お父さんはそれ以来、楓くんとの電話について何も話をしてくれなかった。当然気になってはいたけれど……答えてくれなさそうだったので、お父さんの方から何か言ってくれるのを待った。楓くんにDMするのも少し気が引けるようになっていた。
8月5日
15:07
『美咲ちゃん、体調大丈夫?』
久し振りの楓くんのDM。
(良かった……)
ずっと待っていた。何故だかちょっと気が引けていたところに、楓くんから送ってくれた。私の気持ちを知っているかのように。
15:15
『うん。今日は体調良い感じ』
『久し振り』
15:21
『ね。体調悪かったらどうしようかなって思ってた』
『大丈夫だったら……今日、会えない?』
(やった!)
楓くんから誘ってくれた。聞きたいこともあるし……会いたいに決まってる。ここ数日間、心の中がずっともやもやとしていたけれど、会えると分かっただけでクリアになった気がした。もしかたら楓くんも話がしたいことがあるかも知れないなと思った。
15:27
『大丈夫だよ! 磯子駅にする?』
15:32
『そうだね。駅で待ち合わせよう。何時が良い?』
15:37
『あんま暑くない方が良いな。夜でも大丈夫?』
15;40
『何時でも良いよ。どうしようか。夜の7時くらいは?』
15:43
『うん。大丈夫! 夜7時ね』
「よろしく!」とスタンプが返ってきて、静かにやり取りが終わる。
この前お父さんと楓くんは話をしている。まさか本当に。ビックリだ。何の話をしたのかは分からないけど。……だったら、聞いても良いよね。ぎくしゃくしたりしたんだろうか。でも電話の後のお父さんの様子を見ていたら、そんな風には思えなかった。
「ねえ、お父さん」
夜ご飯。テレビの音量を少し下げてお父さんに聞いてみた。ちょっとでも教えてもらえれば……楓くんと会った時に「ああ、知ってるよ」って言えると思って。
「楓くんとさ、この前どんな話したの?」
「そうだな……」
この前と様子が少し違う。この前は完全秘密主義みたいな感じで、何一つ触れさせてもらえなかったのに。
「え? 教えてくれるの?」
「話の内容、っていう訳じゃないけど」
「うん」
「熊本に行く飛行機。お父さんが取っておくから」
「……え?」
「そりゃそうだよ。お金どうするんだ」
「……コンビニで、とか。調べて無いけど、何とかなるかなって」
「良いよ。クレジットで払っておくから」
「あ、あぁ……うん」
「ホテルとか、そういう部分の、お金がある程度かかる手配はお父さんがやるから」
「……あ、ありがとう……」
予想とは全然違った。きっと「この前言ったろ。教えないよ」と言われるとばかり思っていた。ただただぽかんと、お父さんの言葉に頷くことしかできなかった。
「あっ……ご飯食べたら駅で楓くんと会ってくる」
「そうか。あんまり遅くならないようにな」
「うん」
夜の7時。
まだまだ駅前には多くの人がいた。本当に『地域のターミナル駅』という感じだから……この時間から新しく磯子にくる人は少ない。ほとんどの人が、会社や学校からの帰り。磯子に住んでいる人ばかり。
夏休みとはいえ、部活も休部しているし、学校の人に見られたら嫌だなあと思い、ちょっと遠回りしながら駅へと向かう。駅前は車やバス、行き交う人たちで色々な音がする。お店もまだまだ開いているので、煌々とした光がとっても眩しい。
夜とは思えない。熊本とは全然違う。
(……しまったな。改札前で知ってる人に会いたくないな)
まだ賑やかな時間帯。せっかく遠回りして駅まで来たのに、改札口にはできれば行きたくない。
18:52
『駅着いたよ。改札口、行きたくないんだよね』
『知ってる人、いたら嫌だし』
18:55
『そうだね。階段下りたところにあるポストにいて』
(ポスト?)
きょろきょろと辺りを見回すと、こじんまりとしたタクシー乗り場の近くに確かに郵便ポストがあった。だいぶ古そう。
(ここか……)
階段の方を向いていると、下りて来る人に顔を見られる。私はバスターミナルの方に体を向けて、誰からも見られないように努力した。
「美咲ちゃん」
背中から楓くんの声が聞こえる。ようやく私は階段の方に体を向けた。
「楓くん。……ごめんね、場所変えてもらって」
「ううん。今の時間、めっちゃ人いるからね」
「うん。知ってる人がいたら、会いたくないなぁって」
「だよね」
楓くんは「こっちなら大丈夫かも」と言い、自然な流れで私の手を握ってくれた。手を繋ぐのは凄く久し振りな感じがして、少し恥ずかしかった。地元の駅だからというのが一番大きな理由かもと思った。
「どこ行くの?」
「ん? あの団地のとこ行こうかなって」
駅の目の前には、大きな団地が2つ立ち並んでいる。私が住んでいるのは逆方向だからあまり意識したことは無い。周りのマンションと比べてみても、明らかにサイズ感は一回り以上ある感じ。
「……ああ、あの大きいやつのとこ?」
「そう。あの団地の間に公園があるんだよ」
「公園あるんだ。……知らなかった」
「まぁ、美咲ちゃんの家、こっちじゃ無いもんね」
家路に向かう大勢の人たちに混じりながら、私達は身を寄せるように歩いて、団地の公園へと向かった。
こんな時間に外を歩くのは久し振りだった。最近は散歩にも出ていなかったから。歩いてる人達に目をやると、半袖だったり長袖を捲ったりしている。
夜の7時は、湿気が重たくてとても暑い――。
8月5日
15:07
『美咲ちゃん、体調大丈夫?』
久し振りの楓くんのDM。
(良かった……)
ずっと待っていた。何故だかちょっと気が引けていたところに、楓くんから送ってくれた。私の気持ちを知っているかのように。
15:15
『うん。今日は体調良い感じ』
『久し振り』
15:21
『ね。体調悪かったらどうしようかなって思ってた』
『大丈夫だったら……今日、会えない?』
(やった!)
楓くんから誘ってくれた。聞きたいこともあるし……会いたいに決まってる。ここ数日間、心の中がずっともやもやとしていたけれど、会えると分かっただけでクリアになった気がした。もしかたら楓くんも話がしたいことがあるかも知れないなと思った。
15:27
『大丈夫だよ! 磯子駅にする?』
15:32
『そうだね。駅で待ち合わせよう。何時が良い?』
15:37
『あんま暑くない方が良いな。夜でも大丈夫?』
15;40
『何時でも良いよ。どうしようか。夜の7時くらいは?』
15:43
『うん。大丈夫! 夜7時ね』
「よろしく!」とスタンプが返ってきて、静かにやり取りが終わる。
この前お父さんと楓くんは話をしている。まさか本当に。ビックリだ。何の話をしたのかは分からないけど。……だったら、聞いても良いよね。ぎくしゃくしたりしたんだろうか。でも電話の後のお父さんの様子を見ていたら、そんな風には思えなかった。
「ねえ、お父さん」
夜ご飯。テレビの音量を少し下げてお父さんに聞いてみた。ちょっとでも教えてもらえれば……楓くんと会った時に「ああ、知ってるよ」って言えると思って。
「楓くんとさ、この前どんな話したの?」
「そうだな……」
この前と様子が少し違う。この前は完全秘密主義みたいな感じで、何一つ触れさせてもらえなかったのに。
「え? 教えてくれるの?」
「話の内容、っていう訳じゃないけど」
「うん」
「熊本に行く飛行機。お父さんが取っておくから」
「……え?」
「そりゃそうだよ。お金どうするんだ」
「……コンビニで、とか。調べて無いけど、何とかなるかなって」
「良いよ。クレジットで払っておくから」
「あ、あぁ……うん」
「ホテルとか、そういう部分の、お金がある程度かかる手配はお父さんがやるから」
「……あ、ありがとう……」
予想とは全然違った。きっと「この前言ったろ。教えないよ」と言われるとばかり思っていた。ただただぽかんと、お父さんの言葉に頷くことしかできなかった。
「あっ……ご飯食べたら駅で楓くんと会ってくる」
「そうか。あんまり遅くならないようにな」
「うん」
夜の7時。
まだまだ駅前には多くの人がいた。本当に『地域のターミナル駅』という感じだから……この時間から新しく磯子にくる人は少ない。ほとんどの人が、会社や学校からの帰り。磯子に住んでいる人ばかり。
夏休みとはいえ、部活も休部しているし、学校の人に見られたら嫌だなあと思い、ちょっと遠回りしながら駅へと向かう。駅前は車やバス、行き交う人たちで色々な音がする。お店もまだまだ開いているので、煌々とした光がとっても眩しい。
夜とは思えない。熊本とは全然違う。
(……しまったな。改札前で知ってる人に会いたくないな)
まだ賑やかな時間帯。せっかく遠回りして駅まで来たのに、改札口にはできれば行きたくない。
18:52
『駅着いたよ。改札口、行きたくないんだよね』
『知ってる人、いたら嫌だし』
18:55
『そうだね。階段下りたところにあるポストにいて』
(ポスト?)
きょろきょろと辺りを見回すと、こじんまりとしたタクシー乗り場の近くに確かに郵便ポストがあった。だいぶ古そう。
(ここか……)
階段の方を向いていると、下りて来る人に顔を見られる。私はバスターミナルの方に体を向けて、誰からも見られないように努力した。
「美咲ちゃん」
背中から楓くんの声が聞こえる。ようやく私は階段の方に体を向けた。
「楓くん。……ごめんね、場所変えてもらって」
「ううん。今の時間、めっちゃ人いるからね」
「うん。知ってる人がいたら、会いたくないなぁって」
「だよね」
楓くんは「こっちなら大丈夫かも」と言い、自然な流れで私の手を握ってくれた。手を繋ぐのは凄く久し振りな感じがして、少し恥ずかしかった。地元の駅だからというのが一番大きな理由かもと思った。
「どこ行くの?」
「ん? あの団地のとこ行こうかなって」
駅の目の前には、大きな団地が2つ立ち並んでいる。私が住んでいるのは逆方向だからあまり意識したことは無い。周りのマンションと比べてみても、明らかにサイズ感は一回り以上ある感じ。
「……ああ、あの大きいやつのとこ?」
「そう。あの団地の間に公園があるんだよ」
「公園あるんだ。……知らなかった」
「まぁ、美咲ちゃんの家、こっちじゃ無いもんね」
家路に向かう大勢の人たちに混じりながら、私達は身を寄せるように歩いて、団地の公園へと向かった。
こんな時間に外を歩くのは久し振りだった。最近は散歩にも出ていなかったから。歩いてる人達に目をやると、半袖だったり長袖を捲ったりしている。
夜の7時は、湿気が重たくてとても暑い――。


