神社ってね、感謝をするところなんだよ

「ここさ、小さい頃によく連れてきてもらってたなぁ」と楓くんは目を細めながら歩く。
風が吹き抜けるような公園。奥に進むにつれて、木々が出迎えてくれるけれど、意外と高さは無くて、低い木が多い。久良岐公園とは全然違った。みんなのんびりとピクニックでもしているかのよう。

「でもさ、小さい頃って……何するの? あの辺を散歩でもするの?」
「いや、俺が小さい頃ってさ、結構雪が降ってて」
「……雪? この辺、雪降るの?」
「最近はあんまり降らないけどね。子供の頃は、冬休みに結構降ってたよ」
「へえ、そうなんだ」
「で、小さいソリで滑るんだよ。それくらい降ってたんだよ」

ずっと過去を思い出しながら、遠くを見つめる楓くん。流木を集めたかのような階段を1段ずつ下りていくと、メインの公園に着いた。さっき「ここは昔、競馬場だったんだって」といっていた楓くんの言葉を思い出す。

「……なにここ……凄く広い」
「でしょ。良いでしょ? ここ」
「うん……。凄い」
「気に入ってんだよね。ここ」

ジョギングをしたり、散歩をしたり……空から見ると、きっと『ひょうたん』のような……楕円形をしているかのような公園。外周はコンクリートで綺麗に舗装されていて、空気ものびのびとしている。中央部分は芝生で覆われていて、ゴロンと気持ち良さそうに寝ている人もいれば、小さな子供を連れてきてシートを敷いている家族もいた。

ふと我に返った私。午後の暑さが効いているのか、だいぶふらふらとしてきた。いや元々ずっとふらふらだったのかも知れない。高揚していた私の心は、穏やかな公園の空気で一気に現実に引き戻されていた。

(きついな……少し休みたい)
ちょっとだけ下り坂になっている道を、注意深く、歩幅を狭めながら歩いていく。
「ねえ、わたし達もさ、あの辺でゴロンとしようよ」少しだけ無理に作った笑顔を楓くんに向ける。

「いやぁー……私、ここ好きだな! マイナスイオンだ!」
元気を装おうように芝生へ小走りをする。本当は今すぐにでも芝生に倒れ込みたかった。
「あー……気持ち良い! 一面緑だあ……」
最後の言葉を振り絞るかのように両手を広げて、私は芝生に勢いよく座り込んだ。
「ね。ここ、気持ち良いでしょ」
より一層穏やかそうな表情を浮かべている楓くん。私の隣に、ゆっくりと腰を下ろす。

「楓くん、私さ……来れてよかったよ。ありがとう」
「いや。気に入ってもらえて良かった。……体調、大丈夫?」
「優しいね……まあ大丈夫かな」
「それなら良いけど」
「……今日、だいぶ歩いたからね。ちょっと疲れてるけどね」

突き抜けるような青空……。寝そべりながら目を開けると、視界全体が青く覆われていた。初めて来た。こんな場所。体調が悪くなっていたのは事実だけれど、本当に心の中がすっと穏やかになっていくのも感じる。

どんな場所にきても「ここに茜が来たら……何て言うんだろう」と真っ先に思ってしまう。……いつになったら、忘れることができるんだろう?

……忘れる必要なんて、無いのかな。分からない。何を考えたら良いのか。どうしたら良いのか。

よく、分からない。

「起きてる? 寝ちゃった?」
楓くんの声で、はっと目が覚めた。どれくらい経ったのか分からないけれど、時間が少しジャンプしているような感覚。

「……あ、うん。ちょっと寝てたかも」
「大丈夫?」
「……うん、大丈夫。どのくらい時間経った?」
「え? 2、30秒くらいじゃないかなぁ」
「そっか」

体調があんまり良くないのもあるけど……とにかくここは気持ちが良すぎる。風が吹くと、より心地良い。木の葉がザザザ―……ッと音を立てて、芝生と一緒に揺れる。

立っている時と比べると、若干気温も低く感じる。きっと芝生の温もりが、私の体温を下げてくれているんだと思う。

のんびりとした、心地良い空間。時間を止めるかのように私達を包み込む――。