黒鳥のオディール

 姿を現したのは、黒く大きな『オオカミ』。

 その獣はオディールに覆いかぶさると、まるで忠誠を誓うかのように、彼女の冷たい頬を優しく舐め始めるのでした。

「フッフッ。くすぐったいわ。あなたもついてきていたのね、『オニキス』」

 戯れ合いながら強く抱きしめ合うと、オディールは少し力強い愛しさを込めて、オニキスの分厚く硬い毛で覆われた頭を撫でまわします。

 すると、じゃれ合うふたりの耳に湖のほうから、かすかな男性の話し声が届くのでした。

 オディールは唇に人差し指を当ててオニキスを制すと、茂みの中から声のする方向をそっと覗き込みました。

 そこには、手に弓矢を携えた青年が二人、何の警戒心も見せずに立っています。

(こんな森の奥深くまで、人間が足を踏み入れるなんて……)

 その物騒な持ち物に、オディールは警戒を強め、息を潜めて身をかがめました。

 ロイヤルブルーの地に豪華な装飾が施された上着を羽織り、白いタイツにブーツを履いた青年は、いかにも高貴な身分であることが伺えます。

 隣に立つ青年は森の木々に馴染む深緑の服を纏い、背中には使い込まれた矢筒を背負っていました。

 彼は茂みの中に光る獣のまなこを見つけると、驚き、慌てた手付きで弓を引き構えます。