黒鳥のオディール

 水面に佇むオデットは己の足元を見つめた後、傍らに浮かぶ数多の白鳥たちへ視線を巡らせ、悲痛な困惑の眼差しをジークへ向けます。

 魔王の死によって解き放たれるどころか、解く術を永遠に失い、この姿のまま固定されてしまったことを悟ったかのように――彼女は静かに、絶望の淵へと顔を伏せるのでした。

「……そんな。魔王を倒しても、呪いは解けないなんて」

 絶望に膝をつこうとするジークの前へ、オディールが迷いのない足取りで静かに歩み出しました。

 その褐色の肌が月光に透け、まるですでに消え入りそうな幻影のように揺らめいています。

「この呪いは、ロートバルトを倒しても消えることはありません……。ただ、呪いを『他へ移す』ことならできます。そのすべてを、私が引き受けましょう」

 その言葉に、オデットと白鳥たちは戸惑い、顔を合わせました。
 決意に満ちた静かな瞳を目にしたジークは、苦痛に顔を歪めます。

「何を言うんだ! そんなことをしたら、君が犠牲になってしまう!」

 ジークの悲痛な叫びだけが、冷たく静まり返った夜の湖畔に虚しく響き渡るのでした。

 ですが、王子の視線の先には、永遠に人間に戻れぬ残酷な宿命を悟り、真珠のような涙を零すオデットと、声なき哀哭を上げる白鳥たちの姿がありました。

 ジークは言葉を失い、あまりの苦痛に激しく顔を歪めます。

 救いたいと願う本物の光――オデット。
 そして、救いたいと願ってしまった愛しき影――オディール。

 湖面に浮かぶ数多の白鳥たちの悲しげな瞳が、彼の心を逃げ場のない鉄の鎖のように激しく締め付けていました。