黒鳥のオディール

「その青年の名は、ジークフリート。安心しなさい、我が娘よ。この父が、お前の想いを実らせてやろう」

 その言葉に、オディールは危ういほど純粋な希望を抱いてしまいます。

「本当ですか……?」

「ああ、愛する娘のためだ。はっはっはっはっ……!」

 森の木々を震わせる魔王の哄笑は、やがて夜の闇に溶け、不吉な風となって城へと吹き抜けていきます。

 その笑みの裏に、娘さえも駒として使い潰す、冷徹な謀略が隠されているとも知らず、オディールはただ、明日訪れるはずの「幸福」を夢見るのでした。


 ーー城に戻ったジークは、結婚の決意を母親に報告します。
 喜び会う城内では、友人のベンノも招かれ、祝福の言葉を受けるのでした。

「どうしたんだい一体。あんなに嫌がっていた君が結婚だなんて」

 ジークは早速訪れて来てくれた友人に、歓迎するように手を彼の背中に当てていました。

「それが、昨日君と出かけた湖で、出会ったんだ」

 ベンノは少し驚いた表情で聞き返します。

「あの湖でかい? あんな所にいたのかい?」

 ジークは周囲に誰もいないことを確かめると、ベンノの耳元に顔を寄せ、密やかな声で語り始めました。