黒鳥のオディール

 忌々しそうにベンノを睨みつけるロートバルト。

 しかしその瞬間――倒れ伏した銀盤が澄み切った月光を跳ね返し、眩しく鋭い一閃となって魔王の視界を真っ白に遮りました!

 ジークはその刹那の隙を絶対に見逃しませんでした。

 立ち上がりざま、彼は白銀の剣でロートバルトの胸を、一点の迷いもなく一刀のもとに貫いたのです!

 ロートバルトは、「魔王に人間の剣など」と、不敵の笑いを浮かべましたが、自身に流れる血を目にし、激痛に顔を歪めます。

 絶対的であるはずの魔王の力が無効化されている……。

 本来あり得ないこの事態の引き金が、先ほど手にしたあの銀のボタンにあるのだと悟りました。  

 それは、魔王の知る由もない「愛」という未知の力が、あの一粒の釦に込められていたからに他なりませんでした。

  支配を打ち破られたロートバルトは、怒りと憎悪に満ちた眼差しでオディールを睨みつけます。

「おのれー。オディール」

 苦しみ悶えるロートバルト。白銀の剣が深く刺さった胸からは、妖しい青白い炎が溢れ出し始めます。

 その炎は瞬く間に全身を包み込むと、凄絶な叫び声をあげながら黒く巨大な影となり、やがて虚無の灰となって消え去っていきました。

 魔王の断末魔が渦巻く夜の風に吸い込まれ、湖畔には再び、痛々しいほどの静寂が戻ります。  

 ジークは荒い息を呑み込み、祈るような心地で湖へ視線を向けました。

 ――ですが、彼が期待した奇跡は起きませんでした。