神社ってね、感謝をするところなんだよ

「はぁー…」
ベンチに座って、呼吸を整える。思わず体勢を崩して危なかったことなのか……楓くん腕を掴んだことなのか……呼吸の乱れはどっちか分からない。

「どうだった? 結構良いでしょ」
「うん。なんだろ……すっきりした気がする」
「良かった。あんま大きな声を出すのも、なかなか無いしね」
「うん。あんな声出したの、はじめてかも」
「何か、ネットで見た気がするよ」
「……何を?」
「ん? どうしょうも無い時は、大声出すと良いって」
「本当だね。……でもこれ、家じゃできないな」
「そしたら……また来れば良いよ」
「……」

「……どうしたの?」
「えっ? ……その時はさ、また一緒に来てくれる?」
「……うん。もちろん。いつでも誘ってよ」
「夜中でも?」
「それは補導されるって」
「ははっ……そうだね。でも、ありがとう」

帰り道は楽だった。
下り坂ばかりだったから。

「あーあ。部活、辞めちゃおうかなあ」
「……えっ? 辞めちゃうの?」
「うーん……あんま行けてないし」
「そうなんだ……」
「どうかした?」
「いや、花を持って行けないなって思って」
「あははっ! ……もっと私の気持ちに寄り添いなさいよ」
「あ……ごめん」
「ううん。良いよ。お花もありがとう。ちゃんと生けてるよ。家で」
「……そうなんだ」
「そりゃそうだよ。……生きてるんだからさ」
「……」
「生きてるうちはね、ちゃんとしてあげたいんだよ」

帰りはエレベーターを使わずに、崖に沿って通っている道路を歩いた。マンションが建っているのは崖の頂上のような場所。ぐるりと周囲を囲むように、駅へと道が続いている。
下り終わると、私は右。楓くんは左。

「ばいばい」と言って別れる。「夜だったら、途中まで送ってくれたのかな」と思いながら、私は国道に沿って歩き出した。……何故だか不思議と体調は良かった。いつものだるさや頭痛は消えていた。

7月17日
19:36
『今日は楽しかった』
『ありがとう』

「今日は誘ってもらったしな」と、自分からDMを送った。先に送る理由ができた。にやにやしながらスマホを触っていることに気が付いて、また一人ベッドの上でにやける。

19:46
『俺も楽しかったよ』
『ストレスたまったら叫んで』

読んだ後に、もう一度読み直す。胸の奥がぎゅうと締め付けられる感覚。心臓の中に楓くんがぐっと入り込んでくるような感覚。
(……はーっ……)
何だろう……会って話したい。話題がそんなにあるわけじゃないけど……会って話していたい。別に話をしなくたって良い。一緒にいれれば良い。

それだけでいい。

それ以上は何もいらない。

ベッドに横になりながら、何を打とうか考える。
あーでもない、こーでもないと思いながら。
でも、結局言いたいことは決まっている。

また会いたい。

19:50
『家じゃ無理。叫べないよ』
『また今度誘ってよ』

ドキドキしながら送信した。
スマホをポンとベッドの脇に投げ捨てる。

(……「誘って」の方が良かった?)
(……いや、「誘ってね」……?)
(「誘って欲しいな」……かな)

スマホに手を伸ばし、画面を見る。

(……まだかあ)

さっきDMを送信してから、10秒くらいしか経っていない。
再びスマホをポンと投げ捨てて、「はあ」と大きなため息をついた。

(……)

またスマホに手を伸ばし、画面を見る。

(……まだ来てない)

スマホをポンと、また投げ捨てる。

(……)

またスマホに手を伸ばす。まだ返信は来ない。

(……はぁーっ……ちょっと、何これ)

「あ!!」
(きたっ!!!!)
私はドキドキしながら、スマホの画面を開いた。さっき返信してからまだ5分しか経っていない。

19:55
『うん。また誘うよ』
『美咲ちゃん、部活あるしね』
『休みの日があれば、今度教えて』

(……そうなんだよなあー)
毎日参加しているわけじゃないけど……。楓くんは分からないもんね。いつ休みになるとか。

20:01
『うん。分かった』
『休みが事前に分かる時は、伝えるね』

(……はーっ……)
「何だかな……」と思って、またため息が出た。

スマホに手を伸ばし、さっきのメッセージを見返す。
私は、楓くんが「美咲ちゃん」と呼んでくれるのが好き。

(……美咲「ちゃん」)
画面を見て、にやにやする。誰も見ていない。誰にも見せられない。

部活のメンバーやC組の人達も、もちろん「美咲ちゃん」と呼んでくれる。……でも、楓くんの「ちゃん」は……私にとって特別な響きがあるんだ。

(……「美咲ちゃん」だってさー)

完全に私は、恋をしていた。

――

――

――

朝。
思わぬ寒気で起きた。熱が出てしまったらしかった。
(……昨日、はしゃぎすぎたのかな)
(暑かったしなあ)
頭痛もひどく、学校と部活は休むことにした。

(はあ……もう嫌だなあ……)

一人布団の中で、自分の体調を恨む。火照った体を少し冷やすように、布団を下げてから、再び私は眠りに落ちた――。