だが彼女はぐっと口を結び、少しだけ黙った後、ふぅう、と大きく深呼吸する。
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど……隆太と一樹君って、どういう関係なの?」
初っ端から核心に迫られて、どきっと心臓が跳ねた。
「どういう関係って……俺たちは、友達です」
「友達? 噓でしょ」
「……っ!」
奈緒さんは語気を強め、一歩、俺に近づく。彼女の透き通った大きな瞳には、うっすらと涙の膜が張っていた。
さっきまでの明るかった奈緒さんの影はなく、溢れ出しそうな感情を必死に抑え込もうと歯を食いしばっている。
「奈緒さん……」
「ただの友達同士がさ、あんなふうに近づく? 一樹君だって隆太のこと好きなんでしょ……!」
奈緒さんは絞り出すように言うと、はぁ、と自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「……ねぇ、一樹君は隆太のどこまでを知ってるの?」
「え……?」
頭が真白になる。
若月のこと――大工で通信制の高校に通っていて、意外と優しいヤンキーで、でも目の奥が暗くて、どこか影のある……。
でも奴の影の正体までは知らない。
俺は表面的なところしか、知らない。
若月は俺に見せたがらない。
言葉に詰まっていると、奈緒さんはふっと皮肉めいた笑みを向けてきた。
「隆太はね……父親が莫大な借金を残して、蒸発してるの。そのときに、母親も男と消えて、あいつはずっと孤児院にいた。私だって、そんなに変わらない。ろくでもない両親のもとに生まれて、たったひとりで、ここまで必死に生きてきたの……」
奈緒さんの悲痛な声が、静かな校舎の裏に響く。
あまりに重い告白だった。
俺は瞬きすら忘れて、その場に立ち尽くすことしかできない。
「恵まれた環境で何不自由なく生まれ育った一樹君に、隆太の本当の気持ちなんて分かりっこないよ。なのにどうして……」
(若月の気持ちを分かってやりたいのに。その想いは本物なのに……)
俺にそれを言う資格すらないような気がしてくる。
ただただ悔しくて、拳を握りしめる。
「申し訳ないけどさ、私は一樹君よりずっとずぅっと……隆太の色んな顔を知ってるの! あいつの汚いところも、泥臭いところもね。どれだけ苦しいときも、歯、食いしばって耐えてきたことも……あたしだけが、知ってるんだよ……っ!」
「奈緒さん……」
奈緒さんはすべてを吐き出すと、はぁはぁと激しく息を上げた。
何も言い返せなかった。
すべて、彼女の言う通りだ。
昔から衣食住に困ったことはない。大体欲しいものは、手に入る人生だった。
だが――一番欲しいものは、いまだに手に入っていない。
心から安心できる、温かい愛。
でもそんなの、若月や奈緒さんの生い立ちに比べたら、ただ甘ったれた戯言だというのも十分理解できた。でも――。
「奈緒さんの言う通り……俺は若月のことを、何も知りません」
「なら――」
「でも、これから全部受け止めていきたいって思ってます!」
俺の言葉に、奈緒さんはびくっと肩を震わせた。
「俺は何も知らないけど、あいつは不器用だけど、心があったかいこと、実はすごく優しいことも知ってる。でも、こんなに人に優し
くできる人が、今まで沢山傷ついてきたのも、分かってます」
そう――分かっている。
若月は、馬鹿そうに見えて、いつも周りに気を配っている。
それは誰より人を見てきたから。
それは誰より、自分がそうしてほしかったからだ。
「あいつが今まで十分に愛情を与えてもらえてなかったんなら、俺ができることは全部して、愛したいです。それじゃ、だめなんですか……」
「一樹くん……」
「若月が話したいと思ってくれる日を、俺は信じたい。俺はもう、あいつを信用してるから、いくらだって待てますよ」
言い終えてから、ドクドクと激しい鼓動の音が、鼓膜に響いた。
悔しかった。
何も話してもらえないのが。何より、自分の想いを奈緒さんに、認めてもらえないのが――。
重たい空気が漂っていると、足音が近づいてくる。
ゆっくりとそちらに視線を送ると、そこに立っていたのは、若月だった。
「りゅ、隆太……なんでこんなところにいるのよ」
「それはこっちのセリフだ。勝手にいなくなりやがって」
若月は、奈緒さんに向かってそう告げると、ふいにこちらに視線を送った。
熱い瞳と、視線が交わる。
「……奈緒、俺は一樹が好きだ」
「っ⁉」
どくっ、と一瞬心臓が止まった。
今、こいつ何言った?
「な……隆太?」
奈緒さんは目を見開いたまま、絶句していた。
振り返った若月は、彼女を見つめたまま口を開いた。
「奈緒。お前が俺を心配してくれてるのは感謝してる。けど、隣にいてほしいのはお前じゃない……一樹なんだ」
「っ……」
奈緒さんの大きな瞳から、ぽろっと涙が溢れる。
若月が俺を選んでくれたのは嬉しい。だが、奈緒さんの気持ちが本気なのも分かってる。だから……胸が締め付けられた。
「これ以上、一樹に余計なことを言うな。大切なんだよ、こいつが」
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど……隆太と一樹君って、どういう関係なの?」
初っ端から核心に迫られて、どきっと心臓が跳ねた。
「どういう関係って……俺たちは、友達です」
「友達? 噓でしょ」
「……っ!」
奈緒さんは語気を強め、一歩、俺に近づく。彼女の透き通った大きな瞳には、うっすらと涙の膜が張っていた。
さっきまでの明るかった奈緒さんの影はなく、溢れ出しそうな感情を必死に抑え込もうと歯を食いしばっている。
「奈緒さん……」
「ただの友達同士がさ、あんなふうに近づく? 一樹君だって隆太のこと好きなんでしょ……!」
奈緒さんは絞り出すように言うと、はぁ、と自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「……ねぇ、一樹君は隆太のどこまでを知ってるの?」
「え……?」
頭が真白になる。
若月のこと――大工で通信制の高校に通っていて、意外と優しいヤンキーで、でも目の奥が暗くて、どこか影のある……。
でも奴の影の正体までは知らない。
俺は表面的なところしか、知らない。
若月は俺に見せたがらない。
言葉に詰まっていると、奈緒さんはふっと皮肉めいた笑みを向けてきた。
「隆太はね……父親が莫大な借金を残して、蒸発してるの。そのときに、母親も男と消えて、あいつはずっと孤児院にいた。私だって、そんなに変わらない。ろくでもない両親のもとに生まれて、たったひとりで、ここまで必死に生きてきたの……」
奈緒さんの悲痛な声が、静かな校舎の裏に響く。
あまりに重い告白だった。
俺は瞬きすら忘れて、その場に立ち尽くすことしかできない。
「恵まれた環境で何不自由なく生まれ育った一樹君に、隆太の本当の気持ちなんて分かりっこないよ。なのにどうして……」
(若月の気持ちを分かってやりたいのに。その想いは本物なのに……)
俺にそれを言う資格すらないような気がしてくる。
ただただ悔しくて、拳を握りしめる。
「申し訳ないけどさ、私は一樹君よりずっとずぅっと……隆太の色んな顔を知ってるの! あいつの汚いところも、泥臭いところもね。どれだけ苦しいときも、歯、食いしばって耐えてきたことも……あたしだけが、知ってるんだよ……っ!」
「奈緒さん……」
奈緒さんはすべてを吐き出すと、はぁはぁと激しく息を上げた。
何も言い返せなかった。
すべて、彼女の言う通りだ。
昔から衣食住に困ったことはない。大体欲しいものは、手に入る人生だった。
だが――一番欲しいものは、いまだに手に入っていない。
心から安心できる、温かい愛。
でもそんなの、若月や奈緒さんの生い立ちに比べたら、ただ甘ったれた戯言だというのも十分理解できた。でも――。
「奈緒さんの言う通り……俺は若月のことを、何も知りません」
「なら――」
「でも、これから全部受け止めていきたいって思ってます!」
俺の言葉に、奈緒さんはびくっと肩を震わせた。
「俺は何も知らないけど、あいつは不器用だけど、心があったかいこと、実はすごく優しいことも知ってる。でも、こんなに人に優し
くできる人が、今まで沢山傷ついてきたのも、分かってます」
そう――分かっている。
若月は、馬鹿そうに見えて、いつも周りに気を配っている。
それは誰より人を見てきたから。
それは誰より、自分がそうしてほしかったからだ。
「あいつが今まで十分に愛情を与えてもらえてなかったんなら、俺ができることは全部して、愛したいです。それじゃ、だめなんですか……」
「一樹くん……」
「若月が話したいと思ってくれる日を、俺は信じたい。俺はもう、あいつを信用してるから、いくらだって待てますよ」
言い終えてから、ドクドクと激しい鼓動の音が、鼓膜に響いた。
悔しかった。
何も話してもらえないのが。何より、自分の想いを奈緒さんに、認めてもらえないのが――。
重たい空気が漂っていると、足音が近づいてくる。
ゆっくりとそちらに視線を送ると、そこに立っていたのは、若月だった。
「りゅ、隆太……なんでこんなところにいるのよ」
「それはこっちのセリフだ。勝手にいなくなりやがって」
若月は、奈緒さんに向かってそう告げると、ふいにこちらに視線を送った。
熱い瞳と、視線が交わる。
「……奈緒、俺は一樹が好きだ」
「っ⁉」
どくっ、と一瞬心臓が止まった。
今、こいつ何言った?
「な……隆太?」
奈緒さんは目を見開いたまま、絶句していた。
振り返った若月は、彼女を見つめたまま口を開いた。
「奈緒。お前が俺を心配してくれてるのは感謝してる。けど、隣にいてほしいのはお前じゃない……一樹なんだ」
「っ……」
奈緒さんの大きな瞳から、ぽろっと涙が溢れる。
若月が俺を選んでくれたのは嬉しい。だが、奈緒さんの気持ちが本気なのも分かってる。だから……胸が締め付けられた。
「これ以上、一樹に余計なことを言うな。大切なんだよ、こいつが」


