神社ってね、感謝をするところなんだよ

『公園』って何?
砂場があってブランコがあって……学校の体育館くらいの広さ。私の中の公園というイメージはこれくらい。もうちょっと広い公園も家の近くにあったけれど、この久良岐公園は、私からいえば『森』だ。

「隣に根岸駅あるでしょ」
「うん」
私達が住んでいる磯子駅。そして学校がある山手駅。その間にある駅が『根岸駅』。磯子、根岸、山手と連続している。

「そこにもさ、でっかい公園あるの知ってる?」
「そうなの? そもそも根岸駅で降りたことないよ」
「『森林公園』って言うんだよ」
「森林の公園……すっごい名前じゃない?」
「何だろ、ここよりも……もう少し穏やかな感じ。穏やかっていうか……平らな感じ?」
「平ら? 何それ」
「あんまり起伏がない、みたいな」

舗装された道を歩きながら、時折、脇に伸びる細い道に、導かれるように進んでいく。
行くあてもなく、ぐるぐると回るように歩く。時折木々の間から差し込んでくる光が、凄くまぶしい。

「少し座ろうよ」
歩いている途中、狭い踊り場のような所にベンチがあった。

公園そのものが丘の上にある。
ベンチからは磯子の町並みを見下ろすことができた。さっきのエレベーターから見えた景色とは、また違う角度の景色。見渡す限りの家。改めて私が引越しをしてきた『磯子』は海に臨む住宅街なのだと再認識させられる。
「……そうだね。座ろう」
私はそう言うと、ベンチに腰を下ろした。

「……はぁ」
「疲れたでしょ」
楓くんは優しい。直接見られている感覚はないけれど、どこか見られているような感覚がある。気遣ってくれるのが嬉しい。

「……ううん。大丈夫」
「本当? 結構歩いたよ?」
「今日は元気なんだよ。……あー……風が気持ち良いな……」
風を遮るビルや団地が無い。いつもより強く顔に当たる気がした。なびく髪を、軽く手で押さえる。

「演奏会終わったけどさ、部活って少し休みなの?」
「あー……無いなぁ、休み」
「無いの? 休み」
「だってこれからコンクールがあるもん」
「えー……」

「強いからね。うちの部活」
「……大変だよなあ」
「うん。めっちゃ大変だよ」
「今日、休みで良かったね」
「ほんと。まあ、私は学校休んでるから、あまり関係無いけどね」
「それは仕方無いんじゃないの?」
「……うん」

「そういえばさ、楓くんは夏休みって何してるの?」
高校に入って、最初の夏休み。楓くんは何をしているんだろう?
そもそも私には何も予定は無い。
「えっ? 夏休み? ……何も予定無いなぁ」
「えー……そうなんだ」
「何で?」
「えっ? あ、いや……。高校入って最初だし……何か予定あるのかなって」
「……本当は勉強とかした方が良いんだろうけど……結局、何もしてなさそう」
ははっと笑っている。本当に何にも無さそうに見えた。

「楓くんてさ」
「ん? 何」
「……何だろ、嫌なこととか、辛いことがあった時ってどうしてる?」
「……え?」
「思い通りにならないなーって時とか」
「……」

何も言わずに楓くんは、すっとベンチから立ち上がる。そして2歩、3歩と前へ出た。休憩しているベンチがあるのは高台だから……「落ちないかな」と私はヒヤヒヤする。

先端近くまで歩くと、くるりと振り返って私に言った。
「こうするかな」
(……え?)
「わああああああーーーー!!!」
磯子の町並みに向かって、高台の上からありったけの声を出して叫んだ。

「……こんな感じ。こっちおいでよ。やるとすっきりするから」
「ははは!!わたしもやってみようかな!」
小走りで楓くんのところまで行く。「持つよ」と言って、カバンを受け取ってくれた。

「うああああーーー!!」
声が空に吸い込まれていく。
こんなに声出すのは初めてかも知れない。
「うわあああああーーー!!!」

その瞬間だった。
(あっ……)
声を出す余裕も無く、体勢を崩す。前に出すぎてしまった。
「……危ない!」
楓くんがわたしの腕を掴んで、小さく息を吐き出した。
「……」
「……前、出すぎだって」
「……はぁー……ありがと。そうだった、崖だった」

「……あっ……ごめんっ」
楓くんは真っ赤になって、私の腕からそっと手を離した。

触れていてくれた場所に、ずっと感触が残り続けていた――。