神社ってね、感謝をするところなんだよ

病院から帰ってきて、ずっとぼんやりしていたような気がする。電気も点けずに部屋に籠って、確かベッドに寄りかかるように座った。そのまま……じっとうずくまっていたはず。

気が付くと、辺りは薄暗くなり始めていた。電気を点けていない部屋の中は一層暗闇に包まれていた。スマホを見る気も起きない。寝る気にもならない。考えてみればだるい。体がだるい。ぼーっとすることしかできない。……頭も回らない。

「……美咲?」

ドアの向こうからお父さんの声が聞こえた。私は無視することなく小さく蚊の鳴くような返事だけをした。

「……うん」
「……どうする?」
「えっ……? 何が」
「ご飯だよ。ご飯」
「あぁ……ご飯か。良いや」
「そうか。食べれそうなら、食べて」

それだけ言うと、お父さんは台所の方に向かった。遠ざかっていく足音が、心なしか軽くなっていた気がした。お父さんの言葉にも感情は込められていなかった。

(――私――……死ぬ?)

春からずっとおかしかった体調。
何でこんなにだるくて、疲れるの?
何でこんなに熱が出てばっかなの?
何でこんなに……頭もお腹も痛いの……?

絶対におかしいじゃん……!

死ぬの?

ねえ……。
嫌だ。

(……まだ生きたい……死にたくない)

死ぬなんて……考えたことないよ。

ゆっくりと立ち上がって、よろけるようにリビングの方に歩いた。熱はさほど無さそうだったけれど、「どこを歩いているんだろう」と思った。

「……ねえ、お父さん」
お父さんは鍋に水を入れて、火をかけたところだった。軽すぎる私の足音に、気が付いていなかったように感じた。

「……どうした。寝てなくて大丈夫なのか」

気丈に振舞ってくれているのが分かる。だからこそ辛い。きっと……私の状況は良くない。お父さんを見てれば分かる。何年お父さんと一緒に暮らしていると思っているの?

「……うん。まあ大丈夫。……ねえ、お父さん」
「どうした?」

「私さ、死ぬのかな」

お父さんは一瞬ピクリとした。自分でも意外なほどあっさりと口から出た言葉だった。言葉を聞いた相手が、どう感じるかなんて……何一つ考えることができなくなっていた。お父さんは火を止めて、無言のまま椅子に腰を下ろした。
「死なないよ」
「……何で分かるの」
「まだ何も分かってないだろ。そのために大きい病院に行くんだよ」
「……絶対死ぬじゃん!」
「美咲!」
「死ぬじゃん……」

「……」
「ごめん……お父さん」
「何が?」
「こんな体になって……ごめん」
「何……言い出すんだ……」
「ごめん……茜と同じなんだよね? ……きっと」
「何言ってるんだ……そんなこと分からないって」
「優しいんだよお父さんは。私には分かるもん……」

もう……どうにでもなれば良いんだ……

「だって……おかしいもん!」
「……」
「熱だってこんなに出るし……疲れてばっかだし!」
「……」
「頭も……お腹だってさ……こんなに痛いんだよ!? ねえ、おかしくない!?」
「……」
「……絶対……絶対おかしいもん」

「私……まだ死にたくないよ!! ねえ!!」
「……」
「ねえ!! ねえってば!!」
「……」
「もっと生きたい!! 嫌だ! 嫌だよ……!!」

「美咲! それ以上言うな!! ……許さんぞ!!」
「うぅぅ……嫌だぁー……」

お父さんの胸の中で、私は泣いた。どうにもならない感情をとにかく目の前の胸に対してぶつけた。もっと生きたい。まだ死にたくない。もっと生きたい――。

どうすれば良いの……?
ねえ、教えてよ
……私がさ……何したの?