そうして、来たる高校生になってから初めてのゴールデンウィーク。
俺は最近、地道にあいさつ運動を自主的に行うことによってようやくあいさつを返してくれる優しいクラスメイトがチラホラと増えてきた。
まあつまり、努力の甲斐があってようやくお近付きになりたくないミラクルイカレポンチからあいさつを返しても良いくらいの存在になれた。
これはとても素晴らしいことだ。
1人も...ゴールデンウィーク中にいっしょに遊びに行くような友達がクラスメイトにただの1人もいないことに目を瞑れば。
まあいい。先は長いことはわかってた。そこは気長に行こう。
それで、それは!それとして!
友達と出かけたい!!
オシャレなカフェとか行きたいけど!多様性の時代と言えど男1人じゃ精神的に肩身が狭くて入りづらい!!
しかし、その入りづらい気持ちと同じくらい、行きたい気持ちがある。
一生に一度くらいは行きたい。
そしてゆくゆくは「趣味?カフェ巡りですかね...」とかスカしながら言ってみたい。
故に。
唯一連絡先を交換した同級生である西条くんを誘うことにした。("同級生"に限定した理由はここでは割愛する。察して欲しい。)
ということで西条くんに「いっしょに遊ぼ!」とカフェの情報と遊べる日があるか連絡したところ、すぐ既読がついたかと思えばなぜか数十分ほど経ってから「謹んでお受けいたします」というものすごくへりくだった返事がきた。ちょっとしょっぱい顔になってしまいつつも『ありがとう!』のスタンプを返しておく。
そんなこんなで『友達と出かける』と親に伝えたら泣かれてしまった。4月の自分の状態が状態だったためにそんなことで本気で泣かせてしまったことがとてもしんどかったが、当事者である俺よりも大手を振って喜んでくれているようで、臨時ボーナス(お小遣い)などをもらってしまった。
このままだと今すぐにでも西条くん家に菓子折りを持ってお礼に行きそうな勢いだったのでそれは強く止めておいた。
本当にとんでもない心配をかけてしまって申し訳ない。
閑話休題。
わかりやすいようにと待ち合わせ場所はカフェの最寄り駅の、1番カフェに近い出口にした。
改札を通り歩いているとなんか、周りが少しザワついているような気がした。
そちらに向かうと、待ち合わせ場所には目元が全く見えないサングラスに黒いキャップ帽、さらに不審者感をマシマシにする全身黒コーデの西条くんがいた。
何故だかやけにキョロキョロして、周囲を見回している。もはや手負いの野生動物のような有り様だ。
近づきたくなさが本当にすごい。
ただ待ち合わせの時間に遅れるのも申し訳ないのでそっとそちらに近付き、恐る恐る話しかけた。
「あの、西条くん、だよね...?」
「あっ!み、みるちゃん!気をつけて!」
「気をつけてって...何してるの?」
話しかけた途端、西条くんはそこらの電柱や壁やらに張り付いて、ネズミ1匹すら見逃すまいというくらいの慎重さでもって周囲をくまなく見ていっている。ここは何の変哲もない、ちょっと都会寄りの普通の町だと思うのだが。
「..."砲(ほう)"を..."砲"を警戒してる...!」
「砲?なんのこと?」
「ぶんしゅん...スキャンダル......」
「バカなことを言うんじゃないよ。」
本当に何を言っているんだろう、この人。
「大切なライブの前に僕とみるちゃんのアツアツな"大切なお知らせ"をお送りするわけにいかないから...!」
「おじいちゃん俺はメジャーデビューすらしてませんよ...普通に歩きたいから正気に戻って...」
俺がそう言うと、西条くんは胸を撫で下ろして大きくため息を吐き、警戒のためか少々重心を低くしていた姿勢をまっすぐに直した。
「...はぁ...そっか。とりあえず、今は良かった...それで......いずれメジャーデビューするならあとで事務所立ち上げとくね...♡」
「そんな借りたマンガ返すねくらいの軽ぅいテンション感で言わないで...やめてね...」
気を取り直して2人でカフェへの道を歩く。
西条くんの格好が流石に目立つため説得したところ、かろうじてサングラスだけ外してくれた。
まあそれでも西条くんは目立つのだが。
そんな周囲の目に少し暗い目をしつつも、西条くんは俺と話している間はずっとニコニコとしていた。
カフェに入ると、開放感のあるガラス張りの室内に、観葉植物が壁に吊るされていたり、落ち着いた色の木製のテーブルなど、インテリアデザインなどチンプンカンプンな俺でもなかなかオシャレだな...と分かる温かみのある洗練された空間だった。
ちょっと萎縮しながらも案内された席に座る。
乾いた喉を潤すためにお冷を一口飲むと、普段飲む水とは違う、爽やかな香りがした。
お、オシャレ水だ...!
「うわ、すごい...なんか水からレモンみたいな匂いする...」
「?うん、そうだね...?」
西条くんは俺の発言に首を傾げていた。
もしかしてブルジョワでセレブリティなお店では標準装備なのか...?
とりあえずテーブルにメニューを広げる。
洋食を中心とした色鮮やかな写真に思わず目移りしてしまい、何度もご飯もののページからデザートのページまで行ったり来たりして迷ってしまう。
「僕はとりあえず決まったけど、みるちゃんは決まった...?」
「俺も、とりあえずは...!」
断腸の思いで迷っていたミートソースパスタをやめて、カルボナーラにすることを決断する。
すまない...今はひき肉よりベーコン、トマトより油の気分なんだ...!将来自分でお金が稼げるようになったらもう一度ここに来よう。その時に食べるんだ...!
そんな風に俺が壮絶な覚悟を決めている傍ら、西条くんは呼び鈴を鳴らして店員さんを呼んでくれていた。なんて気遣いのできる男なんだ...。
「えっと、みるちゃんは何にする?」
「...ええと、カルボナーラのドリンクセットで、アイスコーヒーで、デザートに季節のフルーツケーキをお願いします...」
「じゃあ、僕はミートソースパスタのセットでアイスカフェオレ、デザートはティラミスで...」
俺は間抜けに口を開け目をひん剥いた驚愕の顔で西条くんを見つめる。
西条くんが頼んだメニューが全て、寸分違わず俺が迷っていた結果選べなかったものだったからだ。
な、なんてできた男なんだ...!
同じ男子高校生とは思えないほどの優しさに俺は打ちひしがれそうになった。
「さ、西条くん...!」
「えへへ...後で"交換こ"しようね。」
感極まって溢れる感動のまま西条くんを拝むように手を合わせる。
ただ、俺はこの時あんまり"交換こ"について深く考えていなかった。
しばらく談笑していると、店員さんが注文した料理を丁寧にテーブルに置いてくれた。
できたての匂いを漂わせ、ほかほかと湯気をたてる料理はとても美味しそうだ。
「いただきます!」
いつもパスタはフォークだけで食べているが、場所が場所なので今回はスプーンも使うぞ...!と慣れない動きをするのに手元に集中していると、さっさと流麗な所作でパスタをスプーンの上で巻いた西条くんは、パスタが巻きついたフォークをこちらに差しだす。
また既視感のある流れだな...
「はい、みるちゃん。あーん♡」
付き合いたてのカップルだってしないくらいの蕩けるような微笑みだった。ちょっと前に見たな。
輝かんばかりの陶器人形のごとき美青年が俺のようなどこにでもいそうな一般人にメロメロな顔をしてあーん♡をする図に若干周囲がザワついている気がする。
「...あの、くれる時毎回あーんしてくれなくてもいいんだよ...?」
「...ごめん。」
「いや、謝るほどのことじゃないんだよ...ただちょっと気恥ずかしといいますか...」
「ごめん。僕のためにやってることだから...僕の中のみるちゃんポイントの充電っていうか...」
「そう来たか...」
溶けるような笑みから一転、ものすごく真剣な顔で西条くんは訳の分からないことを言い出した。もう『そう来たか...』以外の言葉が見つからなかったのである。
神妙な顔のまま、西条くんは眉をへたらせた。
「恥ずかしい思いをさせてたならごめんね。
ただ、学校の授業がしんどくてもこれのためならがんばれるし...なんというか、これで英気を養ってるんだ。
できれば続けさせて欲しい...末永く...」
「ええと...なるほど、英気を...?
えっと、せめて学校以外では1日1回にして良いかな...?」
そう提案すると、西条くんはあからさまにションボリとした顔をした。
尽くしたがりと言うべきか、俺にあーんするのがそんなに楽しいのかな...
このままこんなペースで色々やってもらってはツケがどんどん溜まっていくような気になってしまう。
どうしてそこまで、俺の、みるく♡めぽわ〜るのことが好きなんだろう。
あくまでアイドルじゃない俺は彼と同じ学年の、なんてこともないただの高校1年生だ。
本来なら、俺はここまでしてもらうような、素晴らしい人間では無い。
...俺は返せるだろうか。
ライブでも、実生活でも...
俺は最近、地道にあいさつ運動を自主的に行うことによってようやくあいさつを返してくれる優しいクラスメイトがチラホラと増えてきた。
まあつまり、努力の甲斐があってようやくお近付きになりたくないミラクルイカレポンチからあいさつを返しても良いくらいの存在になれた。
これはとても素晴らしいことだ。
1人も...ゴールデンウィーク中にいっしょに遊びに行くような友達がクラスメイトにただの1人もいないことに目を瞑れば。
まあいい。先は長いことはわかってた。そこは気長に行こう。
それで、それは!それとして!
友達と出かけたい!!
オシャレなカフェとか行きたいけど!多様性の時代と言えど男1人じゃ精神的に肩身が狭くて入りづらい!!
しかし、その入りづらい気持ちと同じくらい、行きたい気持ちがある。
一生に一度くらいは行きたい。
そしてゆくゆくは「趣味?カフェ巡りですかね...」とかスカしながら言ってみたい。
故に。
唯一連絡先を交換した同級生である西条くんを誘うことにした。("同級生"に限定した理由はここでは割愛する。察して欲しい。)
ということで西条くんに「いっしょに遊ぼ!」とカフェの情報と遊べる日があるか連絡したところ、すぐ既読がついたかと思えばなぜか数十分ほど経ってから「謹んでお受けいたします」というものすごくへりくだった返事がきた。ちょっとしょっぱい顔になってしまいつつも『ありがとう!』のスタンプを返しておく。
そんなこんなで『友達と出かける』と親に伝えたら泣かれてしまった。4月の自分の状態が状態だったためにそんなことで本気で泣かせてしまったことがとてもしんどかったが、当事者である俺よりも大手を振って喜んでくれているようで、臨時ボーナス(お小遣い)などをもらってしまった。
このままだと今すぐにでも西条くん家に菓子折りを持ってお礼に行きそうな勢いだったのでそれは強く止めておいた。
本当にとんでもない心配をかけてしまって申し訳ない。
閑話休題。
わかりやすいようにと待ち合わせ場所はカフェの最寄り駅の、1番カフェに近い出口にした。
改札を通り歩いているとなんか、周りが少しザワついているような気がした。
そちらに向かうと、待ち合わせ場所には目元が全く見えないサングラスに黒いキャップ帽、さらに不審者感をマシマシにする全身黒コーデの西条くんがいた。
何故だかやけにキョロキョロして、周囲を見回している。もはや手負いの野生動物のような有り様だ。
近づきたくなさが本当にすごい。
ただ待ち合わせの時間に遅れるのも申し訳ないのでそっとそちらに近付き、恐る恐る話しかけた。
「あの、西条くん、だよね...?」
「あっ!み、みるちゃん!気をつけて!」
「気をつけてって...何してるの?」
話しかけた途端、西条くんはそこらの電柱や壁やらに張り付いて、ネズミ1匹すら見逃すまいというくらいの慎重さでもって周囲をくまなく見ていっている。ここは何の変哲もない、ちょっと都会寄りの普通の町だと思うのだが。
「..."砲(ほう)"を..."砲"を警戒してる...!」
「砲?なんのこと?」
「ぶんしゅん...スキャンダル......」
「バカなことを言うんじゃないよ。」
本当に何を言っているんだろう、この人。
「大切なライブの前に僕とみるちゃんのアツアツな"大切なお知らせ"をお送りするわけにいかないから...!」
「おじいちゃん俺はメジャーデビューすらしてませんよ...普通に歩きたいから正気に戻って...」
俺がそう言うと、西条くんは胸を撫で下ろして大きくため息を吐き、警戒のためか少々重心を低くしていた姿勢をまっすぐに直した。
「...はぁ...そっか。とりあえず、今は良かった...それで......いずれメジャーデビューするならあとで事務所立ち上げとくね...♡」
「そんな借りたマンガ返すねくらいの軽ぅいテンション感で言わないで...やめてね...」
気を取り直して2人でカフェへの道を歩く。
西条くんの格好が流石に目立つため説得したところ、かろうじてサングラスだけ外してくれた。
まあそれでも西条くんは目立つのだが。
そんな周囲の目に少し暗い目をしつつも、西条くんは俺と話している間はずっとニコニコとしていた。
カフェに入ると、開放感のあるガラス張りの室内に、観葉植物が壁に吊るされていたり、落ち着いた色の木製のテーブルなど、インテリアデザインなどチンプンカンプンな俺でもなかなかオシャレだな...と分かる温かみのある洗練された空間だった。
ちょっと萎縮しながらも案内された席に座る。
乾いた喉を潤すためにお冷を一口飲むと、普段飲む水とは違う、爽やかな香りがした。
お、オシャレ水だ...!
「うわ、すごい...なんか水からレモンみたいな匂いする...」
「?うん、そうだね...?」
西条くんは俺の発言に首を傾げていた。
もしかしてブルジョワでセレブリティなお店では標準装備なのか...?
とりあえずテーブルにメニューを広げる。
洋食を中心とした色鮮やかな写真に思わず目移りしてしまい、何度もご飯もののページからデザートのページまで行ったり来たりして迷ってしまう。
「僕はとりあえず決まったけど、みるちゃんは決まった...?」
「俺も、とりあえずは...!」
断腸の思いで迷っていたミートソースパスタをやめて、カルボナーラにすることを決断する。
すまない...今はひき肉よりベーコン、トマトより油の気分なんだ...!将来自分でお金が稼げるようになったらもう一度ここに来よう。その時に食べるんだ...!
そんな風に俺が壮絶な覚悟を決めている傍ら、西条くんは呼び鈴を鳴らして店員さんを呼んでくれていた。なんて気遣いのできる男なんだ...。
「えっと、みるちゃんは何にする?」
「...ええと、カルボナーラのドリンクセットで、アイスコーヒーで、デザートに季節のフルーツケーキをお願いします...」
「じゃあ、僕はミートソースパスタのセットでアイスカフェオレ、デザートはティラミスで...」
俺は間抜けに口を開け目をひん剥いた驚愕の顔で西条くんを見つめる。
西条くんが頼んだメニューが全て、寸分違わず俺が迷っていた結果選べなかったものだったからだ。
な、なんてできた男なんだ...!
同じ男子高校生とは思えないほどの優しさに俺は打ちひしがれそうになった。
「さ、西条くん...!」
「えへへ...後で"交換こ"しようね。」
感極まって溢れる感動のまま西条くんを拝むように手を合わせる。
ただ、俺はこの時あんまり"交換こ"について深く考えていなかった。
しばらく談笑していると、店員さんが注文した料理を丁寧にテーブルに置いてくれた。
できたての匂いを漂わせ、ほかほかと湯気をたてる料理はとても美味しそうだ。
「いただきます!」
いつもパスタはフォークだけで食べているが、場所が場所なので今回はスプーンも使うぞ...!と慣れない動きをするのに手元に集中していると、さっさと流麗な所作でパスタをスプーンの上で巻いた西条くんは、パスタが巻きついたフォークをこちらに差しだす。
また既視感のある流れだな...
「はい、みるちゃん。あーん♡」
付き合いたてのカップルだってしないくらいの蕩けるような微笑みだった。ちょっと前に見たな。
輝かんばかりの陶器人形のごとき美青年が俺のようなどこにでもいそうな一般人にメロメロな顔をしてあーん♡をする図に若干周囲がザワついている気がする。
「...あの、くれる時毎回あーんしてくれなくてもいいんだよ...?」
「...ごめん。」
「いや、謝るほどのことじゃないんだよ...ただちょっと気恥ずかしといいますか...」
「ごめん。僕のためにやってることだから...僕の中のみるちゃんポイントの充電っていうか...」
「そう来たか...」
溶けるような笑みから一転、ものすごく真剣な顔で西条くんは訳の分からないことを言い出した。もう『そう来たか...』以外の言葉が見つからなかったのである。
神妙な顔のまま、西条くんは眉をへたらせた。
「恥ずかしい思いをさせてたならごめんね。
ただ、学校の授業がしんどくてもこれのためならがんばれるし...なんというか、これで英気を養ってるんだ。
できれば続けさせて欲しい...末永く...」
「ええと...なるほど、英気を...?
えっと、せめて学校以外では1日1回にして良いかな...?」
そう提案すると、西条くんはあからさまにションボリとした顔をした。
尽くしたがりと言うべきか、俺にあーんするのがそんなに楽しいのかな...
このままこんなペースで色々やってもらってはツケがどんどん溜まっていくような気になってしまう。
どうしてそこまで、俺の、みるく♡めぽわ〜るのことが好きなんだろう。
あくまでアイドルじゃない俺は彼と同じ学年の、なんてこともないただの高校1年生だ。
本来なら、俺はここまでしてもらうような、素晴らしい人間では無い。
...俺は返せるだろうか。
ライブでも、実生活でも...
