初めてやってきた根岸駅、神社から10分もかからなかった。確かに、磯子駅と雰囲気は似ている。どちらも私には……閉ざされた空間というか、ここだけで生活が完結する感じがした。小さい頃から生活をしてきたわけじゃないけれど、きっと各駅から出ることはあまり無いんだろうなと思った。
「んっ……?」
唯一、磯子駅と違うなと思ったのは、根岸駅は駅前に喫茶店があること。
「……そういえばさ」
「何?」
「楓くん、この前『森林公園』があるって言ってなかったっけ?」
「あるよ。あっちの方」
私達が歩いてきた方向をさらに進んだ方向指さした。更に国道が延々と伸びているように見える。
「結構遠いの?」
「……歩いて30分くらい?」
「バスは? バスあるんじゃない?」
「まぁ……たぶん、流石にあるとは思うけど」
「ね! 私、行ってみたい! まだ早いしさ、行かない?」
正直、体が重たい。全身に鉛でも入っているんじゃないかと思うくらい。でも行ってみたいと思った。楓くんと大きな、のんびりできそうな公園を2人で歩きたいと心から思った。
「良いけど……美咲ちゃん、大丈夫なの?」
「バスなら、大丈夫!」
本当のところは分からない。そもそも今ですら、正直きつい。
「本当?」
「うん。熱とかあるわけじゃないからさ」
本当は測ってみたら、熱が出ているのかも知れない。自分の体に意識を集中してみる。不思議と『体温』をあまり感じなかった。
「その前にさ……何か少し食べても良い? 喫茶店で」
さっきからずっと気になっていた喫茶店。楓くんも気になっていたらしく、誘ってくれた。
「……あ、うん。良いね。実は私もさっきから気になってたんだよね」
「だよね。磯子に無いもんね。こんな喫茶店」
磯子駅では狭い店内が2階建てのような感じになっていたけど、ここはそんなことはない。どこかで聞いた気がするなと、記憶を辿ってみると熊本にもあったような気がした。
「……熊本にもあったような気がするなあ」
「そうなんだ」
「中学生だったから。入ったことはないけどね」
賑やかだった下通。大きなアーケードの一角に、同じ名前の喫茶店があった。急に正面の画が浮かび、懐かしくなる。
アイスコーヒーを注文して、パンを2個手に取る。磯子の喫茶店と同じで、やっぱり今の私には少し寒い。窓際は道を歩く人が見えて解放感があった。会計を終えると、トレーを窓際のテーブルに静かに置いて、カーディガンに再び袖を通した。
「いや、暑かったね……」
小さく息を吐き出して、楓くんがアイスコーヒーにストローを指す。ピリリと音を立ててストローの袋を裂いているのが、何だか羨ましかった。
「本当だよね。暑かったな。ねえねえ、何かさ……『デート』って感じだよね」
「……え? デートじゃないの? これ」
「いや……そういう意味じゃないってば」
私はホットココア。両手でカップを包み込むようにして、口元へと運んだ。白く立ち上る細い湯気。夏の暑い景色とは対照的だなと私は感じた。
「俺、この喫茶店……中学生だった時から、入ってみたかったんだよね」
「そうなんだ」
「うん。中学生にはハードル高い」
「まぁ……そうだよねえ」
そう言われて初めてぐるりと周囲を見回す。目を見開いて話をしている女性が2人。真剣な表情でスマホを覗いているサラリーマン。やっぱり大人ばかりだ。流石に学生はいなさそうだった。
「じゃあ、ちょっと調べてみようかな」
そう言うと楓くんはスマホを取り出して、バスの時間を検索し始める。私はビリッとパンの封を開けて、一口頬張った。念願だったその味は、楓くんと一緒に食べたからなのか、いつも食べるパンよりも、10倍美味しく感じてほっぺたがきゅっと痛くなった。
(……ちょっと胃が痛いかも)
せっかくの2人のデートなのに。「もう少し私に時間をくれても良いじゃん」と思いながら、パンはゆっくりと食べることにした。
「んっ……?」
唯一、磯子駅と違うなと思ったのは、根岸駅は駅前に喫茶店があること。
「……そういえばさ」
「何?」
「楓くん、この前『森林公園』があるって言ってなかったっけ?」
「あるよ。あっちの方」
私達が歩いてきた方向をさらに進んだ方向指さした。更に国道が延々と伸びているように見える。
「結構遠いの?」
「……歩いて30分くらい?」
「バスは? バスあるんじゃない?」
「まぁ……たぶん、流石にあるとは思うけど」
「ね! 私、行ってみたい! まだ早いしさ、行かない?」
正直、体が重たい。全身に鉛でも入っているんじゃないかと思うくらい。でも行ってみたいと思った。楓くんと大きな、のんびりできそうな公園を2人で歩きたいと心から思った。
「良いけど……美咲ちゃん、大丈夫なの?」
「バスなら、大丈夫!」
本当のところは分からない。そもそも今ですら、正直きつい。
「本当?」
「うん。熱とかあるわけじゃないからさ」
本当は測ってみたら、熱が出ているのかも知れない。自分の体に意識を集中してみる。不思議と『体温』をあまり感じなかった。
「その前にさ……何か少し食べても良い? 喫茶店で」
さっきからずっと気になっていた喫茶店。楓くんも気になっていたらしく、誘ってくれた。
「……あ、うん。良いね。実は私もさっきから気になってたんだよね」
「だよね。磯子に無いもんね。こんな喫茶店」
磯子駅では狭い店内が2階建てのような感じになっていたけど、ここはそんなことはない。どこかで聞いた気がするなと、記憶を辿ってみると熊本にもあったような気がした。
「……熊本にもあったような気がするなあ」
「そうなんだ」
「中学生だったから。入ったことはないけどね」
賑やかだった下通。大きなアーケードの一角に、同じ名前の喫茶店があった。急に正面の画が浮かび、懐かしくなる。
アイスコーヒーを注文して、パンを2個手に取る。磯子の喫茶店と同じで、やっぱり今の私には少し寒い。窓際は道を歩く人が見えて解放感があった。会計を終えると、トレーを窓際のテーブルに静かに置いて、カーディガンに再び袖を通した。
「いや、暑かったね……」
小さく息を吐き出して、楓くんがアイスコーヒーにストローを指す。ピリリと音を立ててストローの袋を裂いているのが、何だか羨ましかった。
「本当だよね。暑かったな。ねえねえ、何かさ……『デート』って感じだよね」
「……え? デートじゃないの? これ」
「いや……そういう意味じゃないってば」
私はホットココア。両手でカップを包み込むようにして、口元へと運んだ。白く立ち上る細い湯気。夏の暑い景色とは対照的だなと私は感じた。
「俺、この喫茶店……中学生だった時から、入ってみたかったんだよね」
「そうなんだ」
「うん。中学生にはハードル高い」
「まぁ……そうだよねえ」
そう言われて初めてぐるりと周囲を見回す。目を見開いて話をしている女性が2人。真剣な表情でスマホを覗いているサラリーマン。やっぱり大人ばかりだ。流石に学生はいなさそうだった。
「じゃあ、ちょっと調べてみようかな」
そう言うと楓くんはスマホを取り出して、バスの時間を検索し始める。私はビリッとパンの封を開けて、一口頬張った。念願だったその味は、楓くんと一緒に食べたからなのか、いつも食べるパンよりも、10倍美味しく感じてほっぺたがきゅっと痛くなった。
(……ちょっと胃が痛いかも)
せっかくの2人のデートなのに。「もう少し私に時間をくれても良いじゃん」と思いながら、パンはゆっくりと食べることにした。


