偏差値70だけど、この恋むずすぎ。

 朔の時はあんなに素直に思ったことを口にできたのに、若月のかっこよさとか可愛さに圧倒されて、いつも以上にビビりになっている。俺がもっとかっこよかったら、自分から抱きしめられたのにな。


――それからあっという間に、二週間が過ぎ。
 秋晴れの爽やかな空の下、年に一度の大行事『文化祭』が開幕した。

(うわ、すごい人だ……)

 どこからか漂う、お好みソースの香りが食欲をそそる。だが、今の俺に食べ歩きなんてしてる余裕はない。

(急がなくちゃ!)

 人の波をかき分けて、大急ぎで自分のクラスへと前進する。
 その間も、頭の中は若月のことでいっぱいだった。今日、ふたりで少しの時間でも回れたらいいのだが。
 あいつも、その気でいてくれてるのだろうか。

 あちこち体をぶつけながら、なんとか教室の扉を開いた。

「みんな! 卵、なんとかゲットしてきたぁっ!」
「おっしゃ、さすが一樹! んじゃ、そこにある洋服着て接客へGO!」
「承知しましたぁ!」
 俺たちのレトロ喫茶も、おかげさまで大盛況。おもに、女子がインスタ映え目的に押しかけてくれたようで……。よって、ナポリタンやたまごサンドの卵の品切れ続出。俺は接客と買い出しの二刀流をこなしていた。

(そろそろかな、若月……)

 与えられたタキシードを着て、適当に髪を手櫛で整える。
 ポシェットに忍ばせたミラーを見て、軽く塗っておいたファンデーションがヨレてないか確認したが、なんとか大丈夫そうだ。
 するとその姿を近くで見ていたクラスメイトたちが「ひゅう~」と、口笛をふかした。

「やべぇ、なんだよ一樹。男の俺も惚れそうなんだが」
「俺も俺も」
「やめろ、きもちわりぃ」

 じろじろと視線を送ってくるクラスメイトをしっしっと追い払いながら、思わずため息が漏れた。

(毎日若月にキュンキュンしてる俺が、言うセリフではない)

 ごめんな、みんな。きっと俺が一番キモイです。

 気を取り直して全力で接客に当たる。

「お兄さん、一緒に写真撮ってくださーい!」
「あ、いいですよ。俺でよければ」

 お客さんで来てくれた女子中高生の要望に応えていると、突然、ポンっと大きな手が肩に乗った。

「⁉」

 ドキッと心臓が跳ね、恐る恐る後ろを振り向く。

「ちいまる、おす」
「一樹くーん、久しぶり!」

 そこに立っていたのは私服姿の若月と、バッチリメイクを決めた奈緒さんだった。
 黒のカットソーに羽織りを合わせ、ダボっとしたズボンをはいていた。百八十センチ以上ある高身長を存分に生かして、まるでモデルみたいだ。
 隣の奈緒さんも抜群のスタイルを生かしたタイトなワンピを着ている。
 とにかくふたりが揃うと、存在感と圧がすごかった。

(かっこいい……)

 ビジュがよすぎる上に、どこか危険の香りがするふたり組の登場に、周りにいたお客さんたちがざわざしている。

「ちょ、あのお兄さんビジュえぐ……」
「お姉さんの方、インフルエンサーかな? 写真撮ってもらう……?」

(ってか、俺……このふたりを前にして、超恥ずかしいんですけど)

 さっきまでちやほやされて、少々鼻を高くしていたが、呆気なく折られた。

「あ……えっと。いらっしゃいませ……! こちらに、どうぞ……」

 動揺のあまり、ロボットみたいなぎこちない動きで、ふたりを席まで案内する。

「おー、ここだな」

 若月はどかっと豪快に椅子に腰かけると、卓上のメニューをぱっと開いた。

「えーっと……ナポリタン五つ、たまごサンド四つ。クリームソーダひとつ……あと……」
「なんでそんなに注文するんだよ! アホか!」

 あまりの注文量に、思わず怒鳴り散らしてしまった。
 だが若月は至極真面目な顔で俺を見上げてくる。

「あ? 一樹の店が繁盛することを考えたら、食べられるだけ注文するのが、還元するってことじゃねーのか?」
「どんな独自理論だよっ!」

 真顔でトンデモ理論を述べる若月に頭を抱えたそのとき、隣にいた奈緒さんが呆れたように奴の頭をぺしん!と叩いた。

「やめな。あんたが心配しなくたって、見れば分かるでしょ。ここ、言われなくても大繁盛してんだからさ」
「……そか」

 若月があっさり引き下がってくれたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。

(あーよかった、よかった……奈緒様、神様、ありがとう!)

 だが突然、若月がくるっと俺の方を向き直った。

「あ、そうだ。俺とも写真撮れよ! なぁ、ちいまる!」

 子供みたいに目を輝かせる若月に、へ?と首を傾げる。

(あ、これマジなやつ)

 俺は今、はたから見たらヤンキーに絡まれる、タキシードを着た接客係に映っているだろう。
 だが俺には分かる。こいつは茶化してるわけでもなく、冗談でもなく本気で俺と写真を撮りたがっているだということを……。