神社ってね、感謝をするところなんだよ

「……そうなの?」
「うん」
「神社って、お願いするところかと思ってた」
「でしょう? ……私もなんだよね」
「え? 美咲ちゃんも?」
「うん」
「……どういうこと」
「いや、この前、お父さんに教えてもらったんだよね」
「そっか。じゃあ何するところなんだろう」
「感謝するところって言ってたよ。お父さん」
「感謝か……」

パンッ!パンッ! 
と2回拍手をして、じっと目を瞑る。

(……茜が妹になってくれて……ありがとうございます)
(楓くんと出会わせてくれて……ありがとうございます)

感謝となれば私が伝えることは、どの神社でも同じ。「神社ごとに変えた方が良いのかな」と思ったりもするけれど、まぁ良いかという結論に落ち着ている。

「ねえ、楓くんはどんな感謝したの?」
「……内緒」
「えー……ずるい! 教えてよ」
「うーん」
「何?」
「……急には無理だった」
「え? じゃあまたお願いでもしたの?」
「してないよ。だってお願いする場所じゃ無いんでしょ?」
「何よ、それ」

笑いながら石段の方へと歩く。1mmも風が吹いてこないけれど、一番上の石段に腰を下ろした。「やっと座れた」と思っていることがバレないように。

「でもなぁ……最初はそうだったんだよね。私」
「どういうこと?」
「ん? 神社でお願いしてたってこと」
住宅街の間をぬって、ようやく涼しい風が境内へと吹き込んでくる。糸をたぐるかのように、細く涼しい風を私は追いかけた。

「神様、茜を返してください――みたいな感じ」
「……そういうこと」
「うん。だからさ、別に神社マニアとかじゃないんだよ」
「……ごめん」
「分かればよろしい」
「うん」
「あ、別に怒ってないからね。そんな時もあったなって」

お互い石段に体育座りのような恰好で座る。汗は引いたけど、体の芯の部分が火照っている感じがして、気持ち悪い。

「でもさぁ」
「ん?」
「……変なこと、考えちゃたりもするんだよね」
「どういうこと?」
「うーん……『妹が死んじゃったのは……本当は感謝する場所なのにお願いばっかりしてたからなのかな』とか」
「……」
「とかさ、『神様が怒っちゃったのかなぁ』とか」
「うん……」
「そんなわけないって分かってるんだけどね。……でも、やっぱり1人になると、たまに考えちゃうもん」
「……うん」

きっと私は、ずっと1人で抱え込んできたものを吐き出したいんだと思う。そして聞いて欲しいんだと思う。

「……大変だったんだね」
「……うん。でも……そう思ってくれるだけで、救われる気がする」
「……」
「ただ吐き出したいだけだよ。大丈夫。聞いててもらえるだけで嬉しいよ」
「上手く言えないんだけどさ……美咲ちゃんがどれだけ辛かったとか……細かいところまでは分からないけど、何かあったら、話してよ」

八幡橋を渡った神社で、堰を切ったかのようにあふれた涙。ちょっと自分の気持ちが落ち着いているように感じるし、ほんの少しだけ上手に言葉にできるようになった気がした。それは楓くんがいてくれるかに、他ならない。

「うん。分かった。……ありがとう」
「お……おぅ」
「私さ、楓くんがいてくれて……本当に良かった。ありがとう」
「……何だよ。急に」
「本当のこと、言っただけだよ。ずっと怖かったんだと思う」
「……」
「楓くんが『そばにいてくれて……ありがとうございます』って感謝したんだよ?」
「あっ! なるほど……そうやって感謝すれば良かったのか」
「ちょっと……雰囲気壊さないでよね」

ふくれるような顔をして、声を上げて笑った。ちょっと疲れていたけど、恥ずかしそうに照れを隠している楓くんを見ていると、元気が戻ってくるような気がした。