八幡橋は大きな交差点の真ん中にある橋。川も並行して流れていて、雑然としたエリアだった。どうやら八幡橋を境に、磯子エリアと根岸エリアに分かれているらしく、神社が突然姿を現したのは根岸のエリアに入ってすぐのことだった。
「あれ、神社あるよ……気付かなかった」
空になったホットココアのコップを握り締めながら、橋を渡り終える。
「ここ、なんて名前なの?」
「いや……あるのは知ってたけど、名前は分かんないなぁ」
スマホで検索すると『八幡橋八幡神社』と出てきた。
「あ! そうだ……八幡神社だ」
「なんだ。知ってるんじゃん」
「聞いたことあったな、くらいだよ。小さい頃に車で通る度に『こんなところに神社があるんだな』って思ってた程度」
敷地内に足を踏み入れると、不思議と静けさに包まれた。道路沿いにあるにも関わらず。きっと覆い尽くすように生えている木々のお陰なんだろうなと思った。日差しを遮る効果もあるのか、心なしか涼しく感じる。
「……はあ。暑かった」
ゆっくりと歩いてきた分、かなり時間をかけてここまでやってきた。すでに私はかなり汗をかいていた。
「美咲ちゃん、体調大丈夫?」
「……うん。暑かったけどね」
「静かだよね。来たこと無かったな」
「ね。本当に静かだよね、ここ。……なんだか違う空間みたいだもん」
「どう?」
「……なに? 『どう』って」
「いや、美咲ちゃん、神社が好きなんじゃないの?」
「え? ははっ! 違うよ、別に神社が好きってわけじゃ無いよ」
思わぬ誤解を受けていたことを知り、声を出して笑ってしまう。目の前にベンチを見つけた私は、カーディガンを脱ぎながらベンチへと歩みを進めた。まるで助けを求めるかのように。
「……最近さ、ずっと落ち込んでたんだよね」
「……」
「妹のこと」
「……昨日、言ってたよね」
「うん」
「元々ね、学校でいじめにあっていたらしくて。学校休むようになっちゃったんだよ。妹。分からないけれど、体調が悪かったのも、それが原因だったのかな」
「……そうだったの」
「でさぁ……」
なんだろう。楓くんにちゃんと伝えたい気持ちでいるのに……心の中から言葉を出すのに力がいる。私が暮らしてきた日々は、映像として頭の中を感情なしに流れ続けているのに、喉を通って言葉にするのは、本当に辛い。
「……言える時で良いよ? 今じゃなくても」
「ありがと。……優しいね。楓くんは」
「いや……言えない時だってあるじゃんか」
「うん……でも、もし聞いてもらえるなら……聞いて欲しい」
「聞かせてよ。1人で抱え込まないで……俺もちゃんと知っておきたい」
「……うん」
頬を涙が伝う。必死に目頭で止めていた涙。茜との思いでを記憶している涙。しゃべろうとすると、言葉と一緒に流れ落ちてくる。
「えっ……と」
楓くんは、私が頑張って言葉を出そうとしていのが分かってるのかな。じっと一点を見つめたまま、待ってくれている。
「で、こっちに引越ししようと思って」
「うん」
「春から、新しい学校に……行けるように……って……」
涙が止まらない……。
そうか……
言葉が出なかったのは、涙が、茜との思い出を記憶している涙を押し出していなかったからなのかも知れない……。でも……でも、私は伝えたい。
「で……」
「……」
「で、死んじゃったんだよ!」
「……」
「飛び降りちゃったの!! 家から! 家の2階から……」
「……」
「……学校から……帰ったら……もう……」
言葉が途切れた。誰にも言えなかった、あの日の記憶。楓くんの胸に抱きついていた。
思い切り泣いた。声を上げて。
あの日の時が止まったままの景色は、磯子の街に再び現れた。『今』の私と楓くんの前に……姿を現した。
「会いたいよ!! 何なの!!」
「……」
「何なの!? 私が悪いの!?」
背中に楓くんの手の温度を感じる……。私に『ここにいて良い』と言ってくれているかのように感じた。
「ねえ!!」
「ねえ!!」
「返してよ!!!」
「ねえ!!!」
「ねえー!! 返してよ!!! 茜、返してよ!!」
「妹、返してよー!!」
「……会いたいよ――……」
「会いたいよぉー――……」
「……会いたいよ……」
ああ、会いたい。
そのためだったら……何でもするよ?
ねえ、ねえってば
戻ってきてよ
帰ったら、家にいて?
……昔のように。
本当に。
ねえってば……
「あれ、神社あるよ……気付かなかった」
空になったホットココアのコップを握り締めながら、橋を渡り終える。
「ここ、なんて名前なの?」
「いや……あるのは知ってたけど、名前は分かんないなぁ」
スマホで検索すると『八幡橋八幡神社』と出てきた。
「あ! そうだ……八幡神社だ」
「なんだ。知ってるんじゃん」
「聞いたことあったな、くらいだよ。小さい頃に車で通る度に『こんなところに神社があるんだな』って思ってた程度」
敷地内に足を踏み入れると、不思議と静けさに包まれた。道路沿いにあるにも関わらず。きっと覆い尽くすように生えている木々のお陰なんだろうなと思った。日差しを遮る効果もあるのか、心なしか涼しく感じる。
「……はあ。暑かった」
ゆっくりと歩いてきた分、かなり時間をかけてここまでやってきた。すでに私はかなり汗をかいていた。
「美咲ちゃん、体調大丈夫?」
「……うん。暑かったけどね」
「静かだよね。来たこと無かったな」
「ね。本当に静かだよね、ここ。……なんだか違う空間みたいだもん」
「どう?」
「……なに? 『どう』って」
「いや、美咲ちゃん、神社が好きなんじゃないの?」
「え? ははっ! 違うよ、別に神社が好きってわけじゃ無いよ」
思わぬ誤解を受けていたことを知り、声を出して笑ってしまう。目の前にベンチを見つけた私は、カーディガンを脱ぎながらベンチへと歩みを進めた。まるで助けを求めるかのように。
「……最近さ、ずっと落ち込んでたんだよね」
「……」
「妹のこと」
「……昨日、言ってたよね」
「うん」
「元々ね、学校でいじめにあっていたらしくて。学校休むようになっちゃったんだよ。妹。分からないけれど、体調が悪かったのも、それが原因だったのかな」
「……そうだったの」
「でさぁ……」
なんだろう。楓くんにちゃんと伝えたい気持ちでいるのに……心の中から言葉を出すのに力がいる。私が暮らしてきた日々は、映像として頭の中を感情なしに流れ続けているのに、喉を通って言葉にするのは、本当に辛い。
「……言える時で良いよ? 今じゃなくても」
「ありがと。……優しいね。楓くんは」
「いや……言えない時だってあるじゃんか」
「うん……でも、もし聞いてもらえるなら……聞いて欲しい」
「聞かせてよ。1人で抱え込まないで……俺もちゃんと知っておきたい」
「……うん」
頬を涙が伝う。必死に目頭で止めていた涙。茜との思いでを記憶している涙。しゃべろうとすると、言葉と一緒に流れ落ちてくる。
「えっ……と」
楓くんは、私が頑張って言葉を出そうとしていのが分かってるのかな。じっと一点を見つめたまま、待ってくれている。
「で、こっちに引越ししようと思って」
「うん」
「春から、新しい学校に……行けるように……って……」
涙が止まらない……。
そうか……
言葉が出なかったのは、涙が、茜との思い出を記憶している涙を押し出していなかったからなのかも知れない……。でも……でも、私は伝えたい。
「で……」
「……」
「で、死んじゃったんだよ!」
「……」
「飛び降りちゃったの!! 家から! 家の2階から……」
「……」
「……学校から……帰ったら……もう……」
言葉が途切れた。誰にも言えなかった、あの日の記憶。楓くんの胸に抱きついていた。
思い切り泣いた。声を上げて。
あの日の時が止まったままの景色は、磯子の街に再び現れた。『今』の私と楓くんの前に……姿を現した。
「会いたいよ!! 何なの!!」
「……」
「何なの!? 私が悪いの!?」
背中に楓くんの手の温度を感じる……。私に『ここにいて良い』と言ってくれているかのように感じた。
「ねえ!!」
「ねえ!!」
「返してよ!!!」
「ねえ!!!」
「ねえー!! 返してよ!!! 茜、返してよ!!」
「妹、返してよー!!」
「……会いたいよ――……」
「会いたいよぉー――……」
「……会いたいよ……」
ああ、会いたい。
そのためだったら……何でもするよ?
ねえ、ねえってば
戻ってきてよ
帰ったら、家にいて?
……昔のように。
本当に。
ねえってば……


