心が折れたので、二度と元のパーティには戻りません~僻地ではじめるスローライフ

 荷台の硬いシートに背中をぶつけながら、おれは何度目かのうめき声をあげた。
 シートベルトで身体を固定され、隣や向かい合わせに座っている護衛たちも、同じように顔をしかめている。

 窓の向こうでは、風景がぐらぐらと揺れ、走り去っている。
 トラックがかなりの速度を出しているのが、わかるだろう。

 ラディウス地方をふたつに分断しているリア河——それを渡りきると、景色も人々の暮らしも一変する。
 東部は治安が悪く、争乱の原因に事欠かない、というのが一般的な常識だ。

 ——しかし、ある程度、覚悟はしていたが、こんなにも早く、トラブルに巻き込まれるとは、ね。
 おれは、ため息をついた。

 リア河から東部へ移動する——というダイキニ人の武装キャラバンと交渉し、故郷のアリハタナ村の近くまで護衛として、隊商隊に乗り込むことにしたのだが、一日と経たずにレイダーたちから襲撃を受けることになってしまった。

 襲撃は朝も早い時間——野営をしていたところに、突然、レイダーたちが砲撃してきたのだ。
 キャラバンは三輛編成だったのだが、その時に二輛の武装トラックが破壊され、残る一輛のトラックに飛び乗り、おれたちは逃走を開始した。

 武装トラックは、カートライナーとも呼ばれ、かなり強力な防御用の呪工(エンチャント)がなされているはずなのだが、たった一度の砲撃で撃破されているので、その場で戦うよりも、逃げたほうがいい判断なのだろう。

 後ろから追いかけてきたのは、同じく武装トラックだが、屋根の上に砲塔が載せられている。
 ただし、走っている間は砲撃をすることは出来ないらしい。
 速度をあげて、こちらのカートライナーへ迫ってくる。

 こちらは、車体は頑丈ではあるものの、速度はそれほど、出せないみたいだ。
 間もなく、追いつかれてしまった。
 横に並んで走り、何度も車体をぶつけてくる。
 その度に、カートライナー全体が浮き上がり、バウンドした。

 レイダーは、遺跡などから勝手に強力な古代の兵器を拝借して、略奪をしている連中だ。
 捕まれば、まず、助からないだろう。

 そして、二輛の武装トラックとカートライナーは、丘の斜面を走り抜けていった。
 片側が丘の頂きで、反対側は谷間となっている。
 少しでも、ハンドル操作を間違えたら、谷間へと滑落してしまうだろう。

 こんなところで死にたくはないが、死に戻りの経験が、おれを冷静にさせているのかもしれない。
 ここで死亡しても、また死に戻りをする、という確約はないのだが——荷台のほうにいるおれとしては、すべては運転手に託すしかない。

 武装トラックは、後ろから、数回、体当たりをしてきている。
 そして、カートライナーが悪路をはみ出しかけ、ハンドルを急に切ったところへ、後ろから武装トラックが突っ込んできた。

 カートライナーは斜面側へとぶつかり、それから、大きく跳ねた。
 ふっと、身体が軽くなる。
 今度は、カートライナーは斜面へと軸先を向け、谷間への斜面を走り抜けようとした。
 が——斜面に生えている木に数回、ぶつかると、そこまでだった。

 身体がシートから浮き、そして、がくん……とベルトによって引っ張られた。
 車体が完全にひっくり返り、ぐるぐると回転した。
 おれは身体を丸くして、頭を抱えるようにして、身を守った。
 ようやく回転が止まると、おれは逆立ちをしているように、天井を下にして、シートベルトで固定されていた。

『ひどいドライブでしたねぇ』
 ソフィの文句を無視して、おれはシートベルトを解除した。
 天井に降りる。

 怪我は何とか、していないようだ。
 護衛たちの声をかけ、早いところ、ここから逃げ出すように言う。
 すぐにでも、レイダーたちはこのカートライナーを取り囲んでくるだろう。

 荷台のなかは、完全にひっくり返り、貨物のコンテナがあちこちに落ちてはいるものの、歩くのに邪魔にはならなかった。
 後部ドアまで近づくと、歪んだそれをちょっと、開けてみる。
 耳を澄ましてみるが、レイダーたちはまだ、谷間へはたどり着いていないのだろうか。

 後部ドアから地面までは、飛び降りるのにちょっと勇気がいるが、そのくらいだった。
 おれは、身を乗り出して、無事、着地を成功させた。
 残りの護衛たちも、飛び降りてくる。

 谷間は木々が密生し、枝葉を広げていた。
 少し、緑の匂いがきつい。
 頭上をちらりと見上げると、双陽が朝早い日の光を放ってきている。
 振り返ると、カートライナーは完全に地面の凹みに車体をめり込ませており、もうこれを走らせることは、出来そうになかった。

「護衛の方、護衛の方!」
 カートライナーの陰から、小柄なマントを肩にかけた人物が飛び出してきた。
「運転していた、ワタクシの相棒は亡くなってしまいました。どうか、ワタクシを助けてくださいませ!」

 小柄——とは言うが、背丈はおれの腰までぐらいしかない。
 子供ぐらいにしか見えないが、そうではない。
 ダイキニ族は、これで成人なのだ。

 くちばしと、黒くて大きな丸い瞳の持ち主で、サイズを別にすると、直立した鳥の雛に似ている。
 獣人をはじめとする、メディシアン大陸に住んでいる種族のひとつで、商取引に才能があるのが、ダイキニ族だった。

 荒事などには向いていないが、団結力が高く、大陸の都市と都市を結ぶ交易ルートにはすべて、ダイキニ族が関わっている、とされていた。
 アドニは、この武装キャラバンの主人で、おれの依頼主でもある。

「大丈夫だ。おれから、離れるなよ」
「はい! アドニ、フィルさまから、離れません!」

 言葉使いが、どうも幼いので、調子が狂うのだが、機嫌を損ねさせてしまうと、ダイキニ族は実にやっかい相手でもある。
 ここは怪我をさせずに、乗り切りたいところだ。

「よし……まずは、カートライナーから離れよう。レイダーたちは、貨物を略奪するほうを優先させるかもしれない」
 おれは、腰に抱きついてきているアドニの頭をぽんぽん、と撫でてやると、谷間を移動することにした。