黒鳥のオディール

 ジークは深く考え込んでいました。

(これほどまでに胸を締め付ける人に出会うなんて。もし、この人と愛を育んでいけたなら、どんなに素敵なことだろう……)

 ジークは吸い込まれるように、悲しげなオデットの肩をじっと見つめ直していました。

 だが、そのふたりの光景を、茂みの陰から静かに見つめる者がいたのです。
 それは昨夜、彼というまばゆい『光』を知ってしまった少女、オディールでした。

(もう一度ここへ来れば、あの方に会えるかもしれない……)

 そんな小さな期待を胸に訪れた彼女でしたが、そこで目にしたのは、胸を引き裂かれるような残酷な現実でした。

 ふたりの会話の内容までは聞き取れず、オディールは拭いきれぬ不安に駆られながら、昨夜拾った銀のボタンを力強く握りしめます。

(あの方が別の女性と共にいる……。しかも、あの白鳥が人間の姿に……どうして? あれは呪いのはず。それに……あの女性は、なんだか私に似ている。髪や肌の色は違うけれど、瞳の色も、立ち姿も私と同じ……)

 隣にいたオニキスは、主人のただならぬ動揺を察し、心配そうにオディールを見つめていました。

 ジークはその場に静かに片膝をつくと、片手を胸元に当て、オデットに向かって真摯に言葉をかけます。