黒鳥のオディール

 これから父へ訴えかける言葉の重さに心を沈ませながら、オディールは静かに扉へと近づいていきました。

 部屋へ入るためにそっと扉へ手を伸ばしたその瞬間――中から、地の底で重く蠢くような不吉な笑い声が聞こえてきたのです。

「ふっふっふっふっ。なんと滑稽な。オデットの呪いを解こうとする者が現れるとは」

 その名を聞いた途端、思わずオディールは扉を開く手を止め、息をひそめてしまいます。

「私のかけた呪いを解くための言葉。『真実の愛』は一度きり、その手の内を、まさか本人の影から告げられるとは、まさに愉快。最も残酷に邪魔をすることができる」

(影……? 一体何のこと……?)

 ロートバルトの口から漏れ出るおぞましい真実に、オディールの胸には冷たい不安だけが広がっていきます。

「オディールは、オデットの影から切り出し、命を吹き込んだ存在。まさか己の呪いを解く機会を、影である偽物に邪魔されるとは思うまい……! 正に愉快、はっはっはっ!」

 ――その真実を聞いたオディールの、小さく鼓動していた心臓は、今にも張り裂けそうなほど激しく脈打つのでした。

 溢れ出しそうな悲鳴を両手で強く塞ぎ殺すと、彼女は瞳を閉じ、押し寄せる激しい悲しみに耐え忍びました。