黒鳥のオディール

 さらに、水面に浮かび静かに決闘を見守る白鳥たちの悲しげな眼差しが、まるで刃のように彼の全身を苛みます。

 その一瞬の心の迷いと隙を突かれ、ジークは足元をすべらせ、無様に大地へと倒れ伏してしまったのです。

 ロートバルトは、攻撃の手を止めると、息を整えながら、見定めるように、そんなジークの姿を眺めます。

 勝利を確信した不気味な微笑を浮かべると、とどめを刺そうと剣を大きく振りかぶりました。

 背後に迫る死の足音が聞こえる中――ジークの眼差しは、オデットでも誰でもなく、ただ闇の中に佇むオディールへとまっすぐ注がれていました。

 振り下ろさんと、剣に力が入ったまさにその時。

 魔王の足元に、ジークの懐からこぼれ落ちた「小さな銀の光」が魔王の動きを静止させました。

(このボタンは……。これは、オディールが湖で拾った代物……。それを今更、なぜこいつの手に握られていたのだ……?)

 それを指先で拾い上げると、ロートバルトの眉が、不快そうに歪みました。

 人形として創り上げたはずの娘と、身の程知らずな獲物である王子。

 その二人の間に、自らの理解が及ばぬ「絆」が存在することに、魔王は初めて慄然とした戸惑いを覚えたのです。

「ジーク――っ!!」

 緊迫する危機を前に、ベンノは苦し紛れに、舞踏会場から持ち出してきた銀のお盆を魔王へ向け投げつけました。

 ですが、ロートバルトに難なくかわされた銀盤は、背後にそびえる大木に激しくぶつかり、無惨な音を立てて足元へ揺れ落ちます。

「……愚か者が」