学祭の話をした瞬間、若月の目がパーッと輝く。
身を乗り出した奴に押されながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「え……あぁ、うん。まぁ、みんなで仲良くやってるけど」
「やべぇな、俺がクラスにいたら机でも椅子でもなんでも作ってやったのにな」
こいつの言っていることは、安易に想像できる。
現に大工としてバリバリ働いているし、以前仕事風景を見せてもらったときに感じたが、絶対に手先も器用なはずだ。
ミリ単位の狂いも許されないような仕事をしているのだから、学祭の看板なんてお手の物だろう。
「もし若月がいたら、確実にクラスの中心だったろうな」
「だろ?」
サクサク作って、みんなに羨望の眼差しを送られていたに違いない。
しかもこんなにも、ビジュがいい。
(男子校だが、若月を狙うやつもいたかもしれない……)
そう考えたら、心底同じ学校じゃなくてよかった。
今は俺が独り占めできるのだから。
「なぁ、ちいまる。俺、その学祭行きてぇな」
「へ? 勿論いいけど……誰でも入れるし」
「しゃあ! ちいまる、いっぱい食いに行くから覚悟しろよ!」
子供みたいに無邪気に笑う若月に釣られて、俺も顔が緩んだ。
普段は余裕たっぷりに笑ったり、おちょくってきたり大人びた顔ばかりする若月だが、今、目の前にいるこいつは、俺と変わらない十七歳に見えた。
普段とのギャップに、きゅんと胸が締め付けられる。
あぁ、こんな強面が可愛いと思うなんて。こんなに心を乱されて。
俺は来るところまで、来てしまったのだろう。
「学祭ってどんなんなんだ。見当もつかねえ」
「それはおかしいだろ。中学の時は参加しなかったの? 学祭はあっただろ?」
俺が尋ねると、若月は笑顔を消して、どさっとベッドの淵にもたれかかった。
「まぁ、あったけどさ。俺には無縁だったつーか」
「それは」
「どいつもこいつも、親に甘えて生きてるって感じでガキ臭く見えて学校にまったく行ってなかった。まぁ、今となっちゃ、自分がガキだったって分かったけど」
「若月……」
うっすらと目を開けた若月は、窓の外の、遠くを見ていた。
こいつには今、何が見えているのだろう。
もう戻ってこない、過去なのだろうか。
無邪気に笑ったと思ったら、急にどこまでも大人びた顔をする。
今の若月は、今までみたどんな顔よりも、冷めて見えた。
「あのさ、若月は……自分の話、一切、しないよな」
「あ?」
イラついた顔で振り返った若月を、まっすぐ見据える。
怖くても、恥ずかしくても、俺はどうしても伝えたかった。
「若月はいつも俺の話は沢山聞いてくれるだろ。だから、俺だって……若月のことも、もっと知りたいんだ。その、友達だろ? 俺たち」
俺の言葉に、若月は固まっていた。
少し間を置いて、突然、ぐっと頭を掴まれる。
「わっ」
ドキッと心臓が跳ねた直後、ごつんっとこもった音を鳴らして、奴の額と自分の額がぶつかる。
「ってぇ!」
「俺はちいまるのこと、ダチとは思ってない」
「は? じゃあ、なんだよ……っ!」
めちゃくちゃショックだった。意を決して歩み寄ったのに、玉砕とは。
やっぱりヤンキーとガリ勉陰キャは、融合できないってか!
「……ちいまるのこと、可愛いって思ってるぞ。俺は」
「ん……?」
一瞬、息が止まった。
可愛い? 俺が? ど、どゆこと?
ちらりと視線を上げるが、若月とは目が合わなかった。
奴は珍しく、うつむいている。
「俺は、お前がいる学祭だから行ってみたい。どうでもいい奴だったら、行かねぇよ」
「……っ、そ、そうなのか」
そっと囁かれて、びく、と肩が震える。
こいつの洋服にへばりついた、特有の甘い香り。やたらと低い声。熱い体温。
俺の五感が過敏に若月を感知してる。
好きだから。若月に触れてもらいたいからだ。
「若月が来るの、楽しみにしてる。ってことで勉強しよう、うん!」
「だな」
ふっと手が離れて、俺はその熱い体温から解放された。
額に汗が滲んでいる。
いつもより、若月の体温も高かったような……。
その後は、少し気まずい空気を感じつつも、お互いに普段通り振舞っていた。
やがて時間がきて、若月が「また勉強教えてな!」と笑顔で帰っていった。
(うう、緊張したぁ~!)
バタン、と部屋のドアが閉まり、俺はふぅ~と安堵の息を吐きながら、ベッドの上に腰掛ける。
その拍子に、ぴょんっとベッドのスプリングにはじかれてそこにいたちいまるがコロン、と転がった。
「ああ、ちいまる待って」
ちいまるを抱き上げた拍子に、ふわっと若月の甘い香りがかおってきた。
(あ、やべ……)
さっき、あいつが抱きしめすぎたから香りが移ったのだ。
俺はつい、誰も見ていないのをいいことに、ちいまるをぎゅっと抱きしめた。あいつが抱きしめた以上の、怪力で。
「あぁ、意外といい匂いだな。好き、めっちゃ好きかも……」
身を乗り出した奴に押されながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「え……あぁ、うん。まぁ、みんなで仲良くやってるけど」
「やべぇな、俺がクラスにいたら机でも椅子でもなんでも作ってやったのにな」
こいつの言っていることは、安易に想像できる。
現に大工としてバリバリ働いているし、以前仕事風景を見せてもらったときに感じたが、絶対に手先も器用なはずだ。
ミリ単位の狂いも許されないような仕事をしているのだから、学祭の看板なんてお手の物だろう。
「もし若月がいたら、確実にクラスの中心だったろうな」
「だろ?」
サクサク作って、みんなに羨望の眼差しを送られていたに違いない。
しかもこんなにも、ビジュがいい。
(男子校だが、若月を狙うやつもいたかもしれない……)
そう考えたら、心底同じ学校じゃなくてよかった。
今は俺が独り占めできるのだから。
「なぁ、ちいまる。俺、その学祭行きてぇな」
「へ? 勿論いいけど……誰でも入れるし」
「しゃあ! ちいまる、いっぱい食いに行くから覚悟しろよ!」
子供みたいに無邪気に笑う若月に釣られて、俺も顔が緩んだ。
普段は余裕たっぷりに笑ったり、おちょくってきたり大人びた顔ばかりする若月だが、今、目の前にいるこいつは、俺と変わらない十七歳に見えた。
普段とのギャップに、きゅんと胸が締め付けられる。
あぁ、こんな強面が可愛いと思うなんて。こんなに心を乱されて。
俺は来るところまで、来てしまったのだろう。
「学祭ってどんなんなんだ。見当もつかねえ」
「それはおかしいだろ。中学の時は参加しなかったの? 学祭はあっただろ?」
俺が尋ねると、若月は笑顔を消して、どさっとベッドの淵にもたれかかった。
「まぁ、あったけどさ。俺には無縁だったつーか」
「それは」
「どいつもこいつも、親に甘えて生きてるって感じでガキ臭く見えて学校にまったく行ってなかった。まぁ、今となっちゃ、自分がガキだったって分かったけど」
「若月……」
うっすらと目を開けた若月は、窓の外の、遠くを見ていた。
こいつには今、何が見えているのだろう。
もう戻ってこない、過去なのだろうか。
無邪気に笑ったと思ったら、急にどこまでも大人びた顔をする。
今の若月は、今までみたどんな顔よりも、冷めて見えた。
「あのさ、若月は……自分の話、一切、しないよな」
「あ?」
イラついた顔で振り返った若月を、まっすぐ見据える。
怖くても、恥ずかしくても、俺はどうしても伝えたかった。
「若月はいつも俺の話は沢山聞いてくれるだろ。だから、俺だって……若月のことも、もっと知りたいんだ。その、友達だろ? 俺たち」
俺の言葉に、若月は固まっていた。
少し間を置いて、突然、ぐっと頭を掴まれる。
「わっ」
ドキッと心臓が跳ねた直後、ごつんっとこもった音を鳴らして、奴の額と自分の額がぶつかる。
「ってぇ!」
「俺はちいまるのこと、ダチとは思ってない」
「は? じゃあ、なんだよ……っ!」
めちゃくちゃショックだった。意を決して歩み寄ったのに、玉砕とは。
やっぱりヤンキーとガリ勉陰キャは、融合できないってか!
「……ちいまるのこと、可愛いって思ってるぞ。俺は」
「ん……?」
一瞬、息が止まった。
可愛い? 俺が? ど、どゆこと?
ちらりと視線を上げるが、若月とは目が合わなかった。
奴は珍しく、うつむいている。
「俺は、お前がいる学祭だから行ってみたい。どうでもいい奴だったら、行かねぇよ」
「……っ、そ、そうなのか」
そっと囁かれて、びく、と肩が震える。
こいつの洋服にへばりついた、特有の甘い香り。やたらと低い声。熱い体温。
俺の五感が過敏に若月を感知してる。
好きだから。若月に触れてもらいたいからだ。
「若月が来るの、楽しみにしてる。ってことで勉強しよう、うん!」
「だな」
ふっと手が離れて、俺はその熱い体温から解放された。
額に汗が滲んでいる。
いつもより、若月の体温も高かったような……。
その後は、少し気まずい空気を感じつつも、お互いに普段通り振舞っていた。
やがて時間がきて、若月が「また勉強教えてな!」と笑顔で帰っていった。
(うう、緊張したぁ~!)
バタン、と部屋のドアが閉まり、俺はふぅ~と安堵の息を吐きながら、ベッドの上に腰掛ける。
その拍子に、ぴょんっとベッドのスプリングにはじかれてそこにいたちいまるがコロン、と転がった。
「ああ、ちいまる待って」
ちいまるを抱き上げた拍子に、ふわっと若月の甘い香りがかおってきた。
(あ、やべ……)
さっき、あいつが抱きしめすぎたから香りが移ったのだ。
俺はつい、誰も見ていないのをいいことに、ちいまるをぎゅっと抱きしめた。あいつが抱きしめた以上の、怪力で。
「あぁ、意外といい匂いだな。好き、めっちゃ好きかも……」


