「でも俺、器用なタイプじゃないからさ。姫活と掛け持ちするのは無理かも。どっちも中途半端になっちゃうだろうから」
どっちも適当になるくらいなら、最初から部活は諦めた方がいいかなって思う。
俺は軽い気持ちで何気なく言っただけなのに、高嶺先輩は少し表情を曇らせた。
「……ごめんね。俺が姫に指名したから」
「あ……」
そっか。俺が姫になったのって高嶺先輩が原因なんだ。でも姫になったからって部活は出来るし、部活に入らないって決めたのは俺が中途半端にしたくないだけで、先輩に責任はない。
そんなつもりじゃなかったのに、高嶺先輩を責める言い方になっちゃったかな。先輩に暗い顔、させるつもりはなかったのに。
「いや、えっと……指名したのは先輩だけど、やるって決めたのは俺だから!」
本当に嫌なら俺は断固としてやらない。だから、高嶺先輩が責任を感じる必要はないんだ。
「姫って名称とスカートはどうかと思うけど、姫活のおかげで充実してるし! 姫活のおかげでこうやって、みんなが楽しめる体育祭を考えられるんだし!」
「姫野くん……」
「だから大丈夫!」
俺は力強くそう言い切った。
「ならよかった。……でも、無理はしないでね」
先輩はそう言うと小さく笑う。
「高嶺先輩こそ無理する前に俺を頼って下さいよ。相棒なんだから」
先輩って自分の内に色々ため込みそうに見えるから、先輩が俺に頼れって言うなら先輩も俺を頼って欲しい。俺の方が年下だからちょっと頼りないかもだけど。
さて、やることが決まってきたら、あとは行動あるのみだ。
「俺、早速部活を回ってきますね! ジッとしていられない性分なんで」
気合を入れるために俺は軽く肩を回した。白鷺は部が多いから、一日に何個回れるだろう。
「じゃあ俺は全生徒へ向けてのアンケート作りをするよ。あと、柏木先生に今回のことを軽く話しておこうかな」
「柏木先生って……顧問の?」
「そう。初日に顔を合わせたでしょ」
「はい。それから何度か生徒会室でも顔を合わせましたよ」
いつもやる気なさげで日誌読んだりしているだけだけど。柏木先生に何か相談したところで力になってくれるとは俺には思えない。
でも先輩は軽く首を横に振る。
「普段はああだけど、生徒のために動いてくれる人だよ。よく日誌を読み込んでいるけど、あれもクラスの生徒のことをよく知るためだからね」
「全然そんな風に見えないですけどね」
「そのうち分かるよ。……でも日誌か。いいかもしれないな」
先輩は生徒会室の棚から備品のノートを一冊取り出すと、表紙に大きくこう書いた。
「姫活日誌……?」
「そう。今回の件みたいに別々に行動することも出てくるだろうから、報告手段があったらいいなと思って」
「報告……姫活で起きたこととか?」
「あと、もっとこうすればいいかもってアイディアとか。メールでもいいかなって思ったんだけど、ノートにまとめたら次の姫たちの参考にもなるでしょ」
「あ、それは確かに」
姫活をやり始めてちょっと困ったことが、姫は白鷺の伝統なんて言いつつ、なんの記録もないから何をしていいか分からないところだったりする。
「俺も白鷺に入学して、君以外に二人の姫を見てきたけど、正直姫野くん以外の姫がまともに活動してるの、見たことがあまりないんだよね。多分、君が歴代姫で一番アグレッシブじゃないかな」
「……褒められてる?」
「もちろん」
他意のなさそうな笑顔でそう言うんだから、高嶺先輩的には褒めているんだろう。氷室先輩が横にいたら、落ち着きがないとかおせっかいなだけとか言うんだろうけど。
「ともかく、これからは日誌に色々書いていこう。次の姫のためにもね」
「……分かりました。でも俺、あんまり文章とか得意じゃないから、笑わないでくださいよ?」
記念すべき一ページ目は姫から、と高嶺先輩にノートを渡され、俺はそれをそっと胸に抱きしめた。
今後の姫に繋ぐ大事なノート。それを高嶺先輩と二人で作っていく。なんだか日誌というよりも姫活を通じた交換日記みたいで、ちょっとこそばがゆい。
「じゃ、今度こそ行ってきますね」
「うん。事務的な作業はこっちに任せて。気を付けてね」
高嶺先輩に見送られ、俺は生徒会室を後にする。
姫になって初めての大仕事って感じだな。
ワクワクとドキドキ、あと俺に出来るかなっていうちょっとの不安が俺の胸の中にある。
でも俺には高嶺先輩がいてくれるから。きっと大丈夫だ。
みんなが楽しめる体育祭にするため、頑張ろう。
姫活日誌の記念すべき一ページ目には何を書こうか考えながら、俺は部室の並ぶ校舎へと足を向けた。
そして迎えた体育祭当日。
賑やかなグラウンドを見て、ついにこの日が来たんだなって実感する。
正直、ここまで来るのは思っていた以上に大変だった。
生徒会のアンケートを集計して、俺は放課後になるたび、色んな部活を走り回った。運動部の連中は競技を増やせばいいと自分たちの得意分野を押してくるし、文化部からはそもそも競争自体が苦手だという意見や、体育祭そのものに消極的な意見も多かった。
中には体育祭そのものに興味がない奴がいて、その筆頭が氷室先輩だ。
「そもそも、競ってなんになるんですか。賞金や賞品もないのに」
それを言っちゃおしまいだよ、と思うと同時に、まあ分からんでもないとも思う。氷室先輩やみんなの言葉を俺は姫活日誌に書きとめ、高嶺先輩と意見を交換し、たどり着いた答えというのが――。
『これより生徒会主催の借り人競争を行います。参加される選手の皆さんは……』
そう。この借り人競争だ。
「身体能力じゃなく、みんなで協力してゴールするような競技を作ろう」
アンケートや俺の集めた意見をまとめた先輩は、真剣なまなざしでそう言った。
「みんなで協力する競技なら、姫活の目標でもある居場所を作る、という目的にもいいんじゃないかな」
「身体能力はあまりいらない競技になるんですよね?」
「うん。でないと運動が苦手な生徒が参加しにくいからね。みんなで楽しめる体育祭が姫の願いでもあるでしょ」
俺は少し考えてから、ゆっくり口を開く。
「なら……借り物競争……いや、借り人競争とかどうだろ?」
「借り人?」
「スタート地点のすぐ近くにお題を置いて、選手はそのお題に書かれた人を集めるんだ。漫画が好きな人とか、犬を飼ってる人とか。借り物にするより、人を集めた方が話のきっかけにもなるし、お題は話のネタにもなるじゃん?」
「ああ……いいアイディアかもしれない、それ」
「本当? でもこれが新競技なんて先生たちが納得してくれるかなぁ」
「任せて。そこは俺が考えるよ。お題はどうする? この辺りは教師陣に突っ込まれるポイントだよ」
「んじゃ、そこは俺がまたみんなに聞いて回ってみる」
そこから俺たちは、放課後になるたびに生徒会室で話し合った。
お題の内容を考え、柏木先生に確認してもらい、実際に競技として成立するのか何度も見直した。
最初は「そんな競技、やる必要があるのか?」と半信半疑だった先生たちも、俺たちが何度も企画書を見せにいくたびに少しずつ興味を持ってくれたようで、少しずつ味方も増えていった。
「高嶺先輩、借り人競争をやる時間帯なんだけど……」
「うん。言ってみて?」
「……今の比較的早い時間帯じゃなくて、お昼……特に昼食が終わってすぐくらいの時間がいいと思うんだ」
「理由を聞いてもいいかな」
「午前中ってまだ緊張してるかなって思うし、昼食後ってみんな空気が緩むからさ。運動が苦手でもやりやすいかなって……」
なんとなくそう思っただけだから、自信がなくて語尾が小さくなっていく。
午前中がいいんじゃないかって決めたのは先生だし、俺の意見より正しい気もした。
でも先輩は俺の意見を頭ごなしに反対したり、笑ったりしなかった。
「じゃあその意見を通すにはどうしたらいいか、一緒に考えよう」
「……いいの?」
ただでさえ忙しいのに、ますます先輩の負担になってしまう。俺の思い付きが仕事を増やしてしまうことになるのが申し訳なかった。
「もちろん。やると決めたからには妥協はなしだよ。些細な意見でも出し合って、納得できるものを作っていかなきゃ。それが発案者の責任でもあるよ」
責任、という高嶺先輩の言葉に俺は少しだけ背筋を伸ばす。
そうだ。先輩は俺のバディだから力になってくれているけど、発案者は俺なんだ。俺が、しっかりやらないと。
その後、俺たちは企画書をまとめて先生たちにプレゼンした。俺にとって人生初めてのプレゼン。高嶺先輩に何度も助けてもらって、俺の言葉で先生たちに伝えたいと思って頑張った。
もちろんすんなり認めてもらえはしなかった。競技の安全面や時間配分についていくつも質問されたりもした。くじけそうになったら、高嶺先輩の発案者の責任って言葉が俺の背中を押してくれたっけ。
そうやって何度も話し合いを重ねた結果、最終的には――。
「分かった。昼食後の時間帯に新競技、借り人競争を試してみよう」
ようやく俺たちの努力は実を結んだんだ。
そしてまさに今、俺たちの考えた借り人競争が大勢の生徒を前にして始まろうとしている。
うん、ちょっと感無量だ。
借り人競争に出場することになっている河合が、緊張した面持ちで選手入場口にいる。河合の回りも、ちょっと強張った顔をした奴が多い。運動が苦手な人におすすめの競技って名目で選手を募集したから、河合のように体育祭にネガティブな感情を持つ選手が多いはずだ。
なんだか俺まで緊張してきた。本当にみんな楽しめる競技になっているかな。何度も話し合って試行錯誤を繰り返したけど、それでも駄目だったら――。
「こーら、姫。みんなが楽しめる体育祭にするって決めた姫が、そんな怖い顔してどうするの」
俺のすぐそばで借り人競争の行く末を見守っている高嶺先輩がそう言った。
「怖い顔になってました?」
「うん。眉間に皺。もうちょっと力抜いて」
「……なんか緊張しちゃって。失敗したらどうしようって」
自分でも珍しいと思うくらい、弱気になっている。
高嶺先輩はそんな俺に、笑顔で活を入れた。
「頑張れば失敗しないわけじゃないけど、今は信じよう。少なくとも俺は信じるよ。姫がどれだけ頑張ったかは、俺が一番近くで見ていて、知っているから」
真っすぐ見つめられてそう言われると、俺は頷くしかなかった。
そうだ。やれることは全てやったんだ。だから後は信じるしかない。
第一走者がスタート地点につく。河合もその顔ぶれの中にいた。きっと俺、今は河合と同じ緊張した顔をしている。
「位置について、よーい――」
パンッ! とピストルが乾いた音を立てる。選手が一斉に走り出し、お題の書かれたメモを手に取った。
さて、河合はどんなお題を取っただろう。そんなに難しいお題は入れていないはずだけど、メモを開いた選手たちの足が、次々止まっていく。
……うん。ここまでは高嶺先輩の予想通り。
「運動にネガティブな印象のある生徒って、どちらかと言うと内気な人が多い気がするんだ。だから借り人競争で人に声を掛けなきゃいけないのも、負担になるかもしれない」
「分かります。河合とか固まりそう」
「だからそこを打開するための策を仕掛けようと思う」
「策、ですか?」
「うん。いくつか用意しよう」
高嶺先輩の提案はこうだった。まず、お題メモを置いたそばに、生徒会の人間を数名配置する。なかなか自分から動けない選手に、動けるようさりげなく誘導するのが彼らの役目だ。
「あと応援席側の前方に、声を掛けやすい生徒を置こうと思う。積極的にお題を聞こうとするような生徒がいいね」
「あと、思っていたんですけど……」
言っていいもの悩んだけど、俺は思い切って提案してみることにした。
「体育祭の優勝チームに、なにか賞品……特典をつけません?」
これは氷室先輩の話を聞いて、前から思っていたことだった。
どっちも適当になるくらいなら、最初から部活は諦めた方がいいかなって思う。
俺は軽い気持ちで何気なく言っただけなのに、高嶺先輩は少し表情を曇らせた。
「……ごめんね。俺が姫に指名したから」
「あ……」
そっか。俺が姫になったのって高嶺先輩が原因なんだ。でも姫になったからって部活は出来るし、部活に入らないって決めたのは俺が中途半端にしたくないだけで、先輩に責任はない。
そんなつもりじゃなかったのに、高嶺先輩を責める言い方になっちゃったかな。先輩に暗い顔、させるつもりはなかったのに。
「いや、えっと……指名したのは先輩だけど、やるって決めたのは俺だから!」
本当に嫌なら俺は断固としてやらない。だから、高嶺先輩が責任を感じる必要はないんだ。
「姫って名称とスカートはどうかと思うけど、姫活のおかげで充実してるし! 姫活のおかげでこうやって、みんなが楽しめる体育祭を考えられるんだし!」
「姫野くん……」
「だから大丈夫!」
俺は力強くそう言い切った。
「ならよかった。……でも、無理はしないでね」
先輩はそう言うと小さく笑う。
「高嶺先輩こそ無理する前に俺を頼って下さいよ。相棒なんだから」
先輩って自分の内に色々ため込みそうに見えるから、先輩が俺に頼れって言うなら先輩も俺を頼って欲しい。俺の方が年下だからちょっと頼りないかもだけど。
さて、やることが決まってきたら、あとは行動あるのみだ。
「俺、早速部活を回ってきますね! ジッとしていられない性分なんで」
気合を入れるために俺は軽く肩を回した。白鷺は部が多いから、一日に何個回れるだろう。
「じゃあ俺は全生徒へ向けてのアンケート作りをするよ。あと、柏木先生に今回のことを軽く話しておこうかな」
「柏木先生って……顧問の?」
「そう。初日に顔を合わせたでしょ」
「はい。それから何度か生徒会室でも顔を合わせましたよ」
いつもやる気なさげで日誌読んだりしているだけだけど。柏木先生に何か相談したところで力になってくれるとは俺には思えない。
でも先輩は軽く首を横に振る。
「普段はああだけど、生徒のために動いてくれる人だよ。よく日誌を読み込んでいるけど、あれもクラスの生徒のことをよく知るためだからね」
「全然そんな風に見えないですけどね」
「そのうち分かるよ。……でも日誌か。いいかもしれないな」
先輩は生徒会室の棚から備品のノートを一冊取り出すと、表紙に大きくこう書いた。
「姫活日誌……?」
「そう。今回の件みたいに別々に行動することも出てくるだろうから、報告手段があったらいいなと思って」
「報告……姫活で起きたこととか?」
「あと、もっとこうすればいいかもってアイディアとか。メールでもいいかなって思ったんだけど、ノートにまとめたら次の姫たちの参考にもなるでしょ」
「あ、それは確かに」
姫活をやり始めてちょっと困ったことが、姫は白鷺の伝統なんて言いつつ、なんの記録もないから何をしていいか分からないところだったりする。
「俺も白鷺に入学して、君以外に二人の姫を見てきたけど、正直姫野くん以外の姫がまともに活動してるの、見たことがあまりないんだよね。多分、君が歴代姫で一番アグレッシブじゃないかな」
「……褒められてる?」
「もちろん」
他意のなさそうな笑顔でそう言うんだから、高嶺先輩的には褒めているんだろう。氷室先輩が横にいたら、落ち着きがないとかおせっかいなだけとか言うんだろうけど。
「ともかく、これからは日誌に色々書いていこう。次の姫のためにもね」
「……分かりました。でも俺、あんまり文章とか得意じゃないから、笑わないでくださいよ?」
記念すべき一ページ目は姫から、と高嶺先輩にノートを渡され、俺はそれをそっと胸に抱きしめた。
今後の姫に繋ぐ大事なノート。それを高嶺先輩と二人で作っていく。なんだか日誌というよりも姫活を通じた交換日記みたいで、ちょっとこそばがゆい。
「じゃ、今度こそ行ってきますね」
「うん。事務的な作業はこっちに任せて。気を付けてね」
高嶺先輩に見送られ、俺は生徒会室を後にする。
姫になって初めての大仕事って感じだな。
ワクワクとドキドキ、あと俺に出来るかなっていうちょっとの不安が俺の胸の中にある。
でも俺には高嶺先輩がいてくれるから。きっと大丈夫だ。
みんなが楽しめる体育祭にするため、頑張ろう。
姫活日誌の記念すべき一ページ目には何を書こうか考えながら、俺は部室の並ぶ校舎へと足を向けた。
そして迎えた体育祭当日。
賑やかなグラウンドを見て、ついにこの日が来たんだなって実感する。
正直、ここまで来るのは思っていた以上に大変だった。
生徒会のアンケートを集計して、俺は放課後になるたび、色んな部活を走り回った。運動部の連中は競技を増やせばいいと自分たちの得意分野を押してくるし、文化部からはそもそも競争自体が苦手だという意見や、体育祭そのものに消極的な意見も多かった。
中には体育祭そのものに興味がない奴がいて、その筆頭が氷室先輩だ。
「そもそも、競ってなんになるんですか。賞金や賞品もないのに」
それを言っちゃおしまいだよ、と思うと同時に、まあ分からんでもないとも思う。氷室先輩やみんなの言葉を俺は姫活日誌に書きとめ、高嶺先輩と意見を交換し、たどり着いた答えというのが――。
『これより生徒会主催の借り人競争を行います。参加される選手の皆さんは……』
そう。この借り人競争だ。
「身体能力じゃなく、みんなで協力してゴールするような競技を作ろう」
アンケートや俺の集めた意見をまとめた先輩は、真剣なまなざしでそう言った。
「みんなで協力する競技なら、姫活の目標でもある居場所を作る、という目的にもいいんじゃないかな」
「身体能力はあまりいらない競技になるんですよね?」
「うん。でないと運動が苦手な生徒が参加しにくいからね。みんなで楽しめる体育祭が姫の願いでもあるでしょ」
俺は少し考えてから、ゆっくり口を開く。
「なら……借り物競争……いや、借り人競争とかどうだろ?」
「借り人?」
「スタート地点のすぐ近くにお題を置いて、選手はそのお題に書かれた人を集めるんだ。漫画が好きな人とか、犬を飼ってる人とか。借り物にするより、人を集めた方が話のきっかけにもなるし、お題は話のネタにもなるじゃん?」
「ああ……いいアイディアかもしれない、それ」
「本当? でもこれが新競技なんて先生たちが納得してくれるかなぁ」
「任せて。そこは俺が考えるよ。お題はどうする? この辺りは教師陣に突っ込まれるポイントだよ」
「んじゃ、そこは俺がまたみんなに聞いて回ってみる」
そこから俺たちは、放課後になるたびに生徒会室で話し合った。
お題の内容を考え、柏木先生に確認してもらい、実際に競技として成立するのか何度も見直した。
最初は「そんな競技、やる必要があるのか?」と半信半疑だった先生たちも、俺たちが何度も企画書を見せにいくたびに少しずつ興味を持ってくれたようで、少しずつ味方も増えていった。
「高嶺先輩、借り人競争をやる時間帯なんだけど……」
「うん。言ってみて?」
「……今の比較的早い時間帯じゃなくて、お昼……特に昼食が終わってすぐくらいの時間がいいと思うんだ」
「理由を聞いてもいいかな」
「午前中ってまだ緊張してるかなって思うし、昼食後ってみんな空気が緩むからさ。運動が苦手でもやりやすいかなって……」
なんとなくそう思っただけだから、自信がなくて語尾が小さくなっていく。
午前中がいいんじゃないかって決めたのは先生だし、俺の意見より正しい気もした。
でも先輩は俺の意見を頭ごなしに反対したり、笑ったりしなかった。
「じゃあその意見を通すにはどうしたらいいか、一緒に考えよう」
「……いいの?」
ただでさえ忙しいのに、ますます先輩の負担になってしまう。俺の思い付きが仕事を増やしてしまうことになるのが申し訳なかった。
「もちろん。やると決めたからには妥協はなしだよ。些細な意見でも出し合って、納得できるものを作っていかなきゃ。それが発案者の責任でもあるよ」
責任、という高嶺先輩の言葉に俺は少しだけ背筋を伸ばす。
そうだ。先輩は俺のバディだから力になってくれているけど、発案者は俺なんだ。俺が、しっかりやらないと。
その後、俺たちは企画書をまとめて先生たちにプレゼンした。俺にとって人生初めてのプレゼン。高嶺先輩に何度も助けてもらって、俺の言葉で先生たちに伝えたいと思って頑張った。
もちろんすんなり認めてもらえはしなかった。競技の安全面や時間配分についていくつも質問されたりもした。くじけそうになったら、高嶺先輩の発案者の責任って言葉が俺の背中を押してくれたっけ。
そうやって何度も話し合いを重ねた結果、最終的には――。
「分かった。昼食後の時間帯に新競技、借り人競争を試してみよう」
ようやく俺たちの努力は実を結んだんだ。
そしてまさに今、俺たちの考えた借り人競争が大勢の生徒を前にして始まろうとしている。
うん、ちょっと感無量だ。
借り人競争に出場することになっている河合が、緊張した面持ちで選手入場口にいる。河合の回りも、ちょっと強張った顔をした奴が多い。運動が苦手な人におすすめの競技って名目で選手を募集したから、河合のように体育祭にネガティブな感情を持つ選手が多いはずだ。
なんだか俺まで緊張してきた。本当にみんな楽しめる競技になっているかな。何度も話し合って試行錯誤を繰り返したけど、それでも駄目だったら――。
「こーら、姫。みんなが楽しめる体育祭にするって決めた姫が、そんな怖い顔してどうするの」
俺のすぐそばで借り人競争の行く末を見守っている高嶺先輩がそう言った。
「怖い顔になってました?」
「うん。眉間に皺。もうちょっと力抜いて」
「……なんか緊張しちゃって。失敗したらどうしようって」
自分でも珍しいと思うくらい、弱気になっている。
高嶺先輩はそんな俺に、笑顔で活を入れた。
「頑張れば失敗しないわけじゃないけど、今は信じよう。少なくとも俺は信じるよ。姫がどれだけ頑張ったかは、俺が一番近くで見ていて、知っているから」
真っすぐ見つめられてそう言われると、俺は頷くしかなかった。
そうだ。やれることは全てやったんだ。だから後は信じるしかない。
第一走者がスタート地点につく。河合もその顔ぶれの中にいた。きっと俺、今は河合と同じ緊張した顔をしている。
「位置について、よーい――」
パンッ! とピストルが乾いた音を立てる。選手が一斉に走り出し、お題の書かれたメモを手に取った。
さて、河合はどんなお題を取っただろう。そんなに難しいお題は入れていないはずだけど、メモを開いた選手たちの足が、次々止まっていく。
……うん。ここまでは高嶺先輩の予想通り。
「運動にネガティブな印象のある生徒って、どちらかと言うと内気な人が多い気がするんだ。だから借り人競争で人に声を掛けなきゃいけないのも、負担になるかもしれない」
「分かります。河合とか固まりそう」
「だからそこを打開するための策を仕掛けようと思う」
「策、ですか?」
「うん。いくつか用意しよう」
高嶺先輩の提案はこうだった。まず、お題メモを置いたそばに、生徒会の人間を数名配置する。なかなか自分から動けない選手に、動けるようさりげなく誘導するのが彼らの役目だ。
「あと応援席側の前方に、声を掛けやすい生徒を置こうと思う。積極的にお題を聞こうとするような生徒がいいね」
「あと、思っていたんですけど……」
言っていいもの悩んだけど、俺は思い切って提案してみることにした。
「体育祭の優勝チームに、なにか賞品……特典をつけません?」
これは氷室先輩の話を聞いて、前から思っていたことだった。
