斬りつけた。
 ライフルがまっぷたつになり、さらに胸当てをも切り裂いた。
 男が仰向けに倒れ込む。

 脚を止めることなく、おれはさらに次のレイダーを探した。
 あちこちから、悲鳴や銃撃、剣戟の音などが聞こえてくる。

「ソフィ、次だ。レイダーの位置を教えてくれ」
『そのまま、まっすぐ進んで左の茂み』
 おれは、木と木の間を、走り抜けていった。

 ソフィが言った通り、左の茂みのなかに、伏せているレイダーがひとり。
 ライフルの銃口を覗き込む形となる。

『待って。フィル——後ろにもいるわ!』
 ソフィが鋭い声を発する。

『我は撃つ。「エッダの剣」よ。鋭い剣の刃は仇敵を一撃する』
 呪句を唱えると、おれの体の周りで、呪符(フォース・インテンシブ・カード)がぐるぐると回り始めた。
 呪符は、手のひらに収まるくらいの大きさのカードで、一枚ごとに魔力が込められている。

 その魔力を解放することによって、戦闘などで有利な効果をもたらすことができるのだ。
 呪符のうちの一枚が、おれの言葉と共に青い炎に包まれ、そして、消えた。
 ”剣王の矜恃”の刃が、青く輝いた。

 そのまま、おれは剣を構えて、鋭く振り下ろした。
 斬奸刀から、青い風が生じた。

 それが、茂みにいるレイダーに届くと、剣が触れていないのに、レイダーの身体が吹き飛んだ。
 全身に無数の傷が生じ、背中から地面に落下する。
 それきり、動かなくなる。

「アリアンフロッド?」
 背後から、声があがる。
 おれはもう、アリアンフロッドではないが、こんな場所で元アリアンフロッドとの戦闘に巻き込まれてしまうのは、運がないのかもしれない。

 「エッダの剣」はダメージを上げるのと同時に、剣の攻撃範囲を拡大するものだ。
 しかし、呪符の効果は、一度きりだ。
 発動させてしまえば、その効果を持続させることは出来ない。

 振り返ると、レイダーが銃弾が装填済みのライフルを構えていた。
 粗末な、間に合わせの革鎧に、胸当て姿。

 リア河の東部はやはり土地が豊饒ではなく、食べ物などを奪い合うことでしか、生き残れない。
 こいつらも、それなりに事情というものはあるのかもしれない。
 が——他人にものを略奪するような輩を、見逃すことも、できなかった。

 “剣王の矜恃”を構えると、防御姿勢を取る。
 銃撃を至近距離から受けても、いきなり行動不能となることはないと思うが、それなりにダメージは食らうだろう。

 銃声が響いた。
 が——銃弾はおれの身体に届く前に、銀色の大きな盾のようなものにぶつかり、打撃を与えることはなかった。

『防護陣(シールド)が発動しました。防護陣の機能が90パーセント低下しました』
 ソフィが告げる。
 ——そうだった。
 防護陣は、ダメージを完全に防ぐ天恵だ。
 どれほど、大きな打撃を食らっても、まったく無傷のままとなる。

 おれがまったく、銃撃されても無傷であることに、レイダーは驚いたようだ。
「う……うわぁああ!」
 ライフルを投げつけ、逃げだそうとする。

 おれは、その無防備な背中に剣を斬りつけた。
 がくり……と、男は膝をつき、倒れた。

 逃げ出したものの、このレイダーが二度と戻って来ない、とは限らない。
 リスクはなるべく、減らしたほうがいいだろう。

 護衛たちも、レイダーたちに優勢に戦いを進め、戦闘は三十分もかからずに終了した。
 こちらの死者はゼロ。
 アドニと合流し、レイダーたちの武装解除を進め、おれたちはほっとひと息をついた。

『あっけない……というか、これはフィル、あなたの進化した天恵『大地神の祝福』のおかげでしょうね』
 ソフィの言葉に、おれはそうかもしれない、と思った。

 以前の『大地の加勢』でも、この程度のレイダーならば、勝てたのだろうが、もっと苦戦していたことは、明らかだった。
 ただ——この時点でおれはひとつ、忘れていたことがあった。