黒鳥のオディール

 霞立ち込める森の中。

  一人の少女が、裸足で力強く土を踏み締め、矢のように森を駆け抜けていきます。

 その横顔には、この世の光も闇もまだ知らぬ、あまりにも無垢な微笑みが浮かんでいました。

 彼女の名はオディール。夜を溶かしたような長い黒髪に、大地の温もりを宿す褐色の肌。

 そして、澄み渡る湖の底のように深い、青い瞳の持ち主です。

 土や、こぼれ落ちた枯れ葉を力強く踏み締める足取りは、次第に跳ねるように軽快なものへと変わっていきます。

 つま先(ポアント)で地を蹴り、ステップ(パ)が空気を震わせると、彼女は霧を切り裂くように、大ジャンプ(グラン・ジュテ)で宙を舞います。

 彼女の素足が地面を離れるその瞬間、森の木々さえも、そのステップに合わせて呼吸を止めるほどでした。

 オディールは今、息を切らしながらも、この瞬間を心から楽しむように舞い進んでいました。  

 幾重にも重なる木々の先、ひっそりと水を湛える湖畔。
 そこが、彼女の目指す聖域でした。

 その場所で、優雅なひとときを過ごそうと考えていたのです。

 あと少し、あともう少し。茂みをかき分け、小さな丘に近づいたその時――どこからか自分を見つめる視線に気づき、彼女は急ぐ足取りを止めました。

 息を殺し、肌の感覚を研ぎ澄ますと、『しん』と静まり返る空気の中に、かすかな気配を感じ取ります。

 まるで追いつかんとするように、林の中から突如、大きな黒い影が彼女へと飛びかかってきました。