高校生になって初めての定期演奏会っていうこともあるけれど、開場直前にドアの内側から見える人の数は、私の想像を遥かに超えていた。毎年全国に出場するだけあって……
うちの高校以外の制服を着ている人で、埋め尽くされていた。
音楽堂の時計が夕方5時を示すと同時に、ざわざわと色々な方向から聞こえていたしゃべり声が、ゆっくりと私達の方へと近づいてきた。開場と同時にわーっと入ってくるわけではないけれど、ずっと入場客で途切れることはない。
(……何? この数……)
(私も演奏したかったなぁ……)
色々な人達の期待に満ちた表情が目に入る。かあっと熱くなるような悔しさを押し殺しながら、パンフレットを人数分渡す。長机とお客さんの顔を、行ったり来たりした。
「美咲ちゃーん」
(……?)
はっとして顔を上げた。そこには楓くんだけじゃなくて、勇太くんや佐々木さんもいた。
「美咲ちゃん、私達も来ちゃったよー」
ニコリと笑いながら、佐々木さんが話かけてくれる。驚いてしまってパンフレットを渡す手が止まってしまう。呼吸が一瞬できなくなって、慌てて私は酸素を吸い込んだ。
「あっ……佐々木さん……来てくれたんだ!」
ありったけの笑顔を作る。……情けない。不思議と勇太くんや楓くんの顔を見ることができない。
「あ、そうだ……これ」
一緒に散歩した時と同じように、ぼそりと細い声で楓くんが呟いた。それと同時にバッと私の目の前に何か大きなモノが姿を現す。
「……えっ?」
ガサリと音を立てて、目の前に現れたのは赤を基調とした花束だった。ちょうど両手で抱えることができるくらいの花束。深紅の奥深さに、思わず私は息をのんだ。
「演奏会だから。ちょっと大きいけど……ごめんね」
私の顔を見ることなく、楓くんがまた呟く……。勇太くんと佐々木さんは何もしゃべることなく静かに待っていてくれた。
「あっ、いや……ありがとう」
「花……渡して大丈夫だったかな」
「うん。大丈夫だよ。もらうね」
顔は見てくれていないけれど、ちょっと恥ずかしそうな声色の楓くん。私は無感情のまま、笑顔を作り受け取った。
「……凄く大きいね! こんな……ありがとう」
「いやいや。花屋さんが選んだから」
「ううん。嬉しいよ」
「……良かった」
「うん。あ、入口あっちだよ」
私は右手を優しく広げて、会場への通路を指し示した。みんなの目線が、私の手の平の方向へと向く。
「美咲ちゃん、パンフ配ってるんだ。ひょっとして今日出ない?」
何かに気が付いたかのように、勇太くんが聞いてきた。
「……うん。練習できてないんだよね」
「あっ、そうなんだ……じゃ、行くね」
ちょっとバツが悪そうに、それ以上理由を聞くことなく3人とも歩き出した。会場の中を流れるように歩いている人達の流れにのるかのように。
「……あ」
場内へと向かう歩みを止めて、勇太くんが振り返って言った。私は勇太くんの小さな声に気が付いて、目だけを向ける。
「それ、吹奏楽部にじゃなくて、美咲ちゃんに。だって」
「……えっ?」
「花だよ。花」
「……」
「……って楓が言ってた。じゃね。頑張って」
私の表情を確認するでもなく、それだけ言い残すと、手を振りながら歩いていく。横では楓くんが勇太くんに何か言っている……。
花束を後ろの机にゆっくりと下ろすと、私は再びパンフレットを1部ずつ手渡し始めた。こちらに向かって、人の流れに逆らう人がいたから、ちらりと目だけを向けると今度は佐々木さんが人並みをかき分けるかのように戻ってきた。
「……ね、美咲ちゃん。明日、学校休みなの知ってる?」
「え? そうなの?」
「危ないなー……研究発表会? みたいなやつらしいよ」
「……そうなんだ」
「学校、行っても誰もいないからね」
「うん。……ありがと」
そして最後に「そうだ。佐々木さんじゃなくて、恵ちゃんって呼んで?」と言って、再び2人の後を追って行った。
ヴー……………
奥の会場から開演5分前を知らせるブザーが鳴る。お客さんもほぼいなくなり、ようやく音楽堂へと到着した人達は、小走りで急いで会場へと向かっている。
「……すいません、ちょっと抜けます」
私は長机の場所から歩き出し、正面にあるトイレに向かった。いつの間にか流れ落ちてきた涙を拭うために。
お花、嬉しいな……。
(……私のため、なんだ……)
(でもね……今日は演奏会、出てないんだよ。私)
個室で涙が止まらなかった。
嬉しい。
でも……悔しい。
この体調が。
(……私、何かした? ねえ)
(どうして私だけ……)
誰か教えてよ
うちの高校以外の制服を着ている人で、埋め尽くされていた。
音楽堂の時計が夕方5時を示すと同時に、ざわざわと色々な方向から聞こえていたしゃべり声が、ゆっくりと私達の方へと近づいてきた。開場と同時にわーっと入ってくるわけではないけれど、ずっと入場客で途切れることはない。
(……何? この数……)
(私も演奏したかったなぁ……)
色々な人達の期待に満ちた表情が目に入る。かあっと熱くなるような悔しさを押し殺しながら、パンフレットを人数分渡す。長机とお客さんの顔を、行ったり来たりした。
「美咲ちゃーん」
(……?)
はっとして顔を上げた。そこには楓くんだけじゃなくて、勇太くんや佐々木さんもいた。
「美咲ちゃん、私達も来ちゃったよー」
ニコリと笑いながら、佐々木さんが話かけてくれる。驚いてしまってパンフレットを渡す手が止まってしまう。呼吸が一瞬できなくなって、慌てて私は酸素を吸い込んだ。
「あっ……佐々木さん……来てくれたんだ!」
ありったけの笑顔を作る。……情けない。不思議と勇太くんや楓くんの顔を見ることができない。
「あ、そうだ……これ」
一緒に散歩した時と同じように、ぼそりと細い声で楓くんが呟いた。それと同時にバッと私の目の前に何か大きなモノが姿を現す。
「……えっ?」
ガサリと音を立てて、目の前に現れたのは赤を基調とした花束だった。ちょうど両手で抱えることができるくらいの花束。深紅の奥深さに、思わず私は息をのんだ。
「演奏会だから。ちょっと大きいけど……ごめんね」
私の顔を見ることなく、楓くんがまた呟く……。勇太くんと佐々木さんは何もしゃべることなく静かに待っていてくれた。
「あっ、いや……ありがとう」
「花……渡して大丈夫だったかな」
「うん。大丈夫だよ。もらうね」
顔は見てくれていないけれど、ちょっと恥ずかしそうな声色の楓くん。私は無感情のまま、笑顔を作り受け取った。
「……凄く大きいね! こんな……ありがとう」
「いやいや。花屋さんが選んだから」
「ううん。嬉しいよ」
「……良かった」
「うん。あ、入口あっちだよ」
私は右手を優しく広げて、会場への通路を指し示した。みんなの目線が、私の手の平の方向へと向く。
「美咲ちゃん、パンフ配ってるんだ。ひょっとして今日出ない?」
何かに気が付いたかのように、勇太くんが聞いてきた。
「……うん。練習できてないんだよね」
「あっ、そうなんだ……じゃ、行くね」
ちょっとバツが悪そうに、それ以上理由を聞くことなく3人とも歩き出した。会場の中を流れるように歩いている人達の流れにのるかのように。
「……あ」
場内へと向かう歩みを止めて、勇太くんが振り返って言った。私は勇太くんの小さな声に気が付いて、目だけを向ける。
「それ、吹奏楽部にじゃなくて、美咲ちゃんに。だって」
「……えっ?」
「花だよ。花」
「……」
「……って楓が言ってた。じゃね。頑張って」
私の表情を確認するでもなく、それだけ言い残すと、手を振りながら歩いていく。横では楓くんが勇太くんに何か言っている……。
花束を後ろの机にゆっくりと下ろすと、私は再びパンフレットを1部ずつ手渡し始めた。こちらに向かって、人の流れに逆らう人がいたから、ちらりと目だけを向けると今度は佐々木さんが人並みをかき分けるかのように戻ってきた。
「……ね、美咲ちゃん。明日、学校休みなの知ってる?」
「え? そうなの?」
「危ないなー……研究発表会? みたいなやつらしいよ」
「……そうなんだ」
「学校、行っても誰もいないからね」
「うん。……ありがと」
そして最後に「そうだ。佐々木さんじゃなくて、恵ちゃんって呼んで?」と言って、再び2人の後を追って行った。
ヴー……………
奥の会場から開演5分前を知らせるブザーが鳴る。お客さんもほぼいなくなり、ようやく音楽堂へと到着した人達は、小走りで急いで会場へと向かっている。
「……すいません、ちょっと抜けます」
私は長机の場所から歩き出し、正面にあるトイレに向かった。いつの間にか流れ落ちてきた涙を拭うために。
お花、嬉しいな……。
(……私のため、なんだ……)
(でもね……今日は演奏会、出てないんだよ。私)
個室で涙が止まらなかった。
嬉しい。
でも……悔しい。
この体調が。
(……私、何かした? ねえ)
(どうして私だけ……)
誰か教えてよ


