黒鳥のオディール

 弾かれたように振り返ると、そこには月明かりさえも飲み込んでしまうほど巨大な、漆黒の翼を纏った魔人の姿がありました。

 オディールは慌てて、手の中にある銀のボタンを後ろへと隠します。

「なんでもない……です。お父様」

 魔王ロートバルトは、あの青年が去っていった方向をじっと見つめています。

 張り詰めた重い空気に耐えかね、オディールは助けを求めるようにオニキスの顔を見つめました。

 その仕草に呆れるような視線を一瞬向けたものの、ロートバルトは漆黒のマントを翻し、背中を向けます。

「さあ、城へ帰るぞ」

 彼女は静かに父の後に従いながらも、拭いきれぬ不安に胸を焼かれ、青年が消えていった闇の道筋を幾度も幾度も振り返るのでした。