サヨナラの理由は選択の余白に詰めて

今日は、病院に行く前にスーパーに寄った。
陽翔との約束通りプリンを買う。
陽翔が好きなものだから、少しだけ多めに買ってあげた。

病室に着くと、陽翔は寝ていた。
「陽翔」
「……ん」
「プリン、買ってきたよ」
「……やった」
「食べる?」
「いや、あとでにする」
「珍しいね」
「今眠いもん」
「そっか」
私はプリンを冷蔵庫に入れた。
「姉ちゃん」
「ん?」
「学校は?」
「今日も休み」
「蓮兄ちゃんも来る?」
「夕方来るって」
「わかった」
そう言って、陽翔は安心したように目を閉じた。
私はその横顔を見ていた。
小さくなった。以前よりずっと。
でも、まだ陽翔だった。
私の弟だった。
ゲームに負ければ怒るし、プリンがあれば喜ぶ。
蓮が来ると嬉しそうにはしゃぐ、そんなどこにでもいる普通の男の子だった。
「姉ちゃん」
「何?」
「僕、この前怖いって言ったけど」
「うん」
「姉ちゃんがいるなら、大丈夫かも」
「……」
私は何も言えなかった。
「……何泣いてるの?」
「泣いてない」
「泣いてるじゃん」
「うるさい」
「姉ちゃん、泣き虫」
「陽翔のせいだよ」
「ごめん」
「謝らないでよ」
「じゃあ、笑って」
「無理」
「じゃあ僕も笑わない」
「それはもっと嫌」
そう言いながら、一番笑っていたのは陽翔だった。私のことも笑かしてきて、その場には花が咲いた。
その瞬間だけは、病気のことを忘れられた。