黒鳥のオディール

 しかし、彼が弦を引く力はあまりにも弱いようで、鏃(やじり)の先が小刻みに揺れていました。

 急ぎ放たれた矢は目標から大きく外れると、暗闇からひょっこり抜け出してきたのは、小さな野うさぎでした。

 逃げ去っていく野うさぎを見送り、深緑の服の青年はホッとしたように息を吐き出します。

「なんだ、森の猛獣かと思ったら野うさぎか。驚かせるなよ」

 ホッと息をつく彼に、ロイヤルブルーの青年は明るい声色で声をかけます。

「君から『気晴らしにでも』と誘っておいてなんだい、そのへっぴり腰は」

「そんなこと言うなよ。母君から結婚を急かされ、日々悩んでいた君を思っての誘いだったんだから。それに君だって、格好ばかり立派で一向に弓を引こうとしないじゃないか」

 まるで散歩にでも来たかのように、衣服を汚すこともなく立っているふたり。
 互いに『宝の持ち腐れ』な姿を見合わせ、楽しそうに笑い合います。

 ロイヤルブルーの青年は手にした弓を肩に担ぐと、帰り支度をしながら声をかけました。

「ベンノ。所詮、僕たちには生き物を殺める『狩り』など向いていないようだ。さあ、今日はこの辺にして城へ帰ろう」

 立ち去ろうとするふたりの背中を、オディールは茂みの奥から深い青の瞳で見つめ続けます

(おかしなふたり。男の人なのに、狩りもできないなんて……)

 そんな彼らの穏やかな心を映し出すかのように、それまで厚い雲に隠れていた月がそっと顔を出しました。