黒鳥のオディール

 彼は自らの武器を捨て去る誓いのように、無防備に両手を広げ、祈るように語りかけました。

 すると、それまで照りつけていた太陽が急に雲に隠れ、森の中はまるで夜を迎えたかのように暗く染まっていきます。

 灰色の空には、銀の輝きを放つ前の、青白く、頼りなげな月がぽつんと灯ります。

 狂い始めた天をジークと白鳥が仰ぎ見ると、静まり返った空間に激しい羽音だけが響き渡ります。

 あまりの突然の出来事に、ジークは身を固くしました。

 視線を水面へ戻すと、白鳥は「クェー」と悲鳴のような声を上げ、苦しげに水面を激しく揺らし始めます。

 声も出ないジークは、ただ祈るようにその手を指先を、差し伸べることしかできません。

 やがて白鳥が煌々とした光を放ち始めると、大きく広げられた羽先は、眩い光をこぼしながらしなやかな指先へと変わっていきました。

 その神秘的な光景に、伸ばしていたジークの手から、そっと力が抜けていきます

 光の束を纏った体は優美な純白のドレスへと変わり、眩しさが穏やかに引いていくと……そこには、水面にそっと触れるように、可憐なつま先で立つひとりの美しい姫の姿がありました。

 再び静寂な湖に戻ります。小さな波紋を揺らす彼女は、言葉を失ったジークに向けて静かに問いかけます。

「……あなたは、あの恐ろしい魔王の仲間ですか? それとも、私の新たな絶望を運んできた方なのでしょうか」