黒鳥のオディール

 ――同じ時刻。魔王城の深い闇の中でも、同じ夜空を仰ぐ者がいました。

 オディールは窓際に腰を下ろし、冷たく静かに差し込む月明かりを浴びながら、ひとり思考を巡らせています。

 オニキスはこの夜、不吉な何かを暗示するかのように、決して彼女のそばを離れようとはしませんでした。

 瞼を閉じながらも、耳をたて、何かを警戒するように意識を研ぎ澄ませています。

 窓辺に佇むオディールの瞳の奥から消えないのは、あの湖で目にした、呪いに囚われた白鳥の姿――

 まるで自分自身の生き写しのような、オデット姫の姿でした。

 そして何より気がかりだったのが、ロートバルトの放った言葉。

 それは明日。フリート城で行われる舞踏会に参加し、『オデット』と名前を偽れと。

 いくら父の命令とはいえ、偽りのベールでどれほど真実を隠したところで、あの夜空に浮かぶ汚れなき月の光を、二度と見上げることも、浴びることもできはしないのだと――オディールは静かに悟っていました。

 彼女は腰かけていた窓辺からそっと降りると、何かを警戒するように寄り添うオニキスの視線を背に受けながら、ロートバルトの部屋へと足を運びます。

 冷たく暗い石造りの階段を降り、魔王の休む部屋へと視線を向けました。

 部屋の中からはメラメラと怪しく揺れる蝋燭の灯りが、少しだけ開いた扉の隙間から廊下へと細く漏れ出しています。