「でも……どれくらい振りだろうな」
「……何が?」
「ん? 美咲のそんな表情。お父さん、しばらく記憶に無いな」
お父さんは目を細めるように、椅子に座ったまま暗くなった外の景色を見つめた。
「……お父さん」
「ん? どうした?」
「……」
「どうした」
「あのね」
「私……」
「うん」
「楓くんと……熊本に行きたいんだよ。……駄目?」
「熊本? 旅行に行くってことか?」
「旅行って言うか……旅行じゃない」
「旅行じゃない?」
「……そう」
「何て言うか、上手くいえないけど……ちゃんと整理したいっていうか」
「……」
「茜のことは忘れてないよ。でも、色々あったから。あんまり覚えてないんだよ。あの頃のこと」
「……うん」
「少しずつ、何となく思い出してきた感じはあるけどさ……あんまり記憶が残ってないんだよね」
「……」
「だから……ここで生活してたんだなあとか、今までありがとうとか……気持ちの整理をしてきたい」
「……なるほどな」
それからしばらくお父さんは考え事をしているようだった。じっと一点を見つめながら、腕組みをし続けている。さっきまでここにいた、私がいないかのように。
「……気持ちは分かる」
「……うん」
「言いたいことも分かるよ」
「うん」
「……」
「駄目? 行っちゃ駄目? 行きたいんだよ私」
「……うーん」
何を心配しているのかなんて……流石にちゃんと分かってるよ。でも、私の今の正直な想いを、ちゃんと伝えたかったんだよ。
「……そうだなぁ」
「うん」
「条件があるかな」
「……条件?」
「あぁ。そうだな。条件」
「……何?」
「……」
「何? 条件って」
お父さんは再び押し黙ってしまった。今日の私のように、言おうか言うまいか悩んでいるようにも見えた。お父さんがしゃべり出したのは、しばらくしてからだった。
「病院でちゃんと検査して欲しいんだよ」
「……」
「……そしたら、良いかな。それが条件かな」
「病院」
「ああ。こっちに来てから……お父さんずっと心配だったからな」
「……うん。分かってる」
「楓くん? だっけ。彼とのことは応援しているよ。反対なんかしていない」
「うん。ありがとう」
「とにかく……体調が心配だから。一度ちゃんと診てもらって。何も無ければお父さんも安心だしな」
「……」
鼻から小さく息を吐き出して、思わず下に目をやる。もちろんちゃんと分かってる。一度病院に行った方が良いんだろうなっていうことくらい。
でも、何だか怖かった。
「寝てれば治る」って毎回毎回思っていて、半年間ここまで来た。
「あのさ」
「うん? どうした?」
「もしだよ? もし」
「うん」
「もし病院行ってさ、何か問題あったら……行っちゃ駄目ってことだよね?」
「……そんなの検査の結果次第だろ」
「まあ、そうだよね」
(……どうしよう)
詳しいことは全然分からないけれど、何か検査で引っかかってしまったら……熊本に楓くんと一緒に行けなくなる。私は、この夏休みに行きたい。だって楓くんは学校休むわけにいかないんだから――。
「分かった」
「私……行くよ。病院」
半年間、止まった時間。私は前に進みたい。ここ最近自分の人生が、少しずつ変わっていくのが分かる。ちゃんと検査して、私はもっと前に進みたい。楓くんと。
お父さんにも今まで心配かけっぱなしだから……安心して欲しいし。「ほら、何の問題も無いでしょ?」ってお父さんに言いたい――。そうだよね。皆心配してくれていたのに、私自身がそこから逃げてきたから……。
(……よし!)
進もう、前に。
皆と一緒に。
私、決めた。
「……何が?」
「ん? 美咲のそんな表情。お父さん、しばらく記憶に無いな」
お父さんは目を細めるように、椅子に座ったまま暗くなった外の景色を見つめた。
「……お父さん」
「ん? どうした?」
「……」
「どうした」
「あのね」
「私……」
「うん」
「楓くんと……熊本に行きたいんだよ。……駄目?」
「熊本? 旅行に行くってことか?」
「旅行って言うか……旅行じゃない」
「旅行じゃない?」
「……そう」
「何て言うか、上手くいえないけど……ちゃんと整理したいっていうか」
「……」
「茜のことは忘れてないよ。でも、色々あったから。あんまり覚えてないんだよ。あの頃のこと」
「……うん」
「少しずつ、何となく思い出してきた感じはあるけどさ……あんまり記憶が残ってないんだよね」
「……」
「だから……ここで生活してたんだなあとか、今までありがとうとか……気持ちの整理をしてきたい」
「……なるほどな」
それからしばらくお父さんは考え事をしているようだった。じっと一点を見つめながら、腕組みをし続けている。さっきまでここにいた、私がいないかのように。
「……気持ちは分かる」
「……うん」
「言いたいことも分かるよ」
「うん」
「……」
「駄目? 行っちゃ駄目? 行きたいんだよ私」
「……うーん」
何を心配しているのかなんて……流石にちゃんと分かってるよ。でも、私の今の正直な想いを、ちゃんと伝えたかったんだよ。
「……そうだなぁ」
「うん」
「条件があるかな」
「……条件?」
「あぁ。そうだな。条件」
「……何?」
「……」
「何? 条件って」
お父さんは再び押し黙ってしまった。今日の私のように、言おうか言うまいか悩んでいるようにも見えた。お父さんがしゃべり出したのは、しばらくしてからだった。
「病院でちゃんと検査して欲しいんだよ」
「……」
「……そしたら、良いかな。それが条件かな」
「病院」
「ああ。こっちに来てから……お父さんずっと心配だったからな」
「……うん。分かってる」
「楓くん? だっけ。彼とのことは応援しているよ。反対なんかしていない」
「うん。ありがとう」
「とにかく……体調が心配だから。一度ちゃんと診てもらって。何も無ければお父さんも安心だしな」
「……」
鼻から小さく息を吐き出して、思わず下に目をやる。もちろんちゃんと分かってる。一度病院に行った方が良いんだろうなっていうことくらい。
でも、何だか怖かった。
「寝てれば治る」って毎回毎回思っていて、半年間ここまで来た。
「あのさ」
「うん? どうした?」
「もしだよ? もし」
「うん」
「もし病院行ってさ、何か問題あったら……行っちゃ駄目ってことだよね?」
「……そんなの検査の結果次第だろ」
「まあ、そうだよね」
(……どうしよう)
詳しいことは全然分からないけれど、何か検査で引っかかってしまったら……熊本に楓くんと一緒に行けなくなる。私は、この夏休みに行きたい。だって楓くんは学校休むわけにいかないんだから――。
「分かった」
「私……行くよ。病院」
半年間、止まった時間。私は前に進みたい。ここ最近自分の人生が、少しずつ変わっていくのが分かる。ちゃんと検査して、私はもっと前に進みたい。楓くんと。
お父さんにも今まで心配かけっぱなしだから……安心して欲しいし。「ほら、何の問題も無いでしょ?」ってお父さんに言いたい――。そうだよね。皆心配してくれていたのに、私自身がそこから逃げてきたから……。
(……よし!)
進もう、前に。
皆と一緒に。
私、決めた。


