黒鳥のオディール

 広間全体は先ほどの凄絶な閃光によって人々が視界を奪われ、誰一人としてまともに動ける状態ではありません。

 兵士たちも床に手を突き、槍や剣を握り直すことすらできずに伏せていました。

 ジークは母の元へ駆け寄ると、その肩にそっと触れて手を握り、揺るぎない決意を告げます。

「母上……私は姫を助けに参ります。どうか、ここでお待ちください」

「何を無茶な……!」

 目を閉じ苦しむ兵士たちも必死に手を伸ばし、王子の無謀な行動を止めようと声を上げます。  

 そのやり取りを静かに聞いていたオニキスは、テーブルの下に身を隠していたことで運よく閃光を免れた一人の男の服を咥え、ズルズルと引きずり出してきました。

「ベンノ……! 君は無事だったのか!」

 ジークの驚く声に、ベンノはまだ恐怖で膝を震わせながらも、盾のように抱え込んだ銀のお盆の陰から、少し照れくさそうに笑ってみせました。

「……やっぱり、僕も行かなきゃダメだよね。君を一人で、あんな化け物のところへ行かせるわけにはいかないからさ」

 無謀な運命に加わると告げた友の言葉に、ジークの口元にわずかな、けれど確かな信頼の笑みが漏れていました。