偏差値70だけど、この恋むずすぎ。

 見ず知らずの男に、醜態を晒してしまってから俺はあくる日もあくる日も悪夢にうなされた。
 某巨人の漫画ごとく、自分より数倍以上もデカい巨人に食われる夢だ。

『うわあああああ』

 しかも、ただの巨人じゃない。金髪で、やたらとビジュがいいのが腹が立つ。
 今日も今日とて巨人に食われそうになったところで――。
 ガガガ、と鈍くて硬い音が、俺を強制的に夢から叩き起こした。

「つぅ……」

 薄目を開けて壁掛け時計を確認すると、時刻は午前八時半。
 一瞬遅刻した!と背筋を冷やすが、すぐに我に返った。

(いや、今日は休みだ。もう少し寝る!)

 強い意志でぐっと目を強く閉じるが、今度はさらに大きな音でゴゴゴゴ、という鈍い音とともに、部屋全体が揺れた。
 意識を睡眠に向けようとすると、すかさず騒音に阻まれる。
 家の工事といえど、さすがに自分の自由は奪われたくない。
 勢いよく布団を被って耳を塞ぐが、容赦なく工事音が部屋を揺らした。

「あぁ、もう……!」

 むくり、と重い体を起こし、俺はすっかり冴えてしまった頭でスマホに手を伸ばした。

(今から近所のカフェで自習でもしようかな……)

 もうすぐ、塾の模試がある。前期の中で一番大きな模試とあって、今後の受験対策の方針に大きく関わってくるらしい。だからだろうか、いつも賑やかな塾もここ最近は少しぴりついた空気が漂っているのだ。

「朔う……」

 少しすると、すぐに朔の存在が頭を埋め尽くした。
 今日は土曜日。朔は学校も料理教室も休みだ。
 数日前に会ったばかりだが、最後はバタバタと別れてしまったので、もう少し話したかったという気持ちをずっと抱き続けていた。
 早速ラインでメッセージを送ってみるが、なかなか既読にならない。

「あー腹減った……なんか食いもんあるかな」

 適当にその辺に落ちていたTシャツを羽織り、お気に入りのジーンズを履き、デスクにどさっと置かれていたバッグを肩にかけ、俺は自分の部屋を出て、両親が暮らす母屋へと向かう。

「あ、ゼリーとサンドイッチあるじゃん」

 ビニールの蓋が取り辛いタイプの容器に入った、高そうなゼリー。そしてやたら色鮮やかな野菜が覗いている、ライ麦タイプのサンドイッチだ。

(全然好きじゃない。セブンのサンドイッチの方が百倍美味しい)

 だが背に腹は代えられない。
 母親が仕事帰りに自分のために買ってきたものだとは思うが、遠慮せずにいただく。
 冷蔵庫にあるものはなんだって食べて言いと言われているし、いつだってデリバリーを呼んでいいと言われている。
 そもそも父親からブラックカードももらっているし(所詮、家族カードなのだが)、別に好きなものは好きなだけ食べられる。
 
 俺は適当にお皿に乗せ、チンしたサンドイッチをテーブルに置き、一目散にかぶりついた。
 
「まっず!」
  
 ……いや、誰かが作った料理に対してまずい、は失礼だ。
 世間一般からしたらこういう健康志向なサンドイッチが好まれているのかも。
 そう自分に言い聞かせるのだが、朔が作ってくれる和食っぽい弁当だったり、夜食用のお惣菜が世界で一番大好きだ。
 ときどき交ざっている冷凍の唐揚げも、ポテトも美味い。
 作りたての料理は、冷めているはずなのに不思議と温度を感じる。それに、一生懸命俺のためを想って作ってくれたと考えたら、無性に嬉しくなる。

(朔のことを考えてたら、マジで今すぐ朔に会いたくなってきた)

 静まり返ったスマホを手に、LINEを確認するが、朔からのメッセージはきていなかった。それどころか、既読にもなっていない。

(まだ寝てるのかな)
 
 朔は基本的に即既読にしてくれるし、なるべく早く返事をくれるのだが、今日はなかなか遅い。
かれこれ俺がメッセージを送って約四十分も返事がないなんて。