秘密を隠した僕たちは、極端な世界を壊す

 ボクのお母さんは、「普通」に囚われすぎている人だった。


「いつきはランドセル、何色にするの?」
「んー……あっ!」

 そう言い、ボクは真っ青のランドセルを選んだ。直感で。

「かっこいいから、青がいい!」
「っ……」

 ボクの言葉を聞いたお母さんの顔が少しだけ歪んだ気がする。

「うーんと、それは……」
「こっちはどう?ほら!可愛いでしょ?みんなもこういう可愛いの、背負ってくると思うわよ」
「なんで可愛いのじゃないとダメなの……?」
「みんなと同じのがいいでしょ?」
「なんで?」

 ボクがお母さんに聞くと、返事が帰ってこなく何回も繰り返していると、周りに他のお客さんがこちらを見ていた。それに気付いたお母さんがすごく焦っていた。

「ランドセル選びはまた今度にしましょうね」

 お母さんに背中を押され、急ぎ足で車へと戻った。



「なんでみんなと同じじゃなきゃダメなの?」
 
 帰り道の車。さっきお母さんに言われたことが疑問に思って聞いた。

「なんで……って、いつきのためだからよ」
「なら、ボクはあの青いランドセルがいいっ!」

 お母さんは後ろの席に座っているボクには気付かないように、ため息をついていた。
 でもすぐにお母さんはミラー越しにボクに微笑んだ。

「……っ、」
 
 だけど、その笑顔は心からのものではなくて、お母さんがボクだけに向ける、作っている笑顔だった。

「ふぅー……」

 お母さんは深くため息をつき、

「早く家に帰りましょう。今日は体調が悪いからね」

 とだけ残して、赤から青に変わった信号を見て発進する。
 その後は、家につくまで一言も話さなかった。


 その日の夜、あまりボクは寝付けなかった。
 窓を覗くと、とても深い黒色の空から無数の水玉が降り注いでいた。
 今日のテレビで たい、ふう?が近づいている、みたいなことがテレビのお兄さんが言ってた気がするけど、これなのかな、?
 うーん。暗いなぁ……。
 リビングに行こうかな、お水飲みたいし。

「よいっしょっと」

 ベットから抜け出し、リビングへと向かう。
 自分の部屋を出て、すぐにある曲がり角を右に行って階段を降りる……が、リビングに電気がついてあったから一段目を降りようとして足を止めた。
 お母さんかお父さん、それかボクみたいに寝付けなかった二歳年下の弟、いぶきがリビングにいるのかなぁ。
 のんびり階段を降りていると、かすかに声が聞こえていた。
 もう少し階段を降りるとその声はお母さんとお父さんの声だった。でも、なんかすごい雰囲気が悪い気がする。
 大丈夫かな、なにかあったんじゃ……。

「どう、したn……」

 壁に手をつけて眠気眼で見えてきたのは、リビングにある食卓の机に横になっているお母さんと、そのお母さんに優しく手をかけているお父さんだった。お母さんの肩が数秒おきに震えていた。

「っ……、変よ……」

 キツく拳を握りしめたお母さんの手からは血が出ていた。

「女の子なのに、かっこいいものが好きなんておかしいじゃないっ!!」
「普通じゃないわよ、あの子は」
「あ……、っ」

 拳を机に叩きつけてものずごい音が鳴った。その音に背中が跳ねる。
 壁につけていた手の力が抜け、そのまま立ち尽くす。

「なんであの子はあんな風に育ってしまったのっ、ねぇ、なんでっ!!」
「倫香、落ち着いて。大丈夫だ」
「なんでなのっ……」

 その後の会話は全然に耳に入ってこなかった。でもお母さんの泣き声だけはひどく耳に届いた。
 重い足取りで自分の部屋に戻り、体をうずくませて目をキツく瞑った。
 けど、夢はいつまでも見れなかった。


 その日を境にお母さんは壊れてしまって、その代償で異様にいぶきに愛情を注ぐようになった。
 ボクとお母さんはまったく話さなくなって、幸せそうにいぶきと話すお母さんをただ見守っているだけだった。

「っ……」

 














 普通じゃない、ボクが、全部悪かったのかな……。


 













 でもっ、ボクにとっての普通は、かっこいいものが好きなことでっ。


「かっこいいものが好きなんておかしいじゃないっ!!」
「……っ、!」



















 ふぅーー、っ。






 もう、わかんないよっ……。

















 僕は、どうすれば良かったの、、、。


















 小学校を卒業して中学校に入学する間の長い休みの日、一人で美容院に行って、念願のボーイッシュにしてもらった。
 もう家族には見放された。会話もここ六年間していない。あの家に僕は必要なくなったのだ。
 だから、自由になるために、自分が好きな自分でい続けることを選択した。

 家に帰って自室へ行こうとしてリビングの前を通った時に、リビングにいたお母さんとたまたま目が合ってしまった。
 そのたったの一瞬でお母さんが歪んだ。胸の奥の方がズキッと痛んだ気がしたけど、気付かないフリをして階段を登っていった。けど、お母さんに止められた。

「あなた!!」

 今まで聞いたことのないほどの大きな声だった。背中が小さく跳ねた。
 無視して登ろうとしたけど、お母さんに腕を掴まれてしまって登れない。

「なによ、その髪型っ、!」
「……」

 掴む力がどんどん強くなっていって痛くなる。
 お母さんの方を見てみると目に涙が溜まっていた。お母さんはずっと真っ直ぐに僕を見ていた。

「もう、好きにしなさい」

 腕を振り払って、お母さんは大きな足音を立てながらリビングへと戻っていった。
 数秒その場に立ち尽くした後、濡れている頬を力強く拭い、階段を登った。














 



 
 でも。中学二年生の秋のころ。
 小学校までずっとほっとかれていたのに、なぜかお母さんは僕に過保護になってしまった。理由は、いぶきになんか言われたんだとか。いぶきは優しい子に育ったんだなぁ、と感心していたが、今は絶賛反抗期なので、たぶんお母さんがただ一人になりたくないからだろう。なので時期が来れば、また僕は用済みになってしまうのだ。


 なんでこんな家に産まれてしまったんだろう……。


 ……なんて、誰にも言えないんだけどね。本当に僕の存在価値ってなんなんだろう。

 好きなものを好きって言ったら親から拒絶されて、なりたい自分で生きようとしたら育児放棄されて。
 僕の生きる価値なんて、ないんじゃないのかな。

 って、さすがに考えすぎたな。リフレッシュ、リフレッシュ。

「ふぅー」

 夕焼けに染まる綺麗な空を見上げながら大きく深呼吸をする。
 家に居たくなくて近くの公園で時間を潰していたけど、さすがに遅くなりすぎるのも厄介だからな。帰ろう。
 ふいに横に見えたショップに目が止まり見に行く。

「『もちたん。』……?」

 そのショップの真ん中にデッカイポップがあり、そこにカラフルの大きい文字で「おもちの国からやってきた、おもちの星人!もちたん。」と書かれていた。ポップの下にはたくさんの真っ白くて丸いぬいぐるみが置いてあった。
 無意識に手がそれを求めていて、胸に引き寄せる。

「……っ」


 なんだろう、この安心感。すっごい、心地が良い……。


 ぬいぐるみについてあるタグに目を通した。





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 おもちの国からやってきた、みんなに
 笑顔を届けるおもちの星人、「もちたん。」!
 楽しいこと、嬉しいことがあった時は、
 もちたん。に話してね!
 喜びを二倍にしよう!

 でも、もし悲しいこと時があった時は、
 もちたん。を " ギュッ " ってして、
 悲しみを吹き飛ばしちゃおう!


 どんなときも笑顔(*´∇`) を忘れずに!
 たくさん笑って過ごしていこう!
 これからもキミが、キミらしく!生きていける
 ようにずっと支え続けるから、

    一番近くて見守らせてね♪

            もちたん。より!

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 すぐに鞄からお財布を取り出し、持ち金を確認してから、もちたん。を大切にレジに持っていき、一個購入した。

「ありがとうございましたー!」

 元気な店員を後ろで聞きながら家へ帰る。



 その帰り道、前からあるってくるカップルがいた。
 彼氏さんが彼女さんに「かわいいー!」と甘えて、彼女さんも彼氏さんに「ミナトだってかっこいいじゃーんw」と腕をからめて笑い合っていた。

 その様子を通りすがりに見ていた僕の中に、ひとつの疑問が浮かんだ。






 物を好きになることも、そんなに自然なことなんじゃないかな?





 男の子、女の子って関係なく、可愛いものもかっこいいものも、好きなものは好きになるんだよ。
 好き!っていう気持ちは誰になんて言われようとも、変わらないんだよ!
 なら、そんな気持ちを大切にしないと!その気持ちは、誰のものでもない、自分だけのものなんだから!


 家につき、少し気になった言葉を検索にかけた。

「キミらしく、とは」

 「キミらしく」とは、他人の目や社会の常識にとらわれず、自分自身の価値観や感情、個性を大切にして生きることを意味する言葉です。また、「自分らしく」とも言います。

「自分、らしく……!!」

 なんか、音の響きいいなっ……!

「……っ!」

 決めた。僕は。




 僕は、僕らしく!好きなものに正直になって、ありのままの自分で生きていくって!




 心のモヤが一気に解けた気がした。