偏差値70だけど、この恋むずすぎ。

 こんなに気が楽なのも、生まれて初めてだった。
 足先の体温が戻ってきて、俺はゆっくりと目を開く。

「……っ」

 辺りは弱々しい街灯の光だけで、底なしの闇が永遠に続いていた。
 俺は急いでバックからちいまるのぬいぐるみを取り出し、力いっぱい抱きしめた。
 暗闇にひとり、放り出されたような気になる。

 自由って怖いな。何も、保証されてなくて。
 自分が誰なのかも、忘れてしまいそうだ。

(隆太も、こういう感覚だったのかな)

 結局、奴の存在が頭を擡げた。
 隆太はあんなに明るく見えるのに、身寄りがいないらしい。
 しかも俺よりずっと小さい頃に、捨てられて孤児院で生活していたのだ。
 あいつなりの考えがあって、社会に出たんだろうが、きっと〝幸せ〟になれると思ったんじゃないだろうか。

 だが、実際はどうだったのだろう。
 自由の身になって、それでも途方もない深い孤独は消えなかったはずだ。

「なぁ、ちいまる。あいつ、やっぱり金だったのかな」

 俺は寝袋も敷かず、その場でごろんと寝転んだ。
 ちいまるは、ずっと俺の胸の中にいる。かすかに、甘い香りが香った。
 俺の香りなのか、隆太の香りなのか、寒さで判別がつかない。

「ふふ……あぁ……めっちゃむかつくけどさぁ……俺とタメなのに、金も稼いで、ひとりで暮らして、しかも学校にも通ってて……マジですげぇなぁ……」

 目からじわっと熱い涙が込み上げ、頬をゆっくりと伝った。
 俺は、頭脳は金をかけてもらって多少はいいかもしれないが、生きる術を何も持っていないことに、この場所で、今更気づく。
 一方で隆太はどうだろう。
 全部、自らの手で生きてるじゃないか。
 奈緒さんが言った通り、俺は本当の意味で、隆太を理解していなかった。

(分かりっこないよな。こんな甘ちゃんの俺にはさ……)

 恨む気なんか、全く起きなくなった。
 屋根もない野ざらしの公園で、隆太にとってもらったちいまるを抱いて、親が用意したものでここに存在している俺が、そんな大それた感情、もっちゃいけない。

 そう、痛感したとき、俺の涙腺が爆発した。
 死ぬほど、泣いた。
 滝汗ならぬ、滝涙。
 全部、全部涙で流れて、明日には記憶が空っぽになっててほしい。
 家族の思い出も、隆太との思い出も。

(神様。まだなんにもなかったころに、戻してください)