偏差値70だけど、この恋むずすぎ。


 文化祭が無事に終わり、俺の残りの高校生活は受験一色に様変わりした。
 クラスメイトは誰ひとりとして、遊んでいる様子はない。
 俺も以前にも増して勉強量を増やし、塾に滞在する時間も増えた。
 だが――。

「一樹、お疲れ」

 塾から出てすぐに、作業着姿の隆太が出迎えてくれる。
 奴は仕事が終わってすぐに、俺の塾まで直行し、近くで時間を潰して待っていてくれる。
 少しでも一緒にいたいという、あいつたっての希望だった。
 ここまでしてもらって申し訳ないという気持ちもあるが、受験勉強の合間に時間を作らないとデートができない。
 少しでも、隆太と一緒にいたかった。

「うん、隆太もお疲れ。今日は飯、どこに行こうか」
「そうだなぁ。ダムダムバーガーにするか!」
「いいな、それ」

 塾から少し歩いたところにある、ダムダムバーガーに入る。

「今日親方がさー、二階から落ちちゃって」
「マジ⁉ やばすぎだろ、それ!」

 普段は全然違う世界で生きているから、隆太の話は、俺にとってすべてが新鮮だった。逆に隆太も、俺の話に興味津々で耳を傾けてくれる。

 ――そんな、他愛のない時間が居心地がよかった。

「一樹、ちょっと耳貸して」
「ん?」

 向かい側にいる隆太が身を乗り出し、ちょいちょい、と手をこちらに手招きするので、俺は素直に従う。

「っ……」

周りには見えないように、掌を壁にして奴は唇を塞いできた。
ペロっと舌を舐め取られ、ドキドキと鼓動が高鳴る。
エロい。誘うような動きだ。

「しょっぺぇな……」

 体を離した隆太は、ぺろっと舌なめずりして微笑んでいる。
 いつも、こうだ。こいつは唐突に、俺の心をかき乱してくる。

「お前なぁ……こんなところで……」
「一樹不足だったんだよ。もっと触りたいけどな」
「試験が終わるまで待ってろよ」

 呆れて言うと隆太は、ふぅ……と残念そうに口をすぼめた。

(俺だって、本当はもっとラブラブしてぇ―――!)

 絶叫したいところだが、必死で耐える。
 とりあえず、塾の模擬試験が近い。
 後期の一番デカい試験ということもあり、今回の結果で、この前期でどれだけ実力が伸びたか測れる。
 時間が経ち、朔と付き合っているときの自分は、まだまだ本気ではなかったと気づいた。
 朔からの裏切りがあってどん底にいたが、若月があのときなんだかんだ傍にいてくれたおかげで勉強に本腰を入れられたのだ。

(なんとかC判定を脱出したいところだが……)

 再びC判定が出たら、さすがに受験校を変える選択も出てくるだろう。
 ここまで頑張ってきたのだ。諦めたくない。

「まぁ、いい。一樹も頑張ってるから、俺もやる」
「お、いいじゃん。分からないところ、なんでも聞いて」
「おう!」

 隆太はにっと口角を上げると、肩に下げていたリュックから参考書を取り出した。
 通信の課題はその日のうちに終わらせているらしく、いつも俺といるときは、自分で買った参考書だった。全教科のまとめと、応用の問題が大量に載っているテキスト。

 どうやら俺と一緒にいるようになり、勉強の楽しさに目覚めたらしい。
 あとは、俺が塾から出てくるまでの時間つぶしをしているのだとか。

「あーくそ、法則ど忘れした。一樹、ここどう解くんだ?」
「見せて」

 寄り添って参考書を見る。ちょっとどきっとして、ちらりと横を見る。
 奴の目は真剣だった。
 朔と一緒に勉強をしていたときは、欲望のまま触ったりキスしたり、やりたい放題だったな……と恥ずかしくなる。
 
 隆太は『やるときは、やる』。
 メリハリがしっかりあるタイプで、勉強のときは一切俺に触れてこない。
 そういう意思がしっかりしたところも、密かに好きだ。

「……一樹、試験が終わったら、息抜きに、少しデートしねぇ?」
「でっ!」
「そんなに時間は取らせないから。数時間。ダメか?」

 隆太は分かれ間際、珍しく真面目なトーンで提案してきた。

「いいよ。付き合ってから、どこも行ってないしな……どこか行きたいところ、あるのか?」

 俺が尋ねると、隆太はにっと笑う。

「ちいまるの映画、やってるだろ。大画面で一緒に観たいんだよ」
「なんだよそれ! めっちゃハマってるじゃん」

『バレたか』と、照れたように笑う隆太に、俺も釣られて笑った。
 元々全然違うタイプの人間なのに、こうして一緒にいる時間を重ねていって、共通の好みができて、思い出も共有できて……。
 隆太と、大学生になってもこうやって一緒に過ごしたい。

 あいつが大工一本になっても、俺が大学生になっても。
 お互いが努力して時間を作って、愛を育んでいきたい。
 隆太となら、できる。
 未来のカタチがどうなっていくのかなんて分からないが、ただただ、こいつと一緒に幸せでいたい。