遅れて顔が真っ赤になって、言葉が上手く出てこない。
「惚れてるとかじゃない。でもまぁあの……普通にかっこいいなと」
「もう一回言って。聞こえねぇ」
「くそ、いじわる」
にやりと若月が笑った、その時だった。
「ちょっと隆太ぁ! あんた何勝手にカルビ総取りしてんのよッ!」
先ほどのグラマラスなお姉さんが、手に缶チューハイを持ったままバタバタと駆け寄ってきた。
派手なショッキングピンクのビキニの上に、ざっくりとしたグレーのオーバーサイズのパーカーを羽織った姿も、垢抜けていておしゃれだ。
そして、彼女は当然のような顔でその露出度が高い恰好のまま、若月の太い腕に自分の腕を絡め、むにっと抱きつく。
あいつの上腕二頭筋に、大きな胸が当たっているのを見て、ズキッと胸が痛んだ。
(あ……なんで……)
別にふたりがどんな関係だって、俺には関係ない。
そんなことばかり、頭で繰り返し言い聞かせる。
「なんだよ、奈緒、肉ならまだ奥で焼いてただろうが」
「そういう問題じゃないの! こっちはお腹空かせてアンタが来るのを待ってたのに……って、さっきからすごい親しげじゃん。あなた、隆太の何友なわけ?」
「え……」
若月に腕を絡めたまま、お姉さん――奈緒と呼ばれた彼女が、好奇心に満ちた目で俺をじーっと覗き込んできた。
すると若月が、めんどくさそうにふぅうと、大きく息を吐く。
「俺が前に現場で行ったお屋敷の坊ちゃんの一樹だ。……おい奈緒、ベタベタくっつくな。マジ暑い」
「いーじゃん、ケチ! ふーん……一樹くんねぇ。もしかして隆太が言ってた『ちいまる』って君のこと?」
(てか若月のこと……隆太って呼んでる)
互いに親しげに呼び捨てだ。
何より若月に遠慮なく触れ合うその距離感に、正直動揺した。
胸がスッと冷えて、苦しくなった。
(この感情、知ってる。前にあった。こんなこと……)
そんな俺とは裏腹に、若月はなんてことないように奈緒さんの綺麗なおでこをツンと人差し指で押した。
「おい、気安く一樹のことをちいまるって呼ぶな。俺だけの特権なんだからよ」
「なにそれぇッ」
「いやいや、美女に呼ばれるのは本望です! 全然ちいまるって呼んでください」
すかさず俺がフォーローすると、若月は不満そうにむすっとした。
奈緒さんは「隆太が怖いからやーめよ」って言って諦めてくれたが
「つか、ちいまる呼びは、いつからお前専用になったんだよ」
「今、この瞬間から」
「あほか」
すると若月は再び俺を見た。
「ちいまる、このエロい女は奈緒だ。見た目はこんなだが、一応四歳上だからちゃんと敬えよ。敬語は必須!」
「ならお前も敬語な!」
ふたりの軽快なやり取りに、思わずぷっと噴き出した。
「漫才夫婦ですか。ふたりとも」
「えーなんかそれ古臭い! 漫才カップルの方がよさげ!」
「奈緒とは結婚できねえ、こええもん」
「うざっ」
奈緒さんは思い切り隆太の肩をはたいている。
「いでっ」とむくれた若月は、いつも以上に子供っぽく見えた。
(あー……なんか、このふたり、めっちゃお似合いじゃん)
若月も奈緒さんその後も、俺と西本がこの場に慣れるように、積極的に話を振ってくれたり、ご飯を気遣ってくれたり優しかった。
「奈緒、酒足りてる?」
「うん、大丈夫だよ。隆太!」
俺の前ではわざと喧嘩したりして見せたふたりだったけど、お互いにいい距離で気を遣っていて息がぴったりだった。
(あぁ、なんかいいな)
ガタイがよく、端正な顔立ちの若月と、スタイル抜群で誰が見ても美人だな、と思う奈緒さんは、はたから見てもお似合いだった。
さっき感じた胸の苦しさの正体が分かった。
奈緒さんに太刀打ちできないって、本能的に感じたからだ。
(あぁ俺、いつの間にこんなにあいつのこと、気になってたんだろう)
今、気づいてしまった。
俺――知らないうちに、若月のこと恋愛対象として好きになっていたらしい。
「よっしゃ、じゃあ次はババ抜きで勝負~!」
食事が終わり、みんなで軽くしゃべった後、トランプ大会が始まった。
圧倒的強者の奈緒さんが何度目かのトランプを切り始め、「負けたやつは罰ゲームな!」と周りもヒートアップしてきた。
(ずっとここにいたいけど、そろそろ帰らなくちゃな……)
腕時計は十六時を示している。
合宿所の戻り時間は十八時と決まっている。
そろそろ講師も様子を見に部屋にやってくるかもしれない。
その時だった。
突然、グイッと、手首を掴まれた。
「うわっ……⁉」
驚いて振り返ると、若月が人差し指を口元に当てて「しっ」と笑っていた。
みんながトランプの配布に夢中になっている隙を突いて、あいつは俺の手首を引いたまま、スルリと海の家を抜け出す。
「ちょ、若月……っ! みんなトランプ始めてるのに……!」
「いいんだよ、あいつら放っておけば朝まで騒いでんだから。……ちょっと付き合え」
(あ……)
「惚れてるとかじゃない。でもまぁあの……普通にかっこいいなと」
「もう一回言って。聞こえねぇ」
「くそ、いじわる」
にやりと若月が笑った、その時だった。
「ちょっと隆太ぁ! あんた何勝手にカルビ総取りしてんのよッ!」
先ほどのグラマラスなお姉さんが、手に缶チューハイを持ったままバタバタと駆け寄ってきた。
派手なショッキングピンクのビキニの上に、ざっくりとしたグレーのオーバーサイズのパーカーを羽織った姿も、垢抜けていておしゃれだ。
そして、彼女は当然のような顔でその露出度が高い恰好のまま、若月の太い腕に自分の腕を絡め、むにっと抱きつく。
あいつの上腕二頭筋に、大きな胸が当たっているのを見て、ズキッと胸が痛んだ。
(あ……なんで……)
別にふたりがどんな関係だって、俺には関係ない。
そんなことばかり、頭で繰り返し言い聞かせる。
「なんだよ、奈緒、肉ならまだ奥で焼いてただろうが」
「そういう問題じゃないの! こっちはお腹空かせてアンタが来るのを待ってたのに……って、さっきからすごい親しげじゃん。あなた、隆太の何友なわけ?」
「え……」
若月に腕を絡めたまま、お姉さん――奈緒と呼ばれた彼女が、好奇心に満ちた目で俺をじーっと覗き込んできた。
すると若月が、めんどくさそうにふぅうと、大きく息を吐く。
「俺が前に現場で行ったお屋敷の坊ちゃんの一樹だ。……おい奈緒、ベタベタくっつくな。マジ暑い」
「いーじゃん、ケチ! ふーん……一樹くんねぇ。もしかして隆太が言ってた『ちいまる』って君のこと?」
(てか若月のこと……隆太って呼んでる)
互いに親しげに呼び捨てだ。
何より若月に遠慮なく触れ合うその距離感に、正直動揺した。
胸がスッと冷えて、苦しくなった。
(この感情、知ってる。前にあった。こんなこと……)
そんな俺とは裏腹に、若月はなんてことないように奈緒さんの綺麗なおでこをツンと人差し指で押した。
「おい、気安く一樹のことをちいまるって呼ぶな。俺だけの特権なんだからよ」
「なにそれぇッ」
「いやいや、美女に呼ばれるのは本望です! 全然ちいまるって呼んでください」
すかさず俺がフォーローすると、若月は不満そうにむすっとした。
奈緒さんは「隆太が怖いからやーめよ」って言って諦めてくれたが
「つか、ちいまる呼びは、いつからお前専用になったんだよ」
「今、この瞬間から」
「あほか」
すると若月は再び俺を見た。
「ちいまる、このエロい女は奈緒だ。見た目はこんなだが、一応四歳上だからちゃんと敬えよ。敬語は必須!」
「ならお前も敬語な!」
ふたりの軽快なやり取りに、思わずぷっと噴き出した。
「漫才夫婦ですか。ふたりとも」
「えーなんかそれ古臭い! 漫才カップルの方がよさげ!」
「奈緒とは結婚できねえ、こええもん」
「うざっ」
奈緒さんは思い切り隆太の肩をはたいている。
「いでっ」とむくれた若月は、いつも以上に子供っぽく見えた。
(あー……なんか、このふたり、めっちゃお似合いじゃん)
若月も奈緒さんその後も、俺と西本がこの場に慣れるように、積極的に話を振ってくれたり、ご飯を気遣ってくれたり優しかった。
「奈緒、酒足りてる?」
「うん、大丈夫だよ。隆太!」
俺の前ではわざと喧嘩したりして見せたふたりだったけど、お互いにいい距離で気を遣っていて息がぴったりだった。
(あぁ、なんかいいな)
ガタイがよく、端正な顔立ちの若月と、スタイル抜群で誰が見ても美人だな、と思う奈緒さんは、はたから見てもお似合いだった。
さっき感じた胸の苦しさの正体が分かった。
奈緒さんに太刀打ちできないって、本能的に感じたからだ。
(あぁ俺、いつの間にこんなにあいつのこと、気になってたんだろう)
今、気づいてしまった。
俺――知らないうちに、若月のこと恋愛対象として好きになっていたらしい。
「よっしゃ、じゃあ次はババ抜きで勝負~!」
食事が終わり、みんなで軽くしゃべった後、トランプ大会が始まった。
圧倒的強者の奈緒さんが何度目かのトランプを切り始め、「負けたやつは罰ゲームな!」と周りもヒートアップしてきた。
(ずっとここにいたいけど、そろそろ帰らなくちゃな……)
腕時計は十六時を示している。
合宿所の戻り時間は十八時と決まっている。
そろそろ講師も様子を見に部屋にやってくるかもしれない。
その時だった。
突然、グイッと、手首を掴まれた。
「うわっ……⁉」
驚いて振り返ると、若月が人差し指を口元に当てて「しっ」と笑っていた。
みんながトランプの配布に夢中になっている隙を突いて、あいつは俺の手首を引いたまま、スルリと海の家を抜け出す。
「ちょ、若月……っ! みんなトランプ始めてるのに……!」
「いいんだよ、あいつら放っておけば朝まで騒いでんだから。……ちょっと付き合え」
(あ……)


