若月はそう言うと、俺の頭をがしっと掴んで懐に押し付けた。
息が、苦しい。
「わか……つき」
だがそれ以上に、洋服越しに伝わってくる激しい動悸が、愛おしかった。
俺はそっと、目を閉じた。
もうこれ以上、こいつとすれ違いたくない。
重たい沈黙が落ち――「分かった」と小さな声が聞こえてきた。
「もういい。隆太なんて知らない……一樹君と、勝手に仲良くやってればいいじゃない……」
涙が混じった彼女の震えた声が、苦しかった。
「じゃあね、ふたりとも。ちゃんと、幸せになるんだよ」
「……っ!」
だがはっきりと、奈緒さんは最後に俺たちに言葉を残してくれた。
「私、先帰るね」
次の瞬間、遠ざかる足音が聞こえてきた。
しんと静まり返る校舎裏に、俺たちのかすかな息遣いだけが、響いていた。
(あぁ、やばい……今さらめっちゃはずい……)
さっき奈緒さんにぶつけた『愛したいです』という言葉を、若月に聞かれたかもしれない。そう考えると、顔から火が吹きそうだった。
「……一樹」
「あっ……」
ぐっと顔をすくい上げられ、否応なしに、若月の深くて熱い瞳に至近距離で見つめられる。
「『俺ができることは全部して、愛したい』……だっけ?」
「やっぱ、聞いて……」
「それはこっちのセリフだっつーの」
「ンッ……!」
一瞬のことで、訳が分からなかった。
少し硬い若月の唇が、自分の唇に押し当てられる。
「わか、つき……」
そっと唇が離れ、互いの呼吸が交ざるような距離で、昏い瞳と視線が絡んだ。
「お前がその気なら、覚悟しとけよ。俺の愛、すげぇ重いから」
再び唇を塞がれた。
今度は、触れるようなキスなんかじゃない。
俺の全部を奪う――そう、宣言されているような、かぶり付くような、野性的なキスだった。
「……望むところだよ。俺の愛だって、重い……隆太」
唇が離れ、俺は奴に念のために忠告しておいた。
すると隆太は、ふっと笑みを深める。
「最高だな?」
人がいたのか、いなかったのか、そんなの――気にしている暇はなかった。
ただ、こいつの愛に応えたくて。俺の隆太への愛を知ってほしくて、ただただ、キスを交わし続けた――。


