「あ、おはよう……ございます」
一樹は分かりやすく肩を跳ね上げた後、蚊の鳴くような声で挨拶してきた。
「おはようございます」
「…………」
気まずそうに視線を逸らされ、思わず顔をしかめた。
一樹はいつもこうだ。俺を見たくないらしい。
面白くない俺は、横に回り込んで顔を覗き込んだ。
「命の恩人である俺に、その態度はねぇんじゃねーの?」
「は、はぁ……」
たかがぬいぐるみひとつ取ってやっただけだろ、と内心突っ込む。
だが、間近で見つめた一樹の顔は以前よりシャープに削げ、透き通るような白肌にうっすらと黒い隈が浮き出ていた。
(……なんだあいつ、顔色悪すぎだろ。狂ったように受験勉強して参ってんのか……それとも、昨日のあの男の件か?)
理由は分からない。だが、ボロボロになりながら強がっている姿が無性に引っかかった。
胸の奥が苦しくなるような苛立ちと心配が混ざり合い、俺は思わずその華奢な肩に腕を回し、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
「ひぃッ!」
「ぷっ! 怖がりすぎ」
一樹は俺の手の中で小さく縮こまる。
あんな男に一途だったり、命を削るように勉強したりしている癖に、俺の前じゃこんなに脆くて軽々しい。
そのギャップに胸が締め付けられ、俺は誤魔化すように笑った。
一樹は切れ長の目を鋭くして俺を睨みつけてくる。
「あ、あなた、いったい何がしたいんですか! いつもいつも、俺に構いすぎです」
その言葉に、胸の奥がどきりと跳ねた。
(構いすぎ、か……)
一樹に言われて初めて確かに、と自覚する。
確かに俺は、あいつに会えば話しかけたいし、俺をしっかり認識させたい。
昔どこかで見たような強い既視感と、放っておけない危うさ。
それが俺の意識を惹きつけて離さないのだ。
「おいっ、ごらぁ隆太! 早く動けっつってんだよ!」
上からの怒号にはっと我に返った。
俺はひとつの〝もの〟に集中すると、周りが見えなくなる。
「……お前が、おもろいからだよ」
「はぁ?」
「じゃ、俺行くわ。お前……顔色悪すぎだから、勉強ほどほどにしとけよ」
分かりやすく顔を真っ赤にした一樹を置いて、俺は親方のもとへ走った。
(つか、一樹の言う通り……俺、あいつに構いすぎだな)
住む世界が違う。ダチとだって絶対に合わないタイプだ。
普通なら交わるはずもない。
だが、気づけば仕事の合間にあいつの部屋を覗き、行動パターンまで把握しようとしている自分がいる。
「おい隆太! なに手ぇ止めてんだ、釘打ち終わらせろ!」
親方の声に我に返り、俺は手にしていた金づちを力強く振り下ろした。
ガンッ、ガンッ、ガンッ!と大きな音を立て、合板へ五寸釘がめり込んでいく。
身体を動かしていても、頭の中はあいつのことでいっぱいだ。
一樹はいつも警戒して後ずさる。
だが今の俺には『この家の補修工事をしている』という最大の口実がある。
あいつの日常の隙間に、いくらでも入り込めるのだ。
(勉強だろうが何だろうが……あんな男のことなんか思い出す暇もないくらい、俺の存在で頭いっぱいにさせてやる)
自分がおかしいのは薄々気づいていたが、どうしようもなく、あいつのすべてを見てみたい、と思ってしまった。
一樹は分かりやすく肩を跳ね上げた後、蚊の鳴くような声で挨拶してきた。
「おはようございます」
「…………」
気まずそうに視線を逸らされ、思わず顔をしかめた。
一樹はいつもこうだ。俺を見たくないらしい。
面白くない俺は、横に回り込んで顔を覗き込んだ。
「命の恩人である俺に、その態度はねぇんじゃねーの?」
「は、はぁ……」
たかがぬいぐるみひとつ取ってやっただけだろ、と内心突っ込む。
だが、間近で見つめた一樹の顔は以前よりシャープに削げ、透き通るような白肌にうっすらと黒い隈が浮き出ていた。
(……なんだあいつ、顔色悪すぎだろ。狂ったように受験勉強して参ってんのか……それとも、昨日のあの男の件か?)
理由は分からない。だが、ボロボロになりながら強がっている姿が無性に引っかかった。
胸の奥が苦しくなるような苛立ちと心配が混ざり合い、俺は思わずその華奢な肩に腕を回し、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
「ひぃッ!」
「ぷっ! 怖がりすぎ」
一樹は俺の手の中で小さく縮こまる。
あんな男に一途だったり、命を削るように勉強したりしている癖に、俺の前じゃこんなに脆くて軽々しい。
そのギャップに胸が締め付けられ、俺は誤魔化すように笑った。
一樹は切れ長の目を鋭くして俺を睨みつけてくる。
「あ、あなた、いったい何がしたいんですか! いつもいつも、俺に構いすぎです」
その言葉に、胸の奥がどきりと跳ねた。
(構いすぎ、か……)
一樹に言われて初めて確かに、と自覚する。
確かに俺は、あいつに会えば話しかけたいし、俺をしっかり認識させたい。
昔どこかで見たような強い既視感と、放っておけない危うさ。
それが俺の意識を惹きつけて離さないのだ。
「おいっ、ごらぁ隆太! 早く動けっつってんだよ!」
上からの怒号にはっと我に返った。
俺はひとつの〝もの〟に集中すると、周りが見えなくなる。
「……お前が、おもろいからだよ」
「はぁ?」
「じゃ、俺行くわ。お前……顔色悪すぎだから、勉強ほどほどにしとけよ」
分かりやすく顔を真っ赤にした一樹を置いて、俺は親方のもとへ走った。
(つか、一樹の言う通り……俺、あいつに構いすぎだな)
住む世界が違う。ダチとだって絶対に合わないタイプだ。
普通なら交わるはずもない。
だが、気づけば仕事の合間にあいつの部屋を覗き、行動パターンまで把握しようとしている自分がいる。
「おい隆太! なに手ぇ止めてんだ、釘打ち終わらせろ!」
親方の声に我に返り、俺は手にしていた金づちを力強く振り下ろした。
ガンッ、ガンッ、ガンッ!と大きな音を立て、合板へ五寸釘がめり込んでいく。
身体を動かしていても、頭の中はあいつのことでいっぱいだ。
一樹はいつも警戒して後ずさる。
だが今の俺には『この家の補修工事をしている』という最大の口実がある。
あいつの日常の隙間に、いくらでも入り込めるのだ。
(勉強だろうが何だろうが……あんな男のことなんか思い出す暇もないくらい、俺の存在で頭いっぱいにさせてやる)
自分がおかしいのは薄々気づいていたが、どうしようもなく、あいつのすべてを見てみたい、と思ってしまった。


