神社ってね、感謝をするところなんだよ

6月下旬に行われた栄高祭は、私の想像以上に賑わっていた。大きく装飾された正門。
校舎の中も、各クラスの出し物に合わせた装飾が施されていた。お化け屋敷や縁日もあって、「相当気合入れて作ったんだろな」とどの装飾からも熱意が溢れ出ているかのよう。

狭い秘密基地と夏祭りのドキドキ感を混ぜ合わせたような雰囲気。「体調悪くなければい良いな」と思っていたので、登校できただけで私は嬉しい。

(……人、多いなぁ)

普段の学校とは全然ちがう人の数。廊下を埋め尽くす笑顔の人達。「狭いな」と感じたのは、入学してから初めてのことだった。私は目まいをこらえるのに必死だった。

私のいるC組は、「青汁・ビスケット選手権」。
1年生どころか、色々な学年の人達が集まってすごく盛り上がっている。C組の部活の先輩達も、参加しているらしい。ほんとは地域の人達も参加できるんだけど、あまりいない。

「……あんた達も手伝いなさいよ!」
恵ちゃんの声が後ろの方で響き渡る。

「……なんだろう」と思って振り返ると、その声は勇太くんと楓くん達に向けられていた。

「……俺達はちゃんとやったじゃんか」

(……勇太くんて、なんかいっつも言いわけしてるように見える)

「買い出し、ちゃんとやったじゃん」
楓くんは、恵ちゃんの方を向かず、半分無視するような感じでぶっきらぼうに言い返している。恵ちゃんは勇太くんや楓くん達と仲が良い。休み時間も、良く話している。
「……羨ましいな」といつも思うけど、私がそこに入っていくことはない。

遠くから眺めるだけ。
胸の奥が、もやもやっとするけど。

「……でもあんた達、暇でしょ? 今」
「やることやったんだから、良いだろ別に」
「皆、忙しそうにしてんじゃん。見なよ」

恵ちゃんは、私の願望から出てきた人のよう。私もあんな風にやりとりしてみたい。現実は、瓶の中に入った恵ちゃんや楓くん達を、そっと眺めているよう。

「ってわけで、行くよ。楓」
「……ちょっと! あんた達……」
「俺達は、今からF組のお化け屋敷に行くんだよ」
「……はあ? 最低」

(……お化け屋敷)
本当は一緒に行ってみたい。でも自分から声はかけられない。心の声は、瓶の内側には……届きそうにないから。

「はー……」
栄高祭の日に登校できて良かったなと思ってはいるけど、やっぱり体調は悪い。少し頭も痛くなってきたので、1人で外階段に出た。廊下の一番奥。突き当りの非常階段を両手で押せば、そこは別世界。

(……えー……何ここ……凄い景色)
栄高は丘の上にある。晴れの日は、海とかベイブリッジとか遠くまで見える。部活の練習の時に言っていたベイブリッジ。蜃気楼のようにカーブを描きながら、海に覆いかぶさっている。私はここからの景色が、好き。

吹奏楽部とダンス部は体育館で栄高祭のための発表会がある。特に吹部は、夏のコンクールとは別に、今日に向けて練習しているけど……とても私にはできない。

ふと耳を澄ましていると、高原のような涼しい風に乗って……トランペットやクラリネットの音が心地良く響いてきた。下の2階外階段で、誰か練習しているらしかった。

本当は私も練習をしないといけないけど……流石に体がキツイから休ませてもらっている。……そうでもしなければ、教室にいることなんて、できっこない。

(……ちょっと頭痛いなー)

階段にゆっくりと腰を下ろして、壁に体を預ける。

(……はぁー……早退しようかなぁ)

せっかくの栄高祭なのに。何で私だけ……と思うべきなのか。それとも大切な日に来れて良かったじゃんと思うべきなのか。涼しく吹き込んでくる風に、そっと耳を澄ましてみても、何も答えは教えてくれなかった。

やっぱり……今日は帰ろう。
まだお昼前。
校庭は大勢の人達で、賑わっていた。