王子として姫を頼るなんて情けない。でも琉生なら、きっと諦めずになんとかしようとする。
だから願わずにはいられなかった。
琉生。俺を助けてくれ、と。
俺の願いを聞き届けたように琉生の声が聞こえてきたのは、まさにこの瞬間だった。
『突然の放送ごめんなさい。姫です。姫野琉生です』
校長と柏木先生が顔を見合わせる。琉生が校内放送を使うことは知らされていなかったのか、突然のことに動揺しているみたいだった。
父さんも当事者である姫本人のまさかの登場に、思わず足を止めている。
『最近の生徒会の動きやアンケートから薄々気付いている人もいるかもしれませんが、姫制度は今、空前の……じゃない。風前の灯火に立たされています』
琉生の声は普段より硬い。言葉を選んでいるのが節々から伝わってくる。
『隠しているつもりはなかったけれど、姫制度には過去、大きな問題がありました。姫制度がきっかけで、とても傷付いて学校を去った姫もいます。人知れず泣いていた姫も、たくさんいました』
改めて言葉にされると胸に響く。過去、助けられなかった姫たちの悲しそうな顔が頭に浮かんだ。
『俺はその話を聞いて、姫制度なんてなくした方がいいのかもしれないって思いました。そのことがきっかけで、奏真先輩ともちょっと気まずくなったりもして……友達に迷惑をかけたりもしました』
「琉生……」
『でも、なくした方がいいのかもって思っても、俺は姫になって嫌なことばかりだったわけじゃない。だって俺にはみんながいてくれたから!』
硬かった琉生の声が、一段高くなる。
『姫になって、色んな人と話をしました。すれ違うだけで姫ちゃんって呼んでくれる先輩がいたり、ご飯を食べる席がなかったら声を掛けてくれたり、体育祭だってみんなのお陰で大盛り上がりです。俺にとっての姫制度は、居場所をなくすものじゃなくて、俺の居場所を作ってくれたものなんです』
そっか。琉生は姫をそんな風に捉えていてくれたんだ。無理に姫にしてしまった罪悪感が胸の底にずっとあったけれど、それが浄化されていくような気がした。
『俺は思いました。俺にとって良かったからって、それでいいわけじゃない。過去の姫が傷付いたなら、同じことを繰り返すようなことはしちゃ駄目だって。俺は、これから姫になる後輩にも、姫になって良かったって思ってほしい』
琉生の言葉が胸に響く。真っすぐで嘘偽りのない琉生自身の言葉は、大人である校長や柏木先生、そして父さんにも届いていた。
『姫制度を守ることが目的になっちゃいけない。誰かが傷付く制度なら、それは変えていかなくちゃいけない。みんなで変えていけばいいんです』
琉生はそこでいったん言葉を止めた。必死で考えて、伝えようとしているような間だった。
『姫は、ただ可愛がられるだけの存在じゃない。一年の代表として、新しい生活を送る一年の居場所を作る存在。そして、外からやってきた新しい風なんです。外から来たばかりだからこそ、白鷺の問題に気付ける。改善して、もっと良い学校にしていける存在。それが本来の姫なんだと思います。……でもそんな仕事なんて一人じゃやっぱり無理で』
琉生は一度大きく息を吸う。
『俺には、支えてくれた人がたくさんいました。一緒に姫活をしてくれた人。困っていたら助けてくれた人。話を聞いてくれた人。生徒会のアンケートに答えてくれた人や、河合や内藤に、氷室先輩や柏木先生。生徒会のみんな。そして――』
俺は琉生が次に言う言葉を知っている。知っていて、少し泣きそうになっている。
『俺を姫にしてくれた、奏真先輩』
じわり、と胸が暖かくなった。父さんに委縮していた心が、解きほぐされていく。
『奏真先輩は俺を一人にしませんでした。過去の姫制度に疑問を持ち、ずっと一人で戦っていたんです。同じ過ちは繰り返さないためにも、俺を絶対に一人にしなかった。ずっとそばで、支えてくれていました』
父さんの目が、俺を捉えている。普段ならすぐに父さんから目を逸らすけれど、俺も正面からそれを受け止めた。
俺は今、一人じゃない。琉生が一緒に戦ってくれているんだ。
『俺はこのまま姫制度を終わらせたくない。変えていきたいんです。これからは姫だけに重荷を背負わせるんじゃなく、みんなで白鷺学園を良くしていきたい。それには俺だけじゃ何も出来ません。生徒会だけでも、先生だけでも出来ないんです。白鷺学園の生徒みんなの力がないと出来ないんです』
柏木先生が琉生の演説を聞いて、満足そうに微笑んでいた。
柏木先生も俺と同じように、過去の姫たちの問題を心苦しく思っていたのを俺は知っている。だからこそ当事者である姫の力強い声が、嬉しくて頼もしいに違いない。俺もそうだから、よく分かる。
『白鷺学園の姫制度をどうしていくのか、俺たちみんなで考えましょう!』
自然と俺は頷いていた。そして柏木先生や校長も同じだった。
『力を貸してくれる人は、今から校庭に来てください。お願いします!』
放送はそこで切れた。
柏木先生も校長も父さんも、誰も何も言わなかった。ただ琉生の言葉にみんな胸を打たれていた。
廊下がにわかに騒がしくなる。どこにそんなに生徒が残っていたのか、静かだった放課後の校舎が息を吹き返したように賑やかになっていく。
「なんか姫ちゃんピンチっぽいぞ!」
「いつも楽しませてもらってるから、たまには手を貸さないと」
「姫制度がなくなるのは寂しいよな」
生徒たちが口々にそう言いながら、廊下を駆けていく。向かう場所は一つだろう。
柏木先生は席を立つと、ゆっくりと窓へ近づいた。四階の来賓室からは校庭が一望できる。
校庭を見下ろした柏木先生は、目を見開くと腹を抱えて笑い始めた。
「か、柏木先生……?」
校長が不審げにそう呟く。
校庭には一体、どんな光景が広がっているのだろう。
俺は柏木先生のそばに立つと、眼前に広がる光景を一望する。
校庭の中央には琉生がいた。姫の証であるスカートを身に着け、堂々と仁王立ちしていた。
その周囲にはナイトくんや河合くんと言った見知った姿や、部活の最中に駆けつけたのか、ユニフォーム姿の生徒たちが琉生を囲むように立っていた。
校舎からは次々と生徒が琉生の元へ駆けつける。頭を抱えた律も、ゆっくりと校庭へ姿を見せた。
もしかして、今学校に残っている生徒は、みんな校庭に集まっているんじゃないか。そう思いたくなるほど大勢の生徒が、琉生の呼びかけに応じてくれている。
「ほんとに、もう……。琉生はすごいことしてくるんだから……」
柏木先生が笑った理由も分かる。だって俺もこの光景を見て笑いそうになったから。
なんでそんなに勇ましいんだろ。スカート姿なのに、すごくかっこ良い。
やっぱり俺の選んだ姫は、ひと味違う。
ずっと琉生を見つめていると、琉生はこちらに気付いたのか大きく両手を振った。
「奏真先輩! みんな俺たちの味方ですー! みんなで戦って、みんなで姫制度を良くしていきましょうー!」
琉生の言葉に、琉生のそばにいた生徒たちもこちらを見上げて歓声を上げる。
俺は一人で戦っているんじゃない。みんなが一緒だった。
いつの間にか父さんもそばに来て、校庭を見下ろしていた。初めて目にするスカート姿の男子生徒に声も出ないようだったが、それよりも姫がこれほど多くの生徒に愛されていることに驚いている様子だった。
「なんなんだ、これは……」
そう呟きたくなる父さんの気持ち、俺にはよく分かる。
「これが息子さんがやってきた結果ですよ」
柏木先生は父さんに向かってそう言った。
過去の姫たちをそばで見てきて、俺は無力感を味わった。自分が生徒会長になったら、姫を傷付けない、孤独にさせないって心に誓ったんだ。そして、未来の姫たちのためにも、姫制度を変えていかなきゃって。
その結果が、俺の目の前に広がっている。
ずっと親の言うことしか聞いてこなかった俺が、自分の意思でやろう、やらなければと心に決めたことの答えが、きっとこれなんだ。
俺一人の力じゃ出来ないけれど、みんなが力を貸してくれる。何より、琉生がこうやって俺を引っ張ってくれる。
本当に琉生は、最高の姫だ。
「俺って本当に人を見る目があるなぁ」
笑いたくなる衝動を抑えながら、俺は誰に言うでもなくそう呟いた。
俺は父さんと正面から向き合う。さっきまでの委縮した子供の俺はもういない。だって、俺の背中には琉生がいる。みんながいる。怖がる必要なんてもうなかった。
「姫制度をどうするかは、全校生徒の投票で決めます」
「なんだって」
「この学校のことを決めるのは、この学校にいる生徒自身です。確かに俺たちはまだ子供で、間違えることもあるかもしれません。でも、子供だからって何も決められないわけじゃない。過ちも、正していけるはずです」
「だがお前にはもう時間はない。卒業は目前だ」
「はい。俺にはこの学校で過ごす時間はあまり残っていません。でも、俺には頼もしい後輩がいますから。俺に出来なかったことを、彼ならやってくれると信じています」
俺は笑顔で手を振っている琉生をそっと見つめた。奏真先輩って大きな声で俺を呼びながら、彼を慕う生徒たちにもみくちゃにされている。
頼もしくて大好きな、俺の姫。琉生になら後を託せる。俺に出来なかったことも、琉生ならきっとやり遂げてくれるだろう。
「……勝手にしなさい」
父さんはそれだけ言って、振り返ることなく部屋を出て行った。
言葉は素っ気ない。素っ気ないけれど、その声音には俺を否定する冷たさはなかった。やってみなさいと後押しされている気さえする。
校長は父さんの背を追って部屋を出た。来賓室に残された俺と柏木先生は、ホッと胸を撫でおろす。俺だけじゃなく、柏木先生も肩に力が入っていたようだ。
「なんとか終わったなぁ」
へなへなとその場にしゃがみ込む柏木先生はさっきまでの先生とはまるで別人だ。
「いったんは終わりましたけど、ここからですよ。始まるのは」
姫制度の存続は全校生徒で決める。制度が残ったとしても、改革は続けていかなくてはいけない。何一つ、終わってはいなかった。
「……まあ、今日くらいはちょっと勝利の余韻に浸りたいところですけどね」
俺も柏木先生のすぐ横に腰を下ろす。やけに清々しい気分だった。
校庭から聞こえる賑やかな声が心地良い。なんとかこの場は潜り抜けられたと伝えたら、琉生はどんな顔をするだろう。
……琉生に会いたい。会って話がしたい。
一度そう思うと居ても立っても居られなかった。
「あー、行ってこい行ってこい。青春を存分に楽しめ」
柏木先生には俺の気持ちなんてお見通しのようだ。先生に見送られて来賓室を出た俺は、校庭を目指す。ほとんど飛び降りるように階段を駆け下りていると、息を切らせた琉生が俺に飛び込んでくるように階段を駆け上がってきた。
「奏真先輩!」
琉生を胸で受け止めると、俺はそのまま抱きしめる。
「お父さんが来たって聞いて、それでその! 姫制度……!」
肩で息をした琉生は、興奮した様子でそう言った。だいぶ心配かけたみたいだ。
「大丈夫。琉生のお陰で、全部うまくいったから」
「ほ、本当に……?」
俺が頷くと琉生は全身の力を抜き、俺に身を預ける。いや、嬉しいんだけど……この子は俺が好きって言ったこと忘れてないよね?
「俺、どうしたらいいか分からなくて、奏真先輩の力にならなきゃって必死だったんです。ちょっとでも力になれてよかった」
「琉生……」
琉生は俺の胸をそっと押して、腕から離れていく。その瞬間、俺の中に寂しい気持ちが生まれたけれど、それはほんの一瞬だった。
だって次の瞬間、琉生が俺の手を取ったから。
「奏真先輩、一緒にみんなのところに行きましょ! みんな先輩を待ってるんですよ!」
「俺を……?」
「はいっ! 先輩が今日の主役ですから!」
いや、主役はどう考えてもみんなを校庭に集めてスカート姿で仁王立ちしていた琉生だと思うけど。そう言いかけて、やっぱり止めた。
だから願わずにはいられなかった。
琉生。俺を助けてくれ、と。
俺の願いを聞き届けたように琉生の声が聞こえてきたのは、まさにこの瞬間だった。
『突然の放送ごめんなさい。姫です。姫野琉生です』
校長と柏木先生が顔を見合わせる。琉生が校内放送を使うことは知らされていなかったのか、突然のことに動揺しているみたいだった。
父さんも当事者である姫本人のまさかの登場に、思わず足を止めている。
『最近の生徒会の動きやアンケートから薄々気付いている人もいるかもしれませんが、姫制度は今、空前の……じゃない。風前の灯火に立たされています』
琉生の声は普段より硬い。言葉を選んでいるのが節々から伝わってくる。
『隠しているつもりはなかったけれど、姫制度には過去、大きな問題がありました。姫制度がきっかけで、とても傷付いて学校を去った姫もいます。人知れず泣いていた姫も、たくさんいました』
改めて言葉にされると胸に響く。過去、助けられなかった姫たちの悲しそうな顔が頭に浮かんだ。
『俺はその話を聞いて、姫制度なんてなくした方がいいのかもしれないって思いました。そのことがきっかけで、奏真先輩ともちょっと気まずくなったりもして……友達に迷惑をかけたりもしました』
「琉生……」
『でも、なくした方がいいのかもって思っても、俺は姫になって嫌なことばかりだったわけじゃない。だって俺にはみんながいてくれたから!』
硬かった琉生の声が、一段高くなる。
『姫になって、色んな人と話をしました。すれ違うだけで姫ちゃんって呼んでくれる先輩がいたり、ご飯を食べる席がなかったら声を掛けてくれたり、体育祭だってみんなのお陰で大盛り上がりです。俺にとっての姫制度は、居場所をなくすものじゃなくて、俺の居場所を作ってくれたものなんです』
そっか。琉生は姫をそんな風に捉えていてくれたんだ。無理に姫にしてしまった罪悪感が胸の底にずっとあったけれど、それが浄化されていくような気がした。
『俺は思いました。俺にとって良かったからって、それでいいわけじゃない。過去の姫が傷付いたなら、同じことを繰り返すようなことはしちゃ駄目だって。俺は、これから姫になる後輩にも、姫になって良かったって思ってほしい』
琉生の言葉が胸に響く。真っすぐで嘘偽りのない琉生自身の言葉は、大人である校長や柏木先生、そして父さんにも届いていた。
『姫制度を守ることが目的になっちゃいけない。誰かが傷付く制度なら、それは変えていかなくちゃいけない。みんなで変えていけばいいんです』
琉生はそこでいったん言葉を止めた。必死で考えて、伝えようとしているような間だった。
『姫は、ただ可愛がられるだけの存在じゃない。一年の代表として、新しい生活を送る一年の居場所を作る存在。そして、外からやってきた新しい風なんです。外から来たばかりだからこそ、白鷺の問題に気付ける。改善して、もっと良い学校にしていける存在。それが本来の姫なんだと思います。……でもそんな仕事なんて一人じゃやっぱり無理で』
琉生は一度大きく息を吸う。
『俺には、支えてくれた人がたくさんいました。一緒に姫活をしてくれた人。困っていたら助けてくれた人。話を聞いてくれた人。生徒会のアンケートに答えてくれた人や、河合や内藤に、氷室先輩や柏木先生。生徒会のみんな。そして――』
俺は琉生が次に言う言葉を知っている。知っていて、少し泣きそうになっている。
『俺を姫にしてくれた、奏真先輩』
じわり、と胸が暖かくなった。父さんに委縮していた心が、解きほぐされていく。
『奏真先輩は俺を一人にしませんでした。過去の姫制度に疑問を持ち、ずっと一人で戦っていたんです。同じ過ちは繰り返さないためにも、俺を絶対に一人にしなかった。ずっとそばで、支えてくれていました』
父さんの目が、俺を捉えている。普段ならすぐに父さんから目を逸らすけれど、俺も正面からそれを受け止めた。
俺は今、一人じゃない。琉生が一緒に戦ってくれているんだ。
『俺はこのまま姫制度を終わらせたくない。変えていきたいんです。これからは姫だけに重荷を背負わせるんじゃなく、みんなで白鷺学園を良くしていきたい。それには俺だけじゃ何も出来ません。生徒会だけでも、先生だけでも出来ないんです。白鷺学園の生徒みんなの力がないと出来ないんです』
柏木先生が琉生の演説を聞いて、満足そうに微笑んでいた。
柏木先生も俺と同じように、過去の姫たちの問題を心苦しく思っていたのを俺は知っている。だからこそ当事者である姫の力強い声が、嬉しくて頼もしいに違いない。俺もそうだから、よく分かる。
『白鷺学園の姫制度をどうしていくのか、俺たちみんなで考えましょう!』
自然と俺は頷いていた。そして柏木先生や校長も同じだった。
『力を貸してくれる人は、今から校庭に来てください。お願いします!』
放送はそこで切れた。
柏木先生も校長も父さんも、誰も何も言わなかった。ただ琉生の言葉にみんな胸を打たれていた。
廊下がにわかに騒がしくなる。どこにそんなに生徒が残っていたのか、静かだった放課後の校舎が息を吹き返したように賑やかになっていく。
「なんか姫ちゃんピンチっぽいぞ!」
「いつも楽しませてもらってるから、たまには手を貸さないと」
「姫制度がなくなるのは寂しいよな」
生徒たちが口々にそう言いながら、廊下を駆けていく。向かう場所は一つだろう。
柏木先生は席を立つと、ゆっくりと窓へ近づいた。四階の来賓室からは校庭が一望できる。
校庭を見下ろした柏木先生は、目を見開くと腹を抱えて笑い始めた。
「か、柏木先生……?」
校長が不審げにそう呟く。
校庭には一体、どんな光景が広がっているのだろう。
俺は柏木先生のそばに立つと、眼前に広がる光景を一望する。
校庭の中央には琉生がいた。姫の証であるスカートを身に着け、堂々と仁王立ちしていた。
その周囲にはナイトくんや河合くんと言った見知った姿や、部活の最中に駆けつけたのか、ユニフォーム姿の生徒たちが琉生を囲むように立っていた。
校舎からは次々と生徒が琉生の元へ駆けつける。頭を抱えた律も、ゆっくりと校庭へ姿を見せた。
もしかして、今学校に残っている生徒は、みんな校庭に集まっているんじゃないか。そう思いたくなるほど大勢の生徒が、琉生の呼びかけに応じてくれている。
「ほんとに、もう……。琉生はすごいことしてくるんだから……」
柏木先生が笑った理由も分かる。だって俺もこの光景を見て笑いそうになったから。
なんでそんなに勇ましいんだろ。スカート姿なのに、すごくかっこ良い。
やっぱり俺の選んだ姫は、ひと味違う。
ずっと琉生を見つめていると、琉生はこちらに気付いたのか大きく両手を振った。
「奏真先輩! みんな俺たちの味方ですー! みんなで戦って、みんなで姫制度を良くしていきましょうー!」
琉生の言葉に、琉生のそばにいた生徒たちもこちらを見上げて歓声を上げる。
俺は一人で戦っているんじゃない。みんなが一緒だった。
いつの間にか父さんもそばに来て、校庭を見下ろしていた。初めて目にするスカート姿の男子生徒に声も出ないようだったが、それよりも姫がこれほど多くの生徒に愛されていることに驚いている様子だった。
「なんなんだ、これは……」
そう呟きたくなる父さんの気持ち、俺にはよく分かる。
「これが息子さんがやってきた結果ですよ」
柏木先生は父さんに向かってそう言った。
過去の姫たちをそばで見てきて、俺は無力感を味わった。自分が生徒会長になったら、姫を傷付けない、孤独にさせないって心に誓ったんだ。そして、未来の姫たちのためにも、姫制度を変えていかなきゃって。
その結果が、俺の目の前に広がっている。
ずっと親の言うことしか聞いてこなかった俺が、自分の意思でやろう、やらなければと心に決めたことの答えが、きっとこれなんだ。
俺一人の力じゃ出来ないけれど、みんなが力を貸してくれる。何より、琉生がこうやって俺を引っ張ってくれる。
本当に琉生は、最高の姫だ。
「俺って本当に人を見る目があるなぁ」
笑いたくなる衝動を抑えながら、俺は誰に言うでもなくそう呟いた。
俺は父さんと正面から向き合う。さっきまでの委縮した子供の俺はもういない。だって、俺の背中には琉生がいる。みんながいる。怖がる必要なんてもうなかった。
「姫制度をどうするかは、全校生徒の投票で決めます」
「なんだって」
「この学校のことを決めるのは、この学校にいる生徒自身です。確かに俺たちはまだ子供で、間違えることもあるかもしれません。でも、子供だからって何も決められないわけじゃない。過ちも、正していけるはずです」
「だがお前にはもう時間はない。卒業は目前だ」
「はい。俺にはこの学校で過ごす時間はあまり残っていません。でも、俺には頼もしい後輩がいますから。俺に出来なかったことを、彼ならやってくれると信じています」
俺は笑顔で手を振っている琉生をそっと見つめた。奏真先輩って大きな声で俺を呼びながら、彼を慕う生徒たちにもみくちゃにされている。
頼もしくて大好きな、俺の姫。琉生になら後を託せる。俺に出来なかったことも、琉生ならきっとやり遂げてくれるだろう。
「……勝手にしなさい」
父さんはそれだけ言って、振り返ることなく部屋を出て行った。
言葉は素っ気ない。素っ気ないけれど、その声音には俺を否定する冷たさはなかった。やってみなさいと後押しされている気さえする。
校長は父さんの背を追って部屋を出た。来賓室に残された俺と柏木先生は、ホッと胸を撫でおろす。俺だけじゃなく、柏木先生も肩に力が入っていたようだ。
「なんとか終わったなぁ」
へなへなとその場にしゃがみ込む柏木先生はさっきまでの先生とはまるで別人だ。
「いったんは終わりましたけど、ここからですよ。始まるのは」
姫制度の存続は全校生徒で決める。制度が残ったとしても、改革は続けていかなくてはいけない。何一つ、終わってはいなかった。
「……まあ、今日くらいはちょっと勝利の余韻に浸りたいところですけどね」
俺も柏木先生のすぐ横に腰を下ろす。やけに清々しい気分だった。
校庭から聞こえる賑やかな声が心地良い。なんとかこの場は潜り抜けられたと伝えたら、琉生はどんな顔をするだろう。
……琉生に会いたい。会って話がしたい。
一度そう思うと居ても立っても居られなかった。
「あー、行ってこい行ってこい。青春を存分に楽しめ」
柏木先生には俺の気持ちなんてお見通しのようだ。先生に見送られて来賓室を出た俺は、校庭を目指す。ほとんど飛び降りるように階段を駆け下りていると、息を切らせた琉生が俺に飛び込んでくるように階段を駆け上がってきた。
「奏真先輩!」
琉生を胸で受け止めると、俺はそのまま抱きしめる。
「お父さんが来たって聞いて、それでその! 姫制度……!」
肩で息をした琉生は、興奮した様子でそう言った。だいぶ心配かけたみたいだ。
「大丈夫。琉生のお陰で、全部うまくいったから」
「ほ、本当に……?」
俺が頷くと琉生は全身の力を抜き、俺に身を預ける。いや、嬉しいんだけど……この子は俺が好きって言ったこと忘れてないよね?
「俺、どうしたらいいか分からなくて、奏真先輩の力にならなきゃって必死だったんです。ちょっとでも力になれてよかった」
「琉生……」
琉生は俺の胸をそっと押して、腕から離れていく。その瞬間、俺の中に寂しい気持ちが生まれたけれど、それはほんの一瞬だった。
だって次の瞬間、琉生が俺の手を取ったから。
「奏真先輩、一緒にみんなのところに行きましょ! みんな先輩を待ってるんですよ!」
「俺を……?」
「はいっ! 先輩が今日の主役ですから!」
いや、主役はどう考えてもみんなを校庭に集めてスカート姿で仁王立ちしていた琉生だと思うけど。そう言いかけて、やっぱり止めた。
