ガガンッッ……!!
キューーーッッ……
体を突き抜けるような物凄い振動で、目が覚めた。羽田空港を飛び立った飛行機は、阿蘇熊本空港に、無事に着陸したところらしかった。
ゆっくりと速度を落とし、滑走路を降下場まで進んでいく。
「……びっくりした」
目を瞑ってからまったく記憶がない。……右手は楓くんが優しく握ってくれている。
(……そうだった。手、繋ぐよって言ってくれてたんだ)
寝ている間の温かさを再び思い出して、一人機内で微笑んだ。
「着いたね。熊本」
「うん。……久し振りだなあ」
羽田空港とは別世界の窓からの景色。緑のラインが、飛行機と並行に走っている。ゆっくり動いていた機体も、最後小さく振動して、私達の短い飛行は終わった。機内の灯りが一斉に点くと、乗客の人達がざわざわと動き始めた。
出口でCAさんに軽く会釈をしてから機内から外に出る。その瞬間、私達は驚いてお互いの顔を見合った。
「……暑い」
暑い。とにかく暑い。暑さが横浜と全然違う。私はずっとここで暮らしていたはずなのに、とっくに忘れ去っていたらしい。
「湿気が……凄くない? こんなに凄かったっけ……」
まとわりつくような湿気。目で見えない膜が、体全体にまとわりついているような感覚になった。楓くんも「暑い」と何度もつぶやいている。
「この後は? どうするの」
「キャリーケースを取ってから……先ず、バスかな」
阿蘇熊本空港から、随一の繁華街である『下通り』へはバスで向かう。空港の出口のすぐそばに、リムジンバス乗り場があるらしい。荷物を回収して、空港の出口を出た。
「……何これ、ヤバい」
バス乗り場を探す歩みもぴたりと止まってしまうほどの緑。遠くに目をやると、一面の山。一体、私達はどこへやってきたのか、分からなくなってしまうほどだった。
「大自然だね……熊本、凄いな」
楓くんも同じことを思っていたらしい。それもそう。半年前までずっと住んでいた私でさえ、そうなのだから。
「美咲ちゃんが言ってた以上だね、これ」
「私、こんな自然のある所に住んでたんだ……覚えて無いよ」
「とりあえず、バスに乗ろうか」
目の前をリムジンバスが通り過ぎる。『熊本駅』と書いてあったから、急いでバスを追いかける。バス停は目の前にあった。
横浜駅から羽田空港まで乗ったリムジンバスと、広さは変わらないように感じた。でも不思議と田舎にやって来たからなのか、バスの中は古いような印象がある。満席とまではいかず、ちょっとゆとりをもって、乗ることができた。
「俺の想像以上だった。こんなに凄いんだね、熊本って」
「ね。たぶん、あれ阿蘇山じゃ無いかなあ」
緑の奥に、平たく鎮座する山。調べたわけじゃ無いけれど、阿蘇山以外に考えられない。
「そっか。あれが阿蘇山なんだ。横浜じゃ絶対に見れない景色だよね」
「飛行機の中で寝てただけなのに。気付いたら大自然って凄過ぎるよ、本当」
「美咲ちゃん、ずっと寝てたもんね」
「うん。ずっと寝てた。上空に上がる時に、もう寝てたような気がするもん」
「俺は途中で一回起きたけど……美咲ちゃん、ずっと寝てたなあ」
「うん。……朝、早かったからかな」
「体調は? どう?」
「うーん……結構寝れたから。特に問題無いと思う」
確かに熱っぽさは少し治まっている気がした。頭痛もあまり無い。強いて言えばちょっと頭の奥の部分に、ほんのちょっとだけ痛みが残っている感じ。
(……これなら、何とかいけるかも)
「でもさあ、やっぱ田舎って感じだよね」
「凄いよな……緑がいっぱいだもんね。」
気が付けば、周囲は空港よりも緑に包まれていた。森……とまではいかないけれど、バスの周囲は完全に緑色になっている。
――
――
――
バスに30分ほど揺られると、街の景色が徐々に姿を現す。緑が少しずつ少なくなり、建物が増えてくる。横浜ほどでは無いけれど、色々なお店や住宅街がバスから見えるようになっていた。
「美咲ちゃんのお父さん、どこにホテル取ってくれたんだろう」
「熊本はさ、車がないと……移動が難しいから。街中にしてあるよ」
「そっか。ちょっと感覚が良く分かってないけど」
「気楽に移動できないんだよ。横浜みたいに、電車が3分に一回なんてこないよ」
「……そっか」
「そ。だから街中にホテル取った方が良いってこと」
「なるほどね。身動き取れなくなるってことか」
更に市街地へとバスは入っていく。それに伴って、さっきよりも車の量やビルなどの建物も増えていった。
「何あれ。……市電?」
そうだった。熊本は市電が通っている。すっかり忘れていた。道路に沿うように、短い車両の市電が走っている。私は中学3年生までしかいなかったから、市電に乗ったことは無い。
「そうだった。市電、通ってるんだよ」
「へぇー……長崎とか、広島は知ってたけど熊本もあるんだ」
「うん。私は乗ったこと一度も無いけどね」
「……そうなの?」
「うん。ここと全然違うエリアに住んでたから。中学生だったし」
市電を追い越すようにバスは進み、水道町の交差点を抜けて『通町筋』に到着した。ここで降りる人も多く、半分くらいの人が通町筋で降りた。
「……ちょっとここ、凄くない?」
通町筋は熊本で一番の繁華街になる。皆、休みの日になるとここに遊びにきたがる。他の街と違って、熊本はデパートや賑やかな所が、ここ通町筋に一点集中しているから。バスや自転車を使って、ここに遊びにくる。……中学生の時、友達のいなかった私には、全く関係の無い話だけれど。
「凄いでしょ。横浜ほどじゃ無いだろうけどね……人、多いよ」
「確かに。……こんなに人が多いなんて思ってなかったよ」
アーケードは予想通り賑やかだった。あまりに人が多いと目まいがするから……本当は避けて通りたかったけれど……せっかく来たんだし、楓くんにも見て欲しかった。
お父さんが取ってくれたホテルは、アーケードを抜けた公園の所にある。
「そう言えばさ、楓くんのお父さんから承諾書みたいなの預かってきた?」
「あっ、うん。一応持って来てる。……美咲ちゃんのお父さん、凄いよね」
「ね。凄い色々調べてくれてたみたい」
「感謝しないと」
「うん。帰ったら……いっぱいお土産話、してあげなきゃだ」
「そうだよ」
「……帰ったら、ね」
(……暑い)
(また熱が出てきた感じするな……)
ホテルは公園のすぐ横にあった。アーケードで日差しは遮られていたけれど……気温と湿気はどうにもならない。ドーム状になっているからなのか、一層、蒸されているような感覚に陥りながら、歩いた。
ぐるりとアーケードを歩いている人達を見渡すと、皆笑顔で笑っている。中学生と思われる人達も多い。アイスやクレープを手に持って楽しそうに歩いている。……私は流石に、そんな表情にはなれなかった。
やっとの思いでホテルに到着すると、受付で同意書を提示した。受付シートに名前を書いて、涼しい館内を移動する。エレベーターの前で、楓くんも私も「はあ」と大きなため息をつく。
「どうしよう。まだ3時前だね」
「……ちょっとだけ寝ても良い?」
「もちろん。……暑いしね。そうしよう」
「何時に待ち合わせする?」
「夕方5時くらいで良いんじゃない?」
「うん。分かった。私、ちょっと寝るね。汗もかいたし」
「……何かあったら、ちゃんと言ってね」
「うん。ありがとう。何かあったら、すぐ言うよ」
私の部屋は305号室。楓くんは隣。306号室へと入った。
(着いたー……)
(……あー……駄目だ。限界かもな。きつい……)
キャリーケースを入口の近くに置いたまま、着替えもせずにベッドに倒れ込ようにダイブした。
(はあー……頑張ったな)
……気付けばそのまま、私は眠りに落ちていた。
キューーーッッ……
体を突き抜けるような物凄い振動で、目が覚めた。羽田空港を飛び立った飛行機は、阿蘇熊本空港に、無事に着陸したところらしかった。
ゆっくりと速度を落とし、滑走路を降下場まで進んでいく。
「……びっくりした」
目を瞑ってからまったく記憶がない。……右手は楓くんが優しく握ってくれている。
(……そうだった。手、繋ぐよって言ってくれてたんだ)
寝ている間の温かさを再び思い出して、一人機内で微笑んだ。
「着いたね。熊本」
「うん。……久し振りだなあ」
羽田空港とは別世界の窓からの景色。緑のラインが、飛行機と並行に走っている。ゆっくり動いていた機体も、最後小さく振動して、私達の短い飛行は終わった。機内の灯りが一斉に点くと、乗客の人達がざわざわと動き始めた。
出口でCAさんに軽く会釈をしてから機内から外に出る。その瞬間、私達は驚いてお互いの顔を見合った。
「……暑い」
暑い。とにかく暑い。暑さが横浜と全然違う。私はずっとここで暮らしていたはずなのに、とっくに忘れ去っていたらしい。
「湿気が……凄くない? こんなに凄かったっけ……」
まとわりつくような湿気。目で見えない膜が、体全体にまとわりついているような感覚になった。楓くんも「暑い」と何度もつぶやいている。
「この後は? どうするの」
「キャリーケースを取ってから……先ず、バスかな」
阿蘇熊本空港から、随一の繁華街である『下通り』へはバスで向かう。空港の出口のすぐそばに、リムジンバス乗り場があるらしい。荷物を回収して、空港の出口を出た。
「……何これ、ヤバい」
バス乗り場を探す歩みもぴたりと止まってしまうほどの緑。遠くに目をやると、一面の山。一体、私達はどこへやってきたのか、分からなくなってしまうほどだった。
「大自然だね……熊本、凄いな」
楓くんも同じことを思っていたらしい。それもそう。半年前までずっと住んでいた私でさえ、そうなのだから。
「美咲ちゃんが言ってた以上だね、これ」
「私、こんな自然のある所に住んでたんだ……覚えて無いよ」
「とりあえず、バスに乗ろうか」
目の前をリムジンバスが通り過ぎる。『熊本駅』と書いてあったから、急いでバスを追いかける。バス停は目の前にあった。
横浜駅から羽田空港まで乗ったリムジンバスと、広さは変わらないように感じた。でも不思議と田舎にやって来たからなのか、バスの中は古いような印象がある。満席とまではいかず、ちょっとゆとりをもって、乗ることができた。
「俺の想像以上だった。こんなに凄いんだね、熊本って」
「ね。たぶん、あれ阿蘇山じゃ無いかなあ」
緑の奥に、平たく鎮座する山。調べたわけじゃ無いけれど、阿蘇山以外に考えられない。
「そっか。あれが阿蘇山なんだ。横浜じゃ絶対に見れない景色だよね」
「飛行機の中で寝てただけなのに。気付いたら大自然って凄過ぎるよ、本当」
「美咲ちゃん、ずっと寝てたもんね」
「うん。ずっと寝てた。上空に上がる時に、もう寝てたような気がするもん」
「俺は途中で一回起きたけど……美咲ちゃん、ずっと寝てたなあ」
「うん。……朝、早かったからかな」
「体調は? どう?」
「うーん……結構寝れたから。特に問題無いと思う」
確かに熱っぽさは少し治まっている気がした。頭痛もあまり無い。強いて言えばちょっと頭の奥の部分に、ほんのちょっとだけ痛みが残っている感じ。
(……これなら、何とかいけるかも)
「でもさあ、やっぱ田舎って感じだよね」
「凄いよな……緑がいっぱいだもんね。」
気が付けば、周囲は空港よりも緑に包まれていた。森……とまではいかないけれど、バスの周囲は完全に緑色になっている。
――
――
――
バスに30分ほど揺られると、街の景色が徐々に姿を現す。緑が少しずつ少なくなり、建物が増えてくる。横浜ほどでは無いけれど、色々なお店や住宅街がバスから見えるようになっていた。
「美咲ちゃんのお父さん、どこにホテル取ってくれたんだろう」
「熊本はさ、車がないと……移動が難しいから。街中にしてあるよ」
「そっか。ちょっと感覚が良く分かってないけど」
「気楽に移動できないんだよ。横浜みたいに、電車が3分に一回なんてこないよ」
「……そっか」
「そ。だから街中にホテル取った方が良いってこと」
「なるほどね。身動き取れなくなるってことか」
更に市街地へとバスは入っていく。それに伴って、さっきよりも車の量やビルなどの建物も増えていった。
「何あれ。……市電?」
そうだった。熊本は市電が通っている。すっかり忘れていた。道路に沿うように、短い車両の市電が走っている。私は中学3年生までしかいなかったから、市電に乗ったことは無い。
「そうだった。市電、通ってるんだよ」
「へぇー……長崎とか、広島は知ってたけど熊本もあるんだ」
「うん。私は乗ったこと一度も無いけどね」
「……そうなの?」
「うん。ここと全然違うエリアに住んでたから。中学生だったし」
市電を追い越すようにバスは進み、水道町の交差点を抜けて『通町筋』に到着した。ここで降りる人も多く、半分くらいの人が通町筋で降りた。
「……ちょっとここ、凄くない?」
通町筋は熊本で一番の繁華街になる。皆、休みの日になるとここに遊びにきたがる。他の街と違って、熊本はデパートや賑やかな所が、ここ通町筋に一点集中しているから。バスや自転車を使って、ここに遊びにくる。……中学生の時、友達のいなかった私には、全く関係の無い話だけれど。
「凄いでしょ。横浜ほどじゃ無いだろうけどね……人、多いよ」
「確かに。……こんなに人が多いなんて思ってなかったよ」
アーケードは予想通り賑やかだった。あまりに人が多いと目まいがするから……本当は避けて通りたかったけれど……せっかく来たんだし、楓くんにも見て欲しかった。
お父さんが取ってくれたホテルは、アーケードを抜けた公園の所にある。
「そう言えばさ、楓くんのお父さんから承諾書みたいなの預かってきた?」
「あっ、うん。一応持って来てる。……美咲ちゃんのお父さん、凄いよね」
「ね。凄い色々調べてくれてたみたい」
「感謝しないと」
「うん。帰ったら……いっぱいお土産話、してあげなきゃだ」
「そうだよ」
「……帰ったら、ね」
(……暑い)
(また熱が出てきた感じするな……)
ホテルは公園のすぐ横にあった。アーケードで日差しは遮られていたけれど……気温と湿気はどうにもならない。ドーム状になっているからなのか、一層、蒸されているような感覚に陥りながら、歩いた。
ぐるりとアーケードを歩いている人達を見渡すと、皆笑顔で笑っている。中学生と思われる人達も多い。アイスやクレープを手に持って楽しそうに歩いている。……私は流石に、そんな表情にはなれなかった。
やっとの思いでホテルに到着すると、受付で同意書を提示した。受付シートに名前を書いて、涼しい館内を移動する。エレベーターの前で、楓くんも私も「はあ」と大きなため息をつく。
「どうしよう。まだ3時前だね」
「……ちょっとだけ寝ても良い?」
「もちろん。……暑いしね。そうしよう」
「何時に待ち合わせする?」
「夕方5時くらいで良いんじゃない?」
「うん。分かった。私、ちょっと寝るね。汗もかいたし」
「……何かあったら、ちゃんと言ってね」
「うん。ありがとう。何かあったら、すぐ言うよ」
私の部屋は305号室。楓くんは隣。306号室へと入った。
(着いたー……)
(……あー……駄目だ。限界かもな。きつい……)
キャリーケースを入口の近くに置いたまま、着替えもせずにベッドに倒れ込ようにダイブした。
(はあー……頑張ったな)
……気付けばそのまま、私は眠りに落ちていた。


