偏差値70だけど、この恋むずすぎ。

 一か月前よりも日焼けをした若月が、そこにいた。
 黒のサーフパンツを履いて、上半身は裸体だ。
 バッキバキに腹筋がシックスパックになっていて、思わず凝視してしまった。
(こいつ、こんなにすげー体してたのか)
 もちろん筋肉がすごいのはひしひしと伝わっていたのだが、ここまでとは。
 金髪で眼光の鋭い、柄の悪さはあの時と何も変わらなくて、ちょっとだけ安心した。

「えぇッ、嘘! 一樹の知り合いなの?」

 西本が目をまん丸にして絶叫した。うん、そうなるよね。俺が逆の立場でもそうなる。
 俺は西本にぎこちなく笑いかけた後、再び若月を見た。

「なんで、こんなところにいるんだ……?」

 緊張で声が震えた。
 だって、ずっと会いたかったんだぞ。こんな偶然あるのかよ。
 すると、若月はにこっと無邪気に笑い、海の家を指さす。

「今日は通信のクラスメイトたちと遊びに来た。一緒に飯食おうぜ!」
「は⁉」

 若月にぐいっと強引に腕を引かれ、つんのめる。

「ちょ、離せ!」

(俺たちが、あの集団に……?)

 確かに若月には会いたかった。
 だが見るからに派手な連中のやつらに交じって飯を食うなんてハードルが高いこと、できない!

「おら、行くぞ! えっと、君はなんて名前? ちいまる二号?」
「いえ、西本っていいます! お兄さん、めっちゃかっこいいっすね!」

 キラキラと目を輝かせる西本に、ずっこけそうになる。
 案の定、言われた本人はまんざらでもない表情でニッと口角を上げていた。

「そうか? お前、めっちゃ良いやつだな! いっぱい飯食っていけよ」
「おっす!」

(西本! 無駄にコミュ力高いのやめてぇー!)

 どうやら、西本は相当若月の容姿が気に入ったらしい。
 全然コミュニティが違うのに、なんとか馴染もうとしている姿を見て、そう感じた。
 しかも若月も分かりやすくニコニコしていて、まんざらでもなさそうだ。

「あ、やっと戻ってきた~! って、何その人たちッ!」

 海の家に到着するや否や、グラマラスボディの超絶綺麗なお姉さんに、ぎょっとされる。

「俺のダチのちいまる。あと、その隣はえっと……」
「西本です!」

 西本が食い気味で言うと、わっとその場にいた人たちが歓声を上げる。
 先ほど聞こえてきた騒がしい声に構えていたが、よく見るとみんな俺たちと年齢が近いように見えた。

「隆太の思い付きで集まったけど、結構な人数になったよなぁ」

 どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。
 どうやらこの会は、あいつが主催のようだ。

 若月みたいな見た目が派手な奴も、俺みたいに見た目が地味な人もいる。
 中には少し年上かな?と思う大人が何人かいたが、きっと通信制の学校なので、年齢も様々なのだろう。

「えー、ふたりとも男同士でなんで海なんてきたの?」
「もしかしてナンパ目的?」

 ニヤニヤしながら、派手な見た目の男女が声をかけてくる。

「いや違うっすよ……俺たちその豚小屋で、ずっと缶詰っす!」
「え、何、どゆこと?」

 西本が武勇伝を語るように、この過酷な四日間の合宿の話をみんなに聞かせている。
 正直、大勢の前でこんなに堂々と話せない。
 なんか気恥ずかしいし、引かれるんじゃないかと思うし。

「……つーわけでっ! 俺たち狂いそうになって、ここにきたんすよ!」
「よく来たね~! ここで全部忘れちゃいな!」
「数式は忘れたくなーい!」

 もうすっかりみんなに溶け込んでいる西本を遠くで眺めていると、突然、むにっと頬を摘ままれた。

「ってぇ、何すんだ」
「運命の再会が信じられなくて、確かめ中」

俺も、夢かと思うよ。でも、マジでほっぺ痛いから、夢ではない。
 
「自分のほっぺでやれよ、アホ」
「いてぇじゃんか」
「むかつく」
 
 すると若月が急にじっと俺を見る。その端正な顔に見つめられて、心臓がドキドキと激しいリズムを打ち始めた。

「ゆっくり寝かせてやりてぇところだけど、とりあえず飯食えよ」
「う、うん」

 若月は鉄板の上にあった焼き立てのカルビや焼きそばをトングでガシガシと掴むと、俺の目の前の皿へ小山のように盛り付けていく。

「ほら、食え食え! お前、細いくせに意外と食うだろ。勉強で脳みそ使ってんなら、しっかり肉食っとかねぇとバテるぞ」
「ちょっ……こんなに食えるか!」
 身を乗り出してきた若月の胸板が、目の前に迫りくる。
 さっきも感じてたが、こいつの身体、大人のトレーナー並みにデカい。
 大工仕事を何年もやって鍛え上げられた体は、分厚くて、血管もはっきりと浮き出ている。
 素直に同い年の男として、純粋に憧れるほど、イケていた。
 こそこそ魅入っていると、急にあいつが振り返った。

「おい、見すぎ。惚れたか?」
「は⁉」

 図星を突かれて、どきーっと心臓が漫画みたいな音を立てた。