静かに、そして穏やかな風が吹いて木々が小さく踊るように揺れる。
8月の暑い日なのに、少し涼しい。私達のまわりだけ……時間が止まる。
優しい何かが、私を包み込んでくれているような……。
……茜が会いにきた気がした。違うのかも知れない。
(……もう少し、このままでいたい)
楓くんに守ってもらいながら、私は温かさを感じていた。
「……美咲ちゃん」
「……うん……」
「話してくれて、ありがとう」
「ううん……ごめんね」
「何で?」
「いや……突然……ごめん」
「いや。大丈夫。」
そっと楓くんから離れ、乱れた髪を静かに整えた。そしてぐすんと鼻をすすりながら、再びベンチに腰を下ろす。「はあ」と大きく息を吐きながら、Tシャツの縁で目を何度も押さえた。
「……大変だったね」
「……うん。大変だった」
目をじっと押さえつけながら、小さく私は頷いた。
「上手く言えないけどさ……辛い時、もっと頼って。話聞かせてよ」
「うん。ありがとう」
楓くんの優しさが、心に染みる。涙が磯子の街に溶け込んだからなのか、もう涙が出てくることはなかった。
「ちょっと手、合わせてくる」
おもむろにベンチから立ち上がると、私は歩みを進めた。
「……俺もやろうかな」
早足で楓くんが私の後に続く。石畳を歩く2人の乾いた足音だけが、静かに境内に流れていく。
賽銭箱の前に立ち、2回礼をする。
そして2回、「パン! パン!」と手を叩く。
(……茜――……元気?)
(私の妹でいてくれて……ありがとね)
(ほんと……ありがとう)
(……)
(楓くんと出会わせてくれて……ありがとう)
(本当に、ありがとう――)
ゆっくり目を開けて横を見ると、楓くんはまだ目を瞑って手を合わせている。ちょっぴり微笑ましくなり、足音を立てないように……ゆっくりとその場を離れた。
「……美咲ちゃん」
遠くから楓くんの声が背中に届いた。どうやら終わったらしい。息を少し切らすような表情。
「……楓くん、長くない?」
「いや。お願い……たくさんあったから」
「……ふぅん。そうなんだ」
「何」
「いや? 何をお願いしたのかなーって」
「教えないよ?」
「……なにそれ? 教えてよ!」
「駄目。美咲ちゃんには教えない」
「えー! 何それ! 良いじゃん! 教えてよ!」
太陽も頭の真上にある時間。誰もいない神社には、笑い声だけが響き渡っていた。
「でもさ」
「どうしたの?」
「ん? いや……良かったなって」
「何が?」
「……楓くんが……いてくれて」
「えっ……?」
「どうして良いか分からなかったもん」
「……照れるじゃん」
「本当だよ。ありがとね」
楓くん、顔が真っ赤だ……でも、これが私の気持ち。初めて見たかも知れない。楓くんがあからさまに顔を逸らして、照れているところなんて。
「……そういえばさ、文化祭の時」
「懐かしいね。もうだいぶ前のような気がするな」
「どうして……ぼっちにしてた私に声をかけてくれたの?」
「うーん……」
「ずっと気になってたんだよね」
「何でだっけ。……忘れたよ。そんな前のこと」
「絶対ウソだ! 覚えてないわけ……ないって!」
「……忘れたもんは、忘れたんだって」
「ずるい!」
「ずるいとかじゃないよ」
「……絶対覚えてるもん……」
「ほっぺた、『ぷくー』ってなってるよ?」
「……ちょっと! そんなことない!」
軽く楓くんの肩を叩く。そして、また私達は笑った。生い茂る木々に見守られながら。
……私達のこの時間。永遠に続きますように――。
お願いします――
8月の暑い日なのに、少し涼しい。私達のまわりだけ……時間が止まる。
優しい何かが、私を包み込んでくれているような……。
……茜が会いにきた気がした。違うのかも知れない。
(……もう少し、このままでいたい)
楓くんに守ってもらいながら、私は温かさを感じていた。
「……美咲ちゃん」
「……うん……」
「話してくれて、ありがとう」
「ううん……ごめんね」
「何で?」
「いや……突然……ごめん」
「いや。大丈夫。」
そっと楓くんから離れ、乱れた髪を静かに整えた。そしてぐすんと鼻をすすりながら、再びベンチに腰を下ろす。「はあ」と大きく息を吐きながら、Tシャツの縁で目を何度も押さえた。
「……大変だったね」
「……うん。大変だった」
目をじっと押さえつけながら、小さく私は頷いた。
「上手く言えないけどさ……辛い時、もっと頼って。話聞かせてよ」
「うん。ありがとう」
楓くんの優しさが、心に染みる。涙が磯子の街に溶け込んだからなのか、もう涙が出てくることはなかった。
「ちょっと手、合わせてくる」
おもむろにベンチから立ち上がると、私は歩みを進めた。
「……俺もやろうかな」
早足で楓くんが私の後に続く。石畳を歩く2人の乾いた足音だけが、静かに境内に流れていく。
賽銭箱の前に立ち、2回礼をする。
そして2回、「パン! パン!」と手を叩く。
(……茜――……元気?)
(私の妹でいてくれて……ありがとね)
(ほんと……ありがとう)
(……)
(楓くんと出会わせてくれて……ありがとう)
(本当に、ありがとう――)
ゆっくり目を開けて横を見ると、楓くんはまだ目を瞑って手を合わせている。ちょっぴり微笑ましくなり、足音を立てないように……ゆっくりとその場を離れた。
「……美咲ちゃん」
遠くから楓くんの声が背中に届いた。どうやら終わったらしい。息を少し切らすような表情。
「……楓くん、長くない?」
「いや。お願い……たくさんあったから」
「……ふぅん。そうなんだ」
「何」
「いや? 何をお願いしたのかなーって」
「教えないよ?」
「……なにそれ? 教えてよ!」
「駄目。美咲ちゃんには教えない」
「えー! 何それ! 良いじゃん! 教えてよ!」
太陽も頭の真上にある時間。誰もいない神社には、笑い声だけが響き渡っていた。
「でもさ」
「どうしたの?」
「ん? いや……良かったなって」
「何が?」
「……楓くんが……いてくれて」
「えっ……?」
「どうして良いか分からなかったもん」
「……照れるじゃん」
「本当だよ。ありがとね」
楓くん、顔が真っ赤だ……でも、これが私の気持ち。初めて見たかも知れない。楓くんがあからさまに顔を逸らして、照れているところなんて。
「……そういえばさ、文化祭の時」
「懐かしいね。もうだいぶ前のような気がするな」
「どうして……ぼっちにしてた私に声をかけてくれたの?」
「うーん……」
「ずっと気になってたんだよね」
「何でだっけ。……忘れたよ。そんな前のこと」
「絶対ウソだ! 覚えてないわけ……ないって!」
「……忘れたもんは、忘れたんだって」
「ずるい!」
「ずるいとかじゃないよ」
「……絶対覚えてるもん……」
「ほっぺた、『ぷくー』ってなってるよ?」
「……ちょっと! そんなことない!」
軽く楓くんの肩を叩く。そして、また私達は笑った。生い茂る木々に見守られながら。
……私達のこの時間。永遠に続きますように――。
お願いします――


