秘密を隠した僕たちは、極端な世界を壊す

 いっちーと出かけたデパートに行った日から一週間ほどが経ったある日の朝。
 この一週間で自分とたくさん見つめ合うことが出来たけど、自分らしさ がまだ掴めてないのだ。
 まぁ、焦ることはないんだけれど!時間はまだまだたくさんあるんだし!
 でも、どうしよう。
 世界を壊すなら一人だけじゃ壊せないから、今の世界を壊すためにも、たくさん人にもっと自分らしく生きることの大切さを伝えることが大事だよな……。
 まずは……身近な人……クラスメイトは、どうかな。
 高校生は学校が一番過ごす時間が多いし、いろんな人と交流もたくさん出来るから、学校の中だけだけど、それなりに自分らしさの大切さを多くの人に伝えることが出来そうだよな。
 
 よしっ。そうとなれば、自分磨きをするぞ!
 まだ僕は、自分らしさ を掴めてはいないけど、好きなものに正直になることは掴めてるから!
 その気持ちを忘れずに、学校でも過ごしていったら、自分らしさ が分かるかもしれない!

 
「僕も自分らしさは自分磨きをしていって、自分を理解していってから、これかな、ってわかったからさ!そんなに焦らなくていいんだよ」


 っていっちーも言ってたからね。
 自分のペースで、生きていこう!それが何よりもの自分らしさへの近道だよね!
 
 ——今日はどんな手がかりが見つかるのかな。

 そう思うと、とても学校に行くのがワクワクしてきた。以前はこんなこと、ちっとも思わなかったのに。これもいっちーのおかげか。
 僕は微笑んでから制服に着替え、学校へと向かった。



 学校に着くと、クラス替えからもう2週間が経っており、徐々にクラスの中でのグループが作られてきて、教室のあちらこちらに人だまりが出来ていた。
 自分の席へと向かうと、隣の席に一人座っている女の子がいた。東雲さんだ。
 東雲さんとは隣の席ということもあって、挨拶やくだらない世間話とかをよくしていた。

「東雲さん、おはよう」
「あ、悠くん。おはよう」

 いつも東雲さんはちょっと明るい人——平居さんと話しているが、今日はどうしたんだろう……。

「今日は平居さんと話してないの?」
「あー、それがね、」
「ちょっと、私には明るすぎるかなぁって」

 と僕に小さい声で教えてくれた。

「まあ、明るいことはむしろ良いことなんだけどね。でも、私、平居さんのノリがちょっと合わない気がしてて」
「別に暗いことが悪いって訳じゃないんじゃない?僕も暗い方の人間だけどさ、逆にそれに助けられたこともあったし」

 ふいにいっちーの顔が浮かんだ。今、自分の頬が少し緩んだ気がする。

「でも、暗い、明るいって分けるんじゃなくて、ちゃんと人としてその人を見るのが大切だと思うよ」
「その人として、か……」

 頷きながら「そっか」と呟いている東雲さん。

「うん。ありがとう、悠くん」
「全然。あ、でも合わないなって思う人とは、必要最低限しか関わらない方が良いと思うよ」
「え?」
「無理のしすぎは良くないからね」

 きょとんとした顔で少し僕の顔を見つめられた。どうしたんだろう。

「なんか、悠くん、少し変わったよね」
「そう?」
「うん。なんか、かっこいい、ってゆーか、なんていうか、少し輝きの放ってるように私は見える」
「ほんと?嬉しいな」

 他の人から見てもそう見えてるなら、少しずつ成長しているのだろうか。良かった。
 すると、僕の持っているカバンを見て、驚いていた。

「え!悠くん、シマエナガ好きなの?!」
「うん!シマエナガ好きだよ!東雲さんも?」
「そう!シマエナガって可愛いよねぇ~」

 「触ってもいい?」と聞かれたので頷くと、「やった~!」と少し子供っぽく喜んでいた。
 その姿を見ていて、好きなものが一緒の人と話すのって楽しいんだな、と思った。
 前は、他人の目を気にしすぎて、それよりも自分自身に自信が無くて、学校ではあまり人目のつかないところでしか好きなものと触れ合っていなかったから、人に気付かれることもなくて、誰かと好きなことを話すこともなかったからわからなかったけれど、こうやって誰かと好きなものを語れるのって、幸せなんだと知った。

「シマエナガって、北海道の寒いところでしか見つけられないらしくてさ」
「うんうん」
「しかも、めっちゃ飛ぶのが早いらしくて、カメラで捉えるのが一苦労だーって、この前調べた時に見つけたんだよね」
「それ知ってる!この前テレビでやっててさ!」
「ほんと?そのテレビ、見逃したかも……何のテレビだったの?」
「なんか、シマエナガをカメラに収めようってコーナーで、めっちゃ大変そうだった」
「そうだよね、大変そう……」
「でも!その最後にはちゃんと写真を撮れて、めっちゃ可愛いシマエナガが撮れたんだって!」
「えぇ~!いいね!実物に会いたいよぉ~」
「ね!僕も生で会いたいな~!」

 東雲さんは、シマエナガの顔をたくさん撫でて微笑んでいた。

「ふふっ、触らせてくれてありがと~」
「ううん。こちらこそ、ありがとう」
「ええ?私ただシマエナガと触れ合ってただけだよ?」
「いや、僕、好きなものを人にあまり見せたことが無くて。だから、こうやって誰かと好きなものを話せるのが楽しいなって」
「私も!シマエナガ好きな人あんまいなかったから、悠くんと話せて良かったー!」
「隣だし、休み時間とかまた話そうよ!」
「うん!今度、新作の可愛いシマエナガ買ったから、それ持ってくるよ!」
「ほんと!?ありがとう!」
「うん!」

 さっそく、好きに正直に生きれてるな、と青い空を眺めた。
 すると、チャイムが鳴り、先生が教室へ来たので、日直が朝のHRを初めて今日の授業が始まった。


 
 お昼休み
「悠センパイ、やっほー!」
「いっちーやっほー!」
「あれ?なんか元気だね。なんか良いことあった?」
「うん!今日はちょっと良いことがあって」
「うんうん!僕に話してみなよ!」
「隣の席の人と大好きなシマエナガの話をしてさ!」
「おお!」
「それがめっちゃ楽しくて!僕、自信がなくて人に好きなものの話をしてこなかったんだけど、今日シマエナガの話をその子と話してたら、ほんとに楽しくてさ!」
「うん!好きなものが一緒の人と話すのは、もっと楽しいよね!」
「うん!今日は、好きなものに正直に生きれてるんだよね!」
「めっちゃ最高じゃん!!」

 いっちーにグーサインをされて、僕もグーサインを返した。
 可愛いシマエナガ柄の風呂敷を広げ、お弁当を並べる。

「いただきまーす!」
「いただきま〜すっ!!」

 するといっちーが食べる前にご飯を差し出して「これ見て!!」と見せてきた。
 そこには、ふりかけがかかっていた。しかもキャラ弁に使われるような、可愛いやつ。柄は可愛いパンダ柄だった。

「じゃーん!パンダのふりかけ!可愛いっしょ!!」
「可愛いね!パンダ好きなの?」
「うん!パンダも大好きだよ!もちたん。の次に好きなやつなんだ!」
「いいじゃん!好きな理由とかないの?」
「僕がパンダが好きな理由はね、かっこいいからかな」
「パンダが、かっこいい……?」
「そう!パンダってさ、白と黒がどっちもあるじゃん?」
「うん」
「僕さぁ、白にも黒にも染まりたくないんだよね。自分らしく!自分の色で生きていきたいからさ!」
「うん!!!僕も自分らしく生きたい!!」
「お互い、自分らしく生きよう!」
「おー!!」
 
 そう気合を入れてご飯を食べようとした いっちーは、突然固まった。「どうしたの?」と質問する前からいっちーは震えていた。

「どうしよう……パンダ可愛いすぎてご飯が食べれないよぉ」

 少し涙目になっているいっちーに少し笑ってしまう。

「可愛いすぎるのは分かるけど、美味しく食べた方がパンダさんも喜ぶと思うよ〜」
「ぐぬぬぅ……仕方がない、パンダさんがそう言うのならぁ……」

 誰もパンダは言ってないけど、と心の中で軽くツッコんだ。いっちーは あ〜むっ!と、効果音がつきそうなほどの食べ方をして、ご飯を食べていた。
 今日も僕の作ったミニハンバーグといっちーの作った唐揚げを交換した。

「ハンバーグのソースって何で食べる?」
「あー、ソースとかケチャップとか、バーベキューソースとかーってこと?」
「そうそう!僕はケチャップかな」
「ケチャップかぁー!」
「いっちーは何で食べるの?」
「僕は断然!バーベキューソースだね!!ソースとかケチャップとかよりも少し手間がかかっちゃうけど、でもこの三つの中で一番美味しいから!」
「バーベキューソースなんだ!いいね!」
「でも!ケチャップも超美味しい!たまにケチャップで食べるもの悪くないね〜!」
「ケチャップも案外美味しいんだよ〜。この唐揚げもめちゃくちゃ美味しい!!」

 ご飯を食べ終わった後、少し時間が空いたので雑談をしていたら、突然扉が開いた。
 扉の向こう側に見えたのは、入学式、いや、一年の頃から僕をいじめていた、あの五人組だった。

「やっと見つけたわぁ〜、探すの大変だったんだぜ?」
「誰も探してなんて言ってないんだけどな〜」

 「そ・れ・と・も〜」と、いっちーは

「元気になったから、また喧嘩できないようにしてほしかった〜?」

 相手を明らかに煽るような言い方で五人組に近寄った。

「はぁ?そんなん一回だけでいーわw」
「ってか!お前、女子に守られてんかよ、クソダセーな、男のくせに」

 中心核の奴の標的がいっちーから僕に変わった。
 そいつはいっちーのことを押しやって僕のとこへ来て、僕にキツくあたった。

「まあお前、男なのに、可愛いものが好きだからな〜当然か」
「誰かに守られないと生きていけないんだろ?w」

 以前の僕はとても弱くて、自分の「好き」を守れなくて、自分自身を認めることも出来なかった。
 でも、今の僕は一人じゃないから。いっちーに出会えて、自分の「好き」を守れて、共通の趣味の友達が出来た。まだまだだけど、自分自身を認めることも出来た。
 だから、僕は……!!

「僕はもう、あの頃とは変わったんだっ!!」
「僕の……人の好きなものをバカにするのは許さない!」

 歯向かった僕に中心核にいた相手はとても驚いていた。でも僕はもっと驚かせる言葉を言った。

「でも、ありがとう!」

 相手は目が見えなくなるくらい目を点にして、今にも気絶しそうそうだ。
 それも当然。自分がいじめていた相手から、感謝の言葉を言われるなんて、滅多にないからだ。
 でも、これは本当に本心だ。自分がその境遇にいなかったらいっちーに出会えていなかっただろうし、そもそも自分らしく生きようなんて思ってもいなかったからだ。

「君のおかげで僕は今、自分らしく生きれてるから!」

 相手の目をちゃんと見て言う。いつかのいっちーみたいに。
 すると、いっちーが元気良く微笑み、手を一回叩いてから「はいっ!」と言い、

「もう少しでチャイム鳴っちゃうんだから、解散解散!!」

 手をひらひらさせていた。
 その言葉に他の四人は顔を見合わせたが、強引ないっちーに言われて、頷きながら帰ってった。

「他の四人、帰っちゃったけど、君は帰んなくていーのー?」

 いっちーは中心核の顔を覗き込んで話した。

「……ごめんっ!!」
「僕!あーゆー差別、大っ嫌いだけど!ちゃんと反省してるから……次からは絶対にやんないでね!!」

 いっちーの言葉に静かに頷き、ゆっくりと歩いて屋上のドアの方へ進んでいく彼の後ろ姿を見ていると、

「絶対に許さないから!!」

 と、声に出ていた。彼は動きを止め、こっちを振り向いた。

「めっちゃ傷ついたし、辛かった!」
「うん」
「だから、ちゃんと自分自身と向き合って、今度は自分らしく生きてね!!」

 ちゃんと僕の目を見て、しっかりと頷いてから、この場を去ってった。



「悠は、優しいね」

 いじめっ子が去ってから、とても優しい声色でいっちーは呟いた。
 
「全然そんなことないよ」

 否定をすると、とても元気良く反抗された。
 
「いーや!そんなことあるよ!僕だったら全然許せないもんねー!」
「僕も、許した訳じゃないよ」
「それでもあんな言葉、かけられないよ!」
「そう?いっちーならこんな言葉かけられると思ってたけど」
「さすがにいじめっ子にあんな言葉かけられるとしても、しばらく経って後......せめて一日は経たないとかけられるないよ!」
「まぁ、そうか?」
「そーだよー!って、チャイムなっちゃうから僕らも行こう!」
「うん!」

 そして僕たちも屋上を去った。

 


 今日の午後はLHRがあり、そこで年間授業の話をされた。
 どうやら、僕らの学校は七月の中旬に文化祭があるようだ。