はっきりと罵って、俺はやつの細くなった腕を自分の方へ引き寄せた。
「っ!」
奴の頭を無理やり掴んで、唇を奪ってやった。
ごつっと鈍い音を立てて歯が当たる。
「かず……」
再び、引き寄せて二度目のキス。
辺りがざわざわと騒ぎ始めたが、構わない。
俺はこいつが好きだ。誰にどう思われたって、覆ることはしない。
「好きだ」
唇を離し、俺は抑えていた気持ちを吐き出した。
隆太は、かすかに目を見開き、俺を見る。目の奥の熱が、滲みだしていた。
「お前の覚悟、ちゃんと受け取ってやるよ。お前の愛がどれだけ重くても、俺は絶対に逃げないからな」
隆太は、ふっと目を細めて柔らかく笑った。
久しぶりに見た、こいつの笑った顔。
俺は溢れる思いを抑えられない。
大好きなんだ。こいつのことが。
「お前がどれだけ俺のことを好きか、合格して赤い門の前で証明してみろよ……!」
一気に話して、はぁはぁ、と息を上げると、ぷっと盛大に噴き出す音が聞こえてきた。
(ん?)
アハハハと、隆太は大口を開けて笑い転げている。
あれ、ここ感動のシーンじゃなかったっけ。
想像してたのと、違う。
「ちょ、りゅう――」
「……言われなくても証明してやるよ。お前が腰抜かすくらいの点数でな」
「……っ」
そう笑った隆太の瞳が、ほんのり赤い。
笑ってたからか? いや、違う気がする。こいつ、泣いてる。
「一樹」
「えっ、あ……!」
突然力強く抱きしめられ、ドキッと心臓が跳ね上がった。
じんわりと隆太の体温が伝わってきて、胸がいっぱいになった。久しぶりの、隆太だ。
再び涙が込み上げてきたが、必死で耐える。
「絶対にふたりで合格しよう。俺……お前を幸せにしてぇんだよ」
切実で重すぎる愛の言葉を、隆太は耳元で囁く。
でも嬉しかった。俺は純粋に、こいつに幸せにしてもらいたい。
隆太を、信じたい。
ぎゅっと強く抱きしめ返すと、俺は乾いた笑い声を上げた。
「……気が早い。まずは受かってから言え」
「うるせぇな。お前も受かれよ、ちゃんと」
抱きしめ合いながら笑っていると、「急いでくださーい」と、スピーカーの音が聞こえてくる。
名残惜しかったが、ゆっくりと互いに体を離した。
「じゃあな、隆太。また東大(ここ)で会おう」
「おう」
隆太と俺は、それぞれの会場に向かって歩き出す。
だが、やっぱりもう会えなくなるような気もしなくて、俺は思わず振り返った。
「あ……」
隆太も同じタイミングで振り返る。
ばちっと目が合い、俺たちは笑った。
「ありがとう! お前のおかげでここまでこれた」
「それは、こっちのセリフだ」
ずっと伝えたかった。隆太に、ありがとうって。
「一樹、愛してるよ」
隆太は、まっすぐ俺の目を見つめ、言い切った。
ふわっと体が軽くなり、ジン、と冷えているはずの身体が熱くなる。
不思議だ。離れているのに、あいつの体温に包まれているみたいだ。
「……俺も、愛してる。隆太」
涙が溢れてきて、俺は急いで顔を背け、走り出した。
(絶対に、絶対に、受かってやるからな!)
俺はまた、隆太とちいまるが観たい!
一緒に、あのアホと学生生活を送ってみたい!
またダムダムバーガーで、イチャイチャ勉強したい!
まだ、行けていない映画館デートをしたい……!
(好きだ、好きだ、好きだ―――!)
煩悩にまみれた頭のまま、俺は静寂の満ちた大講義室の扉を開いた。
自分の受験番号が貼られた長机の前に腰を下ろし、バックから黒鉛筆を取り出す。
遠く離れた別の教室で、あいつも同じ未来を思い描いてくれているのだろうか。
『絶対にふたりで合格しよう。俺……お前を幸せにしてぇんだよ』
隆太の言葉を思い出し、吐きそうなくらいの緊張が、不思議なほど収まっていく。
(やりきるよ。俺)
頭がどんどんクリアになっていく。
視界の明度が一気に上がっていく――。
(今までの、全部、出し切るだけだ)
カチ、カチと時計の針だけが響く中、俺は配られた解答用紙を静かに開いた。
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