磯子駅と違って、根岸駅のバスターミナルは狭くて分かりやすい。磯子駅は歩道橋を下ってからバスターミナルに下りていく必要があるのに、ここはわざわざそんなことをしなくても、直接歩いてバス乗り場へと行けた。
調べてくれたお陰で、出発の時間を見計らってから喫茶店を出る。1分も歩けばバス乗り場から目当てのバスに簡単に乗ることができた。お昼をだいぶ回ったバスの中は、あまり人が乗っていなくて一番後ろの席に座ることができた。
「窓側、座ったら?」
「……ありがとう。そうしよっかな」
楓くんが奥の方に入るように誘導してくれた。窓側の席は、少し奥に入った感じでとても落ち着く。バスのシートは私達の距離をぐっと縮めてくれていて、意識するかのように肩を少し丸めて座った。
しばらく平坦な道をずっと進んでいたバス。左に曲がったと思ったら、突然急な坂道を登り出す。窓際で日差しが眩しくて目を細めていたのに、坂道に入った途端に鬱蒼と茂る木々のカーテンをくぐり抜けていくかのようだった。
横ではずっと楓くんが「……懐かしいなぁ」とつぶやいている。坂を登り切ると、そこは根岸森林公園。あっという間に着いてしまった。根岸駅からバスに乗り込んで、わずか10分程度の乗車。
「……さっきの坂。凄かったね」
「でしょ? 俺も初めて来た時、あの坂めっちゃ驚いたもん」
「そっか。小さい頃、よく来てたって言ってたもんね」
バスを降りたのは私達2人だけ。重い排気ガスをゆっくりと吐き出しながら、バスは私の知らない道を進んで行き、どんどんどんどん小さくなっていった。
「……歩いて来なくて良かった。大変だよね、あの坂」
もし歩いて来ていたら、あの坂はたぶん上りきれていない。根岸森林公園の入口は、すぐ隣がアメリカ軍に接収されていたエリアらしく、熊本にも磯子にも無い、穏やかで静かな空気が広がっていた。「最近返還されたらしいよ」と楓くんが言った。
「歩いてくる時は、あの坂じゃないんだよ」
「……何それ。別の場所があるって意味?」
「そう。根岸駅から歩いてくる人向けに、階段があるんだよ」
根岸駅から歩いて来る人達は、さっきの坂の脇道に階段があって、そこを上ってくるらしい。坂を歩いて上る人は、あまり見ないって言っていた。
「で、途中から坂道に合流する感じ」
「ふうん……でもさ、この辺りって空気感が違うよね」
坂を上ってきたから、この辺りは高台なんだろうなと察しはつくけれど、ちょっと涼し気な雰囲気。洋風の家もちらほらある。
「さっきも言ったけどさ、この辺は割と最近までアメリカに接収されてたんだよ」
「……そっか」
この地域は第2次世界大戦後、アメリカの管轄下にあったらしい。……なるほど、だから洋風の家も多いんだなと思った。返還されたのは、結構最近のことらしい。
「だから……なんかさ、洋風の家も多いなって思ってたんだよね」
「そうそう。結構英語で書かれたの、多いでしょ。ほら」
そう言うと楓くんは、すぐ近くある郵便ポストを指さす。
「……本当だ! 英語じゃん!」
至るところに横文字。ポストの近くにある建物にも、やはり英語が記してあった。空気もやっぱりなんだか違う。現実を歩いているのに、映画のセットの中にいるような感じがする。
「この公園、しかも昔は競馬場だったんだって」
「競馬場? 何それ色々興味深いんだけど……」
道路に沿って歩いて、森林公園の入口へと向かう。この前行った、磯子の久良岐公園と違って、森林公園は『開かれた公園』って感じがした。あまり『森林』って感じがしない。でも、静かで広い。久良岐公園は狭いというか、閉ざされていたような感覚だった。
「……この中、相当広そうだね」
「うん。だいぶ広いと思う。でも久良岐公園と違って、横に広いみたいなイメージかなぁ」
「分かる。久良岐公園は『奥が深い』みたいな感じだったもんねえ。ちょっと調べてみる」
「載ってるかなぁ……まぁ、載ってるか」
「ねえ! 凄いじゃん、ここ! 東京ドーム約4個分の広さらしいよ!」
「へぇー……初めて知った。そんな広いんだここ」
「え? そんなに驚かない? 凄くない?」
「いや、俺、東京ドーム行ったこと無くて」
「そういうことじゃないよ。面白いな楓くん」
くすりと笑いながら、再びスマホに目をやる。視界に入ってきた森林公園の入口は、どこか懐かしさを覚えた。アスファルトで舗装された道。太陽も一番高い位置を過ぎて、そこまで暑さを感じない。カーディガンをほんのちょっとだけ押さえながら、私達は奥へと進んで行った。
調べてくれたお陰で、出発の時間を見計らってから喫茶店を出る。1分も歩けばバス乗り場から目当てのバスに簡単に乗ることができた。お昼をだいぶ回ったバスの中は、あまり人が乗っていなくて一番後ろの席に座ることができた。
「窓側、座ったら?」
「……ありがとう。そうしよっかな」
楓くんが奥の方に入るように誘導してくれた。窓側の席は、少し奥に入った感じでとても落ち着く。バスのシートは私達の距離をぐっと縮めてくれていて、意識するかのように肩を少し丸めて座った。
しばらく平坦な道をずっと進んでいたバス。左に曲がったと思ったら、突然急な坂道を登り出す。窓際で日差しが眩しくて目を細めていたのに、坂道に入った途端に鬱蒼と茂る木々のカーテンをくぐり抜けていくかのようだった。
横ではずっと楓くんが「……懐かしいなぁ」とつぶやいている。坂を登り切ると、そこは根岸森林公園。あっという間に着いてしまった。根岸駅からバスに乗り込んで、わずか10分程度の乗車。
「……さっきの坂。凄かったね」
「でしょ? 俺も初めて来た時、あの坂めっちゃ驚いたもん」
「そっか。小さい頃、よく来てたって言ってたもんね」
バスを降りたのは私達2人だけ。重い排気ガスをゆっくりと吐き出しながら、バスは私の知らない道を進んで行き、どんどんどんどん小さくなっていった。
「……歩いて来なくて良かった。大変だよね、あの坂」
もし歩いて来ていたら、あの坂はたぶん上りきれていない。根岸森林公園の入口は、すぐ隣がアメリカ軍に接収されていたエリアらしく、熊本にも磯子にも無い、穏やかで静かな空気が広がっていた。「最近返還されたらしいよ」と楓くんが言った。
「歩いてくる時は、あの坂じゃないんだよ」
「……何それ。別の場所があるって意味?」
「そう。根岸駅から歩いてくる人向けに、階段があるんだよ」
根岸駅から歩いて来る人達は、さっきの坂の脇道に階段があって、そこを上ってくるらしい。坂を歩いて上る人は、あまり見ないって言っていた。
「で、途中から坂道に合流する感じ」
「ふうん……でもさ、この辺りって空気感が違うよね」
坂を上ってきたから、この辺りは高台なんだろうなと察しはつくけれど、ちょっと涼し気な雰囲気。洋風の家もちらほらある。
「さっきも言ったけどさ、この辺は割と最近までアメリカに接収されてたんだよ」
「……そっか」
この地域は第2次世界大戦後、アメリカの管轄下にあったらしい。……なるほど、だから洋風の家も多いんだなと思った。返還されたのは、結構最近のことらしい。
「だから……なんかさ、洋風の家も多いなって思ってたんだよね」
「そうそう。結構英語で書かれたの、多いでしょ。ほら」
そう言うと楓くんは、すぐ近くある郵便ポストを指さす。
「……本当だ! 英語じゃん!」
至るところに横文字。ポストの近くにある建物にも、やはり英語が記してあった。空気もやっぱりなんだか違う。現実を歩いているのに、映画のセットの中にいるような感じがする。
「この公園、しかも昔は競馬場だったんだって」
「競馬場? 何それ色々興味深いんだけど……」
道路に沿って歩いて、森林公園の入口へと向かう。この前行った、磯子の久良岐公園と違って、森林公園は『開かれた公園』って感じがした。あまり『森林』って感じがしない。でも、静かで広い。久良岐公園は狭いというか、閉ざされていたような感覚だった。
「……この中、相当広そうだね」
「うん。だいぶ広いと思う。でも久良岐公園と違って、横に広いみたいなイメージかなぁ」
「分かる。久良岐公園は『奥が深い』みたいな感じだったもんねえ。ちょっと調べてみる」
「載ってるかなぁ……まぁ、載ってるか」
「ねえ! 凄いじゃん、ここ! 東京ドーム約4個分の広さらしいよ!」
「へぇー……初めて知った。そんな広いんだここ」
「え? そんなに驚かない? 凄くない?」
「いや、俺、東京ドーム行ったこと無くて」
「そういうことじゃないよ。面白いな楓くん」
くすりと笑いながら、再びスマホに目をやる。視界に入ってきた森林公園の入口は、どこか懐かしさを覚えた。アスファルトで舗装された道。太陽も一番高い位置を過ぎて、そこまで暑さを感じない。カーディガンをほんのちょっとだけ押さえながら、私達は奥へと進んで行った。


