心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 木々の間には、獣道がついていて、それが奥へと続いていた。
 おれたちは、警戒しながら、その上を歩いていく。

 獣道の上には、特に足あとなどはついていない。
 土を踏みしめながら、おれたちは歩いていった。
 しばらくすると、視界が開けた。
 木々が退き、少し広い空間に出る。

 上から日光が直接差し、明るくなる。
 ずっと向こうには小川があり、草がまばらに生えている。
 ひとりの若い護衛が、気が緩んだのか、ふらふらと光が当たっているほうへ歩き出していく。

 声をかけようとする前に、銃声が響いた。
 胸に命中し、血が噴き出した。
 そして、その若い護衛は地面に倒れ込み、それっきり動かなくなった。

 すぐに、おれはアドニを抱えると、木の陰に隠れた。
 他の護衛たちも同様、木を盾にする。

 雷鳴のような銃声が、続けざまに響いた。
 木の幹が抉れ、地面に跳弾したが、おれたちに命中することはなかった。

 アドニが、しがみついてくる。
 おれは、姿勢を低くして、しばらくの間、じっとしていた。

「ど……ど、どうしましょう。フィルさま。ワタクシ、死にたくありません!」
 地面に伏せて、アドニが言った。
「おれもだよ。まだ、故郷にもたどり着けていないからな」

 銃声が突然、止んだ。
 数秒のことだが、ずいぶんと長いことのようにも感じる。

「おーい。おれたちに、反撃するつもりはない。カートライナーと貨物はそのままにしておくから、黙って見逃してくれないか」
 声をかけてみる。
 返答はない。

 だが、これが通用するほど、甘くはないだろう。
 レイダーは顔や姿を見られなかったとしても、討伐依頼を出されないように、その場にいた者を生かしてはおかないからだ。

 ライフルで攻撃してきているのは、複数いるようだが、銃痕の数や方角などを考えると、狙いはあまり正確ではないようだ。
 その気になれば、レイダー程度なら、力押しでも充分、対応できるはずだ。

 おれ以外の護衛たちの腕がどのくらいのものかは、わからないが、あてにはしないほうがいいだろう。
「アドニ。今から、仕掛けるから、そこで静かにしていてくれよ」
 おれは、そう話しかけると、木の幹に沿って、立ち上がった。

「レイドアーマー展開(アクチュエイト)。ヴァンガード・アーマー、スプレッドアウト」
 呟き、脇腹へと左手を持っていく。
 中指に嵌めている指輪が光り、そして、全身が黒い闇の色に包まれていった。
 闇の色が薄れ、そして、さっきまで旅装束だったおれの姿が、黒地に紫でカラーリングされた軽装の鎧姿へと換装されていく。

 ヴァンガード・アーマーは布がベースだが、回避と呪文の行使に特化しているタイプの防具だ。
 ライフルの銃弾も、命中しなければなんということもない。
 おれは、左手に現われた斬奸刀(ざんかんとう)「剣王の矜恃」を握り直した。
 幅広の、板剣と呼ばれている武器だ。

 斬奸刀——というのは、アリアンフロッドが天賦(てんぷ)を放つための、強力な武器だ。
 レイダー相手に使うのは正直、もったいないが、まぁ、運がなかった、ということで諦めてもらうしかない。

「汝(な)が意によりて、風神は駿馬(しゅんめ)の威力を全天に轟かせしめよ。風の力は我(わ)に矢を届かせることなく、守護の力を示すものなり。なれば、あらゆる呪いを彼方へと吹き飛ばせ!」
 この場に漂う風の地脈の力を集め、呪文を唱えると、それを庇護のイメージへと流し込んだ。

 そして、おれは木の陰から飛び出していった。
 ——たぶん、おれひとりでもレイダーどもの始末はつけられるはずだ。
 銃弾の痕から、だいたい、レイダーたちが隠れ潜んでいる場所は想定している。

 空き地の反対側の、林のなかだ。
 はっきりいって、こんな風に飛び出すだなんて、無謀でしかない。

 護衛たちが数人、援護のためか、木の陰が飛び出してくる。
 戻れ、と口にしても、今さら遅いだろう。
 ——あぁ、もう!

「ソフィ、全員のステータスを強化。ポイントの配分は、おまえに任せる」
『仕様が変更されております。『大地神の祝福』の下位スキルから、お選びください』
 ソフィが、機械的な棒読みで、そう告げる。
 ——そう言えば、そうだった。
 おれの天恵が『大地神の祝福』になってから、いくつか、下位スキルを獲得しており、そちらから、効果を細かく選ぶことができるようになっていた。
「防護陣(シールド)を使用する。アドニも含めて、全員だ」

 そして、おれは今度こそ、地面を蹴って、走り出していった。