朝。
――最悪の目覚め。汗だくで息苦しくて、目が覚めた。カーテンの隙間から、薄っすらと細い光が部屋に差し込む。
別に私は神様がいるとか、いないとか……信じてないけれど、さすがに神様を恨んだ。「どれだけ呪われてるんだろう」と。
(……何で今日なのよ。……サイアク)
熱は明らかに上がっていた。測ってはいないけれど流石に分かる。……頭も痛い。お腹が痛くないのが幸いだった。そもそもそれで幸いと言うべきなのかは、分からない。
朝7時。ギリギリまで布団の中で汗をかいた。できるだけ熱を下げるために。私が出発した後、着替えをお父さんに見られちゃうけど……それはもう諦めることにした。
カーテンの向こう側。とっても眩しい。旅行には最高の天気になっているらしかった。
体が重たくて、まだカーテンを開けることはできていない。ここ最近はずっとこんな感じだったけど……何でよりによって今日なのと思った。
熊本は暑い。いや、熱い。もちろん、横浜だって暑い。でも熊本は確か……湿度が凄かった気がする。春から横浜に引越しをしてきて、まだ半年くらいなのに……あの暑さを、どこか忘れてしまっていた。
本来ならTシャツだけでも暑くてたまらないはずだけど、カーディガンを持っていく必要があることを、恨めしく思った。
お父さんはとっくに会社に行っている。
ゆっくりとベッドから起き上がり、濡れたシャツを洗濯機に入れる。急いで準備をしないと間に合わなくなってしまう。家を出るまでに、私はやることが2つあった。
「ね、行ってくるよ。私」
笑顔で私を見ている茜の前に正座した。背筋を伸ばして「ふう」と息を吐く。……そしてゆっくりと目を瞑って、両手を静かに合わせた。
(ねえ。あんた、今どっちにいるの?)
(まさか、あの家にはいないよね?)
(ちょっとキツいけどさ、行ってくるね)
(何かあったら、私のこと助けてよ?)
(ねえ)
(お願い)
ゆっくりと目を開ける。
「よし! 行くか!」
「茜、行ってくるから!」
笑顔の茜に、私も笑顔を返して声を出した。
家の中をぐるりと見渡して、玄関へと急ぐ。
(……よし!)
「行こう!」
ちょっとお腹に力を込めて、誰もいない部屋に向かって気合を入れた。
そして最後にもう一つ。
「行ってきます!」
「準備色々、ありがとう! 大好きだよー」
「寂しくなるね! すぐ帰るから」
お父さんにラインを入れた。
(よしっ……行くか)
キャリーケースを引きずりながら、磯子駅へと向かった。朝、汗をできるだけかいてきたからなのか、駅に向かっている間はそれほどじゃ無い。「これならいけるかな」と思ったけれど、「これから2泊あるんだよ?」と落ち着かせるように自分に言い聞かせた。
「美咲ちゃん、お早う」
楓くんの声を聞いて、本当に旅がスタートするんだと改めて感じる。私はもう一度、お腹に軽く力を入れて首を小さく振った。「さあ、行くぞ」と自分に言うかのように。
「……楓くん、お早う!」
「大丈夫? 体調は」
「もう……そればっかじゃん。平気だよ」
手を軽くひらひらと振ってみせる。
「良かった。それじゃ、行こうか」
「……うん」
熊本へ行くルートは、新幹線ではなくて飛行機を選んでいた。新幹線は窓からの景色を見ることができる。時間はかかるけれどエモいなあと思っていた。でも結局かかる時間を優先させた結果、飛行機になった。
(心配し過ぎなんだよ、お父さんは)
横浜駅まで、JRで向かう。
私はこれまで、あまり朝から学校へ行けた試しが無い。体調が悪いことが多かったから、遅刻して行ったり、お昼から行くことも多かった。通勤ラッシュ時の磯子駅は、私の予想を遥かに超えた人の数で、相当な気合を私に要求してくる。
「……この人の数さ、絶対ヤバいよねえ」
学生にサラリーマン。改札口へと次々に吸い込まれていく。もうこの段階で目まいがする。目で追いかけると吐き気がするので、なるべく足元を見て歩くことにした。
「できるだけ人が少ない電車で行こう」
さらりと楓くんがいってのけた。
「……そんなことできるの? だってさ、めっちゃ人いるよ?」
「始発があるから。始発に乗れば、多少は変わるよ」
そうだった。磯子駅は始発電車が出る駅でもある。学校へ行く時は、あまり有難みを感じることは無かった。
「……そっか。始発があるのか……」
「うん。座るのは難しいかもだけど、それならまだマシでしょ。全然違うと思うよ」
私達は、駅のホームで始発電車を待つ列に静かに並んだ。
それでも……スマホを見たり、新聞を折り曲げながらじっと読んでいる人達。多くの人達の後ろに並ぶことは、私の気持ちをげんなりさせるには十分だった。
――
――
――
横浜駅。
色々な路線に乗り換える中継地点の駅でもある。京浜東北線に京浜急行線、東海道線……。調べれば調べるほど、人の多さを予想させる。
学校がある山手駅は、磯子駅からたった2駅でしかも住宅街。……降りてさえしまえば、人はほとんど歩いていない。
それに引き換え、朝の横浜駅はもの凄かった。一体、どこから集まってきたんだろうと思うほどの人。歩くことすらままならならず、『流れに乗る』ということを初めて理解した。
目まいどころの騒ぎじゃ無かった。ちょっとでも気を抜くと、意識がふっとどこかへ遠のいていってしまいそうに感じた。キャリーケースを気まずい気持ちで引きながら、楓くんの背中を見失わないように、意識を集中しながら必死でついていく。
改札口まで何とか辿り着き、そのまま東口の方へと歩いていくらしい。さっきまでの人の流れと違い、色々な方向から四方八方……人が歩いてくる。
「……凄い人だよね……気持ち悪くなってくる」
「ね。山手駅で降りてる俺達には、異世界だな。これは」
「……うん。でも、集中してないと、目まいがするかも」
ちょっとだけ開けた場所に出ると、日差しが入り込んでくる。人の数もさっきと比べると少しだけ減った。ここから地下街に下りて、更に進んでいくらしい。
「はぁ。……サラリーマンて、あんな大変なのか」
「ね……。しかも毎日だもんね」
「俺、無理かも」
「ははっ……私も。あれはきついよ。……どこに向かってんの?」
「バス乗り場だよ。『ワイキャット』って言うみたい」
「ワイキャット?」
「うん。高速バス乗り場の名前なんだって」
「……へえ」
地下の通路は熱気がこもっているかのように、蒸し暑い。少し息を切らしながら歩いていくと正面に大きなデパートが見えた。
「あ、あれ右。確か正面を右だったと思う」
「右ね」
ミニサイズのエスカレーターを上ると、こじんまりとしたバス乗り場が姿を現した。自動ドアをくぐった瞬間、一気に人の流れは無くなった。ようやく静かな場所へと辿り着く。
「……知らなかった。こんな場所あるんだな」
「私だって初めてだよ」
「そうなの? でも熊本から来た時、飛行機じゃないの?」
「分からない。……あんま覚えてないんだよね」
受付の女性にチケットの買い方を聞いて、羽田空港までのチケットを買う。すぐ脇に申し訳程度に並んでいるベンチへと腰を下ろす。家を出てから、ようやく座ることができた。
楓くんにバレないように、静かに呼吸を整える。
「良いね。静かで。やっと落ち着く場所に来たね。助かった」
空港までは高速バスじゃなくて電車で行くルートもあるらしかった。横浜駅で降りないで、あのまま東京の方まで電車で行ってから途中で乗り換える。
「美咲は横浜駅からバスで行った方が良いだろうな」とお父さんがいっていた意味が、ようやく分かった。
「……電車で行ってたら、倒れてたかも。途中で」
「俺も。熊本に行く前に力尽きてたと思う」
「お父さんの言うこと聞いて……良かったよ」
磯子駅からここまで、あまりの人の多さにずっと意識を集中していた。電車内はパンパンだった。始発に乗れたから、まだマシだったけれど今の私にとっては最悪の空気だった。人酔いしたからなのか、少し気持ちが悪い。
(……あー……)
ちょっと気が緩み、急に目まいがしてくる。人の多さが凄かったのもあるだろうけど、たぶん熱もだいぶ出ているような気がした。
「ちょっと待ってて」
私は荷物を置いて、トイレに行く。……薬を飲むために。
バス出発時間まで、まだ20分もある。
「飛行機、何時に出るやつなの?」
「……えっと」
今回、お父さんが色々と手配してくれた関係で、楓くんは細かい時間を暗記していない。スマホを開いて調べている。
「11時半、だね」
「空港まで、こっからどれくらい?」
「……確か、30分かからないくらい」
「そっか。じゃ、空港で結構待つね」
「そうだね。念のため余裕持っておこうと思って」
5分前になると、更に奥にある自動ドアをくぐり乗り場に並ぶことにした。白線に沿って並んでいるのは、これから羽田空港に向かう人達。男性も女性もだいぶ歳上の人ばかりで、高校生くらいの人達は、見かけない。
ゴウンと音を立てて、乗り場へバスが入ってくる。リムジンバスというらしく、その大きさは「いよいよだなあ」と思わせてくれるには十分だった。荷物を係の人に預けてバスに乗り込み、一番後ろの席に座る。
「それでは発車します……シートベルトを……」
ゴゴゴと車体を大きく揺らすと、ゆっくりとバスは明るい場所へと動き出す。それと同時に運転手さんのアナウンスが始まった。……私達の旅が、本格的に始まったのだ――。
『そうだな。ちょっと寂しいけどな。楽しんできなさい』
スマホにちらりと目を向けると、お父さんからラインの返信が届いていた――。
――最悪の目覚め。汗だくで息苦しくて、目が覚めた。カーテンの隙間から、薄っすらと細い光が部屋に差し込む。
別に私は神様がいるとか、いないとか……信じてないけれど、さすがに神様を恨んだ。「どれだけ呪われてるんだろう」と。
(……何で今日なのよ。……サイアク)
熱は明らかに上がっていた。測ってはいないけれど流石に分かる。……頭も痛い。お腹が痛くないのが幸いだった。そもそもそれで幸いと言うべきなのかは、分からない。
朝7時。ギリギリまで布団の中で汗をかいた。できるだけ熱を下げるために。私が出発した後、着替えをお父さんに見られちゃうけど……それはもう諦めることにした。
カーテンの向こう側。とっても眩しい。旅行には最高の天気になっているらしかった。
体が重たくて、まだカーテンを開けることはできていない。ここ最近はずっとこんな感じだったけど……何でよりによって今日なのと思った。
熊本は暑い。いや、熱い。もちろん、横浜だって暑い。でも熊本は確か……湿度が凄かった気がする。春から横浜に引越しをしてきて、まだ半年くらいなのに……あの暑さを、どこか忘れてしまっていた。
本来ならTシャツだけでも暑くてたまらないはずだけど、カーディガンを持っていく必要があることを、恨めしく思った。
お父さんはとっくに会社に行っている。
ゆっくりとベッドから起き上がり、濡れたシャツを洗濯機に入れる。急いで準備をしないと間に合わなくなってしまう。家を出るまでに、私はやることが2つあった。
「ね、行ってくるよ。私」
笑顔で私を見ている茜の前に正座した。背筋を伸ばして「ふう」と息を吐く。……そしてゆっくりと目を瞑って、両手を静かに合わせた。
(ねえ。あんた、今どっちにいるの?)
(まさか、あの家にはいないよね?)
(ちょっとキツいけどさ、行ってくるね)
(何かあったら、私のこと助けてよ?)
(ねえ)
(お願い)
ゆっくりと目を開ける。
「よし! 行くか!」
「茜、行ってくるから!」
笑顔の茜に、私も笑顔を返して声を出した。
家の中をぐるりと見渡して、玄関へと急ぐ。
(……よし!)
「行こう!」
ちょっとお腹に力を込めて、誰もいない部屋に向かって気合を入れた。
そして最後にもう一つ。
「行ってきます!」
「準備色々、ありがとう! 大好きだよー」
「寂しくなるね! すぐ帰るから」
お父さんにラインを入れた。
(よしっ……行くか)
キャリーケースを引きずりながら、磯子駅へと向かった。朝、汗をできるだけかいてきたからなのか、駅に向かっている間はそれほどじゃ無い。「これならいけるかな」と思ったけれど、「これから2泊あるんだよ?」と落ち着かせるように自分に言い聞かせた。
「美咲ちゃん、お早う」
楓くんの声を聞いて、本当に旅がスタートするんだと改めて感じる。私はもう一度、お腹に軽く力を入れて首を小さく振った。「さあ、行くぞ」と自分に言うかのように。
「……楓くん、お早う!」
「大丈夫? 体調は」
「もう……そればっかじゃん。平気だよ」
手を軽くひらひらと振ってみせる。
「良かった。それじゃ、行こうか」
「……うん」
熊本へ行くルートは、新幹線ではなくて飛行機を選んでいた。新幹線は窓からの景色を見ることができる。時間はかかるけれどエモいなあと思っていた。でも結局かかる時間を優先させた結果、飛行機になった。
(心配し過ぎなんだよ、お父さんは)
横浜駅まで、JRで向かう。
私はこれまで、あまり朝から学校へ行けた試しが無い。体調が悪いことが多かったから、遅刻して行ったり、お昼から行くことも多かった。通勤ラッシュ時の磯子駅は、私の予想を遥かに超えた人の数で、相当な気合を私に要求してくる。
「……この人の数さ、絶対ヤバいよねえ」
学生にサラリーマン。改札口へと次々に吸い込まれていく。もうこの段階で目まいがする。目で追いかけると吐き気がするので、なるべく足元を見て歩くことにした。
「できるだけ人が少ない電車で行こう」
さらりと楓くんがいってのけた。
「……そんなことできるの? だってさ、めっちゃ人いるよ?」
「始発があるから。始発に乗れば、多少は変わるよ」
そうだった。磯子駅は始発電車が出る駅でもある。学校へ行く時は、あまり有難みを感じることは無かった。
「……そっか。始発があるのか……」
「うん。座るのは難しいかもだけど、それならまだマシでしょ。全然違うと思うよ」
私達は、駅のホームで始発電車を待つ列に静かに並んだ。
それでも……スマホを見たり、新聞を折り曲げながらじっと読んでいる人達。多くの人達の後ろに並ぶことは、私の気持ちをげんなりさせるには十分だった。
――
――
――
横浜駅。
色々な路線に乗り換える中継地点の駅でもある。京浜東北線に京浜急行線、東海道線……。調べれば調べるほど、人の多さを予想させる。
学校がある山手駅は、磯子駅からたった2駅でしかも住宅街。……降りてさえしまえば、人はほとんど歩いていない。
それに引き換え、朝の横浜駅はもの凄かった。一体、どこから集まってきたんだろうと思うほどの人。歩くことすらままならならず、『流れに乗る』ということを初めて理解した。
目まいどころの騒ぎじゃ無かった。ちょっとでも気を抜くと、意識がふっとどこかへ遠のいていってしまいそうに感じた。キャリーケースを気まずい気持ちで引きながら、楓くんの背中を見失わないように、意識を集中しながら必死でついていく。
改札口まで何とか辿り着き、そのまま東口の方へと歩いていくらしい。さっきまでの人の流れと違い、色々な方向から四方八方……人が歩いてくる。
「……凄い人だよね……気持ち悪くなってくる」
「ね。山手駅で降りてる俺達には、異世界だな。これは」
「……うん。でも、集中してないと、目まいがするかも」
ちょっとだけ開けた場所に出ると、日差しが入り込んでくる。人の数もさっきと比べると少しだけ減った。ここから地下街に下りて、更に進んでいくらしい。
「はぁ。……サラリーマンて、あんな大変なのか」
「ね……。しかも毎日だもんね」
「俺、無理かも」
「ははっ……私も。あれはきついよ。……どこに向かってんの?」
「バス乗り場だよ。『ワイキャット』って言うみたい」
「ワイキャット?」
「うん。高速バス乗り場の名前なんだって」
「……へえ」
地下の通路は熱気がこもっているかのように、蒸し暑い。少し息を切らしながら歩いていくと正面に大きなデパートが見えた。
「あ、あれ右。確か正面を右だったと思う」
「右ね」
ミニサイズのエスカレーターを上ると、こじんまりとしたバス乗り場が姿を現した。自動ドアをくぐった瞬間、一気に人の流れは無くなった。ようやく静かな場所へと辿り着く。
「……知らなかった。こんな場所あるんだな」
「私だって初めてだよ」
「そうなの? でも熊本から来た時、飛行機じゃないの?」
「分からない。……あんま覚えてないんだよね」
受付の女性にチケットの買い方を聞いて、羽田空港までのチケットを買う。すぐ脇に申し訳程度に並んでいるベンチへと腰を下ろす。家を出てから、ようやく座ることができた。
楓くんにバレないように、静かに呼吸を整える。
「良いね。静かで。やっと落ち着く場所に来たね。助かった」
空港までは高速バスじゃなくて電車で行くルートもあるらしかった。横浜駅で降りないで、あのまま東京の方まで電車で行ってから途中で乗り換える。
「美咲は横浜駅からバスで行った方が良いだろうな」とお父さんがいっていた意味が、ようやく分かった。
「……電車で行ってたら、倒れてたかも。途中で」
「俺も。熊本に行く前に力尽きてたと思う」
「お父さんの言うこと聞いて……良かったよ」
磯子駅からここまで、あまりの人の多さにずっと意識を集中していた。電車内はパンパンだった。始発に乗れたから、まだマシだったけれど今の私にとっては最悪の空気だった。人酔いしたからなのか、少し気持ちが悪い。
(……あー……)
ちょっと気が緩み、急に目まいがしてくる。人の多さが凄かったのもあるだろうけど、たぶん熱もだいぶ出ているような気がした。
「ちょっと待ってて」
私は荷物を置いて、トイレに行く。……薬を飲むために。
バス出発時間まで、まだ20分もある。
「飛行機、何時に出るやつなの?」
「……えっと」
今回、お父さんが色々と手配してくれた関係で、楓くんは細かい時間を暗記していない。スマホを開いて調べている。
「11時半、だね」
「空港まで、こっからどれくらい?」
「……確か、30分かからないくらい」
「そっか。じゃ、空港で結構待つね」
「そうだね。念のため余裕持っておこうと思って」
5分前になると、更に奥にある自動ドアをくぐり乗り場に並ぶことにした。白線に沿って並んでいるのは、これから羽田空港に向かう人達。男性も女性もだいぶ歳上の人ばかりで、高校生くらいの人達は、見かけない。
ゴウンと音を立てて、乗り場へバスが入ってくる。リムジンバスというらしく、その大きさは「いよいよだなあ」と思わせてくれるには十分だった。荷物を係の人に預けてバスに乗り込み、一番後ろの席に座る。
「それでは発車します……シートベルトを……」
ゴゴゴと車体を大きく揺らすと、ゆっくりとバスは明るい場所へと動き出す。それと同時に運転手さんのアナウンスが始まった。……私達の旅が、本格的に始まったのだ――。
『そうだな。ちょっと寂しいけどな。楽しんできなさい』
スマホにちらりと目を向けると、お父さんからラインの返信が届いていた――。


