偏差値70のイレギュラーな恋

「あの、若月。この人たちってなんの集まりなの?」

 恐る恐る奴に尋ねると「ん?」と笑顔で振り返った。

「俺のクラスのダチ。中には地元の友達も混じってるけどな! せっかく三年生最後の夏だし、みんなで思い出作ろうって話になった」

「なるほどな」

 納得した。
 若月みたいな見た目が派手な奴も、俺みたいに見た目が地味な人もいる。
中には少し年上かな?と思う大人が何人かいたが、きっと通信制の学校なので、年齢も様々なのだろう。

「えー、ふたりとも男同士でなんで海なんてきたの?」
「もしかしてナンパ目的?」

 ニヤニヤしながら、派手な見た目の男女が声をかけてくる。

「いや違うっすよ……俺たちその豚小屋で、ずっと缶詰っすw」
「え、何、どゆこと?」

 西本が武勇伝を語るように、この過酷な四日間の合宿の話をみんなに聞かせている。
 正直、大勢の前でこんなに堂々と話せない。
 なんか気恥ずかしいし、引かれるんじゃないかと思うし。

「……つうことで、俺たちついに限界がきてサボってここにきたんだよね~」
「わぁ、すごいね! さすが名門校に通う秀才は違うわ!」
「そうかな~?」

 もうすっかりみんなに溶け込んでいる西本を遠くで眺めていると、突然、むにっと頬を摘ままれた。

「わ、なにすんのッ!」

(急に腹が立つな!)

 案の定、いたずらっぽく笑う若月がそこにいた。

「やるじゃん。いつからそんな度胸ついたんだよ」
「う、うるさいな。限界だったんだよ!」
「かわいそ」

 そういった若月が急にじっと俺を見る。その端正な顔に見つめられて、心臓がドキドキと激しいリズムを打ち始めた。

「ゆっくり寝かせてやりてぇところだけど、とりあえず飯食えよ」
「う、うん」

 若月は鉄板の上にあった焼き立てのカルビや焼きそばをトングでガシガシと掴むと、俺の目の前の皿へ小山のように盛り付けていく。

「ほら、食え食え。お前、細いくせに意外と食うだろ。勉強で脳みそ使ってんなら、しっかり肉食っとかねぇとバテるぞ」
「ちょっ……こんなに食べきれないってッ!」

 と言いつつも、胃袋を刺激する香ばしい匂いに思わず唾を呑み込む。
 俺のために世話を焼いてくれる若月の姿がくすぐったくて、同時に嬉しかった。

(やっぱ、若月ってすげぇ優しいよな)

その時だった。

「ちょっと隆太ぁ! あんた何勝手にカルビ総取りしてんのよッ!」

 先ほどのグラマラスなお姉さんが、手に缶チューハイを持ったままバタバタと駆け寄ってきた。
 そして、当然のような顔で若月の太い腕に自分の腕を絡め、むにっと抱きつく。

「あ? なんだよ奈緒、肉ならまだ奥で焼いてただろ」
「そういう問題じゃないの! こっちはお腹空かせてアンタが来るのを待ってたのに……って、さっきからすごい親し気だけど、隆太の何友なわけ?」
「え……」

 若月に腕を絡めたまま、お姉さん――奈緒と呼ばれた彼女が、好奇心に満ちた目で俺をじーっと覗き込んできた。
 すると若月が、めんどくさそうにふぅうと、大きく息を吐く。

「俺が前に現場で行ったお屋敷の坊ちゃんの一樹だ。……おい奈緒、ベタベタくっつくな。マジ暑い」
「いーじゃん、ケチ! ふーん……一樹くんねぇ。もしかして隆太が言ってた『ちいまる』って君のこと?」

(てか若月のこと……隆太って呼んでる)

互いに親しげに呼び捨てだ。
何より若月に遠慮なく触れ合うその距離感に、正直動揺した。
胸がスッと冷えて、苦しくなった。

(この感情、知ってる。前にあった。こんなこと……)

 そんな俺とは裏腹に、若月はなんてことないように奈緒さんの綺麗なおでこをツンと人差し指で押した。

「おい、気安く一樹のことをちいまるって呼ぶな。俺の特権なんだからよ」
「なにそれぇッ」
「……っ」

 俺も、奈緒さんと一緒に「なんだよそれ!」って叫びそうになった。

(ちいまる呼びは、いつからお前専用になったんだよ)

 そう思うのに、声にならなかった。
 さっき感じていた胸の冷えが嘘みたいになくなる。同時に、少し口角が緩んだ。
 すると若月は再び俺を見た。

「ちいまる、このエロい女は奈緒だ。見た目はこんなだが、一応四歳上だからちゃんと敬えよ。敬語は必須!」
「ならお前も敬語な!」

 ふたりの軽快なやり取りに、思わずぷっと噴き出した。

「あぁ、一樹君笑ったぁ! ひどい~!」

 奈緒さんは笑い転げる俺の肩をわざとらしく激しく揺する。

(奈緒さん……怖い人かなってちょっと思ったけど、全然だ)

 若月も奈緒さんその後も、俺と西本がこの場に慣れるように、積極的に話を振ってくれたり、ご飯を気遣ってくれたり優しかった。